第17話 死力を尽くした勝利

 ミゲルが去った後、カイは支えながら立ち上がる。

 カイの右手は未だに熱で皮膚ひふがはりついてしまった剣が握られている。

 クロは困惑したようにカイを見つめる。



「ミャー達はこれからどうすればいいのかニャ……?」


「まだサイラス軍は残っているし、君達の安全が保障ほしょうされたわけじゃない」


「それなら心配いりません。今回はラミア様とクロ様を守っていただき感謝します。だが、王女達をキリアに預けることなどできません」



 しかし、カイは首を横に振る。



「今のカルバにラミアとクロを守れるだけの兵力があるとは思えない。カルバ兵は最初の爆発でかなりの被害ひがいを受けてる。サイラス兵はガレスが死んだからといって健在けんざいであることに変わりはない。だから、こちらが預かる」


「……」



 『爆炎エクスプロージョン』によるカルバ兵の被害、残っているサイラス兵。

 敵国ではあるがラミア達を保護したキリア。

 どちらがラミア達を保護できるか考えるエレイン。



「分かりました。キリアに預けます。ですがラミア様とクロ様に何かあったら……」


「ああ、ラミアとクロの身の安全は保障する」


「わかりました。それとカルバは軍を引かせます」


「本当に軍を引いてくれるのか?」


「はい、キリアと争っている場合ではなくなりました。すぐにサイラスとことかまえることになりそうですから」



 そう言うとエレインはその場を離れる。

 カイ達もマグナスを支えたままクレーターの縁までたどり着くと、ミーシャが馬に乗ってきた。



「ゴメン、カイ。さっきまで気絶していて爆発の音で目を覚まして近くの馬を3頭連れてきた」


「丁度良かった。ミーシャはマグナスを連れて行って、後方部隊に治療を頼んでくれ」



 ミーシャは片腕を失ったマグナスを見て状況を理解すると、彼を乗せて本陣に駆けていく。

 もう一頭の馬にカイは乗ろうとするが自身の右腕が剣とくっついていることを思い出す。



「ラミアとクロは馬に乗ることは出来るか?」


「ええ、アナタの代わりに馬を走らせればいいのね? クロは最後の馬に乗って」



 ラミアが最初に乗り、その後ろにカイが乗り彼女のこしに左腕をまわす。



「一応『契約けいやくの書』に書かれていたことを完遂かんすいしたことは感謝しているけど、変な事したら馬から落とすからね」


「そんなこと言っている場合か。まだ完全にサイラス兵が引いたわけじゃないから速く本陣に戻ってれ」



 ラミアは腰にまわされたカイの左腕を1回見て馬を走らせ本陣に戻った。


      

          ※



 本陣に着いたがサイラスの残兵に追い打ちをかけるため、ほとんどの兵が出払っていた。

 ラミアはゆっくりと馬から降りる。

 カイは左手をラミアの肩に乗せ向かい合う。



「ラミアとクロは補給物資ほきゅうぶっしを積んだ荷台に戻ってくれ。戦場に連れてきたことが知られたら面倒めんどうだ」



 ラミアはうなずいて離れようとするが、カイはその場で倒れるのだった。

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