第16話 災厄の真実

 ガレスの放った『地獄の業火ヘル・ファイアー』をカイがむかつ直前、彼らの戦いをクレーターの上からのぞき込む姿があった。

 ラミアとクロはエレインと戦場で合流し、ことの真相をガレスに聞き出しに来たのだ。

 ラミアは槍から放たれる炎を見ながら、



(何なの、あの黒い炎……、気持ち悪い)

 


 ガレスとカイの攻撃がぶつかりあった。

 槍に込められていた魔力が放出され、それが黒炎としてラミアとクロに襲いかかろうとする。

 エレインは即座そくざに魔法で防御結界ぼうぎょけっかいをはり、これを防ぐが、



「ラミア様、どうなされたのですか!? ラミアさ……」



 結界に打ちつけられる黒炎にラミアは目眩めまいを覚える。



(この炎……どこかで見た……)



 エレインの呼びかけが段々聞こえなくなり、ラミアは目を閉じるのだった。


             

          ※



 ラミアが再び目を開けると、そこは大部屋だった。

 大部屋のかべにかけられた明かりが部屋全体を照らす。

 カルバの王族がカルバ城に集まっていた。

 今日はカルバ建国記念日でそのお祝いのパーティーが今年も開かれていた。



(なんで全員、食事に手をつけないのかしら? それに会話が全くない……。クロはいつもどおり良く食べるわね)



 その様子にラミアも表情が暗くなる。

 それをさっしたのかとなりすわっていたラミアの母は、



「ラミア、今日は大事なお客様がお見えになるのよ。これから貴方を守ってくれるかもしれない立派な騎士きしが……」


「何をおっしゃるの、お母様? 城にはエレインだっているじゃない。もしかして、彼女よりも強いの?」


「ええ、きっと頼りになるわ。だから、その人の言うことに従ってワガママは言わないようにね」



 母の言葉にラミアはムッとするも、その新しい騎士に期待をふくらませながら料理に手を伸ばそうとした。

 その時。

 テーブルを中心に巨大な赤黒い魔法陣が形成される。

 そして、部屋全体を一瞬で炎につつんでしまう。

 王族の多くが炎に包まれ、その場は阿鼻叫喚あびきょうかんに変わった。

 ラミアの母はラミアとクロに、



「ラミア! クロ! 急いで外に出て! 貴方達あなたたちだけでも……」



 ラミアの母は言い終える前にテーブルの上に視線を送る。

 テーブルの中央に小さな火球が浮遊ふゆうしている。

 ラミアの母は咄嗟とっさにラミアとクロを抱きかかえ火球に背を向ける。



「貴方達だけでも魔法で……」



 ラミアの母はラミアとクロを防御結界ぼうぎょけっかいでつつむ。

 その瞬間しゅんかん、火球がきらめき、爆発を起こした。

 少女達を包み込んだ防御結界を守るように、ラミアの母はがもう1つのたてになる。

 爆発にまきこまれ、悲痛ひつうゆがんだ母の顔がラミアの目にうつる。



「……おか……あさま……」



 爆風で吹き飛ばされたラミアは、母が天井から落ちてきた大理石だいりせきつぶされるのを目の当たりにしながら両目を閉じていった。



          ※



 ラミアは目を覚ました。

 全身から嫌な汗が噴き出している。

 ほほをつたう涙が止まらない。

 彼女は思い出したのだ。

 あの日のこと、自分をかばって死んだ母のことを。



「……ラミア様、大丈夫ですか?」


「ラミア、大丈夫ニャ……?」



 近くからエレインとクロの声が聞こえてくる。

 彼女達はクレーターのふちに立っていた。



「大丈夫よ。すべて思い出したから」

 


 エレインはラミアの言葉と、彼女の表情におののいてしまう。

 いつもワガママだけど、争いごとを嫌う温厚おんこうな性格のラミアから初めて殺気という物を感じとったからだ。

 くれないひとみが鋭く一点をにらむ。

 その先には槍を防がれたガレスがカイに突っ込んでいく姿があった。

 ラミアは静かに立ち上がると、クレーターの底めがけて斜面しゃめんすべり落ちていくのだった。


              

          ※



 右腕を斬り落とされ座り込むガレスと、その前に立つカイ。



「待ちなさいッ!」



 クレーターの斜面を下ってくる3つの影。

 1人は腰まで届く金髪きんぱつに白いはだ

 その後についてくる少女は白い髪に褐色かっしょくの肌。

 最後の一人は黒髪のロングで剣をかまえている。

 声を発したのはラミア。

 彼女の後ろからついてきていたのはクロとエレインだった。

 エレインはカイの顔を見ると驚愕きょうがくのあまり目を見開く。



「に、兄さん……?」



 カイは気まずくなって目を背けた。

 その反応で確信に変わったエレイン。



「ど、どうして兄さんが、ここに……?」



 そこで、ラミアが助けぶねをだしてくれた。



「エレイン、彼が私たちをあの事件から救い出し保護してくれたの」


「ほ、本当ですか?」



 カイはうなずき同意を示す。

 彼は視線をエレインにうつす。



「エレイン、機会があれば話す。だが今はこいつから話を聞かないといけない」



 カイの視線の先に重傷を負い座り込むガレスは痛みをこらえながら平然と、



「……キリアにらわれたとうかがっておりましたが、御無事ごぶじでなによりです」



 ガレスの言葉を無視してラミアは怒気どきをはらんだ声で質問する。



「ガレス、アナタが私達家族を殺した、そうですね?」


「何をおっしゃっているのですか、ラミア様? まさか、キリアの者に洗脳せんのうされておられるのですか?」


「あの日のことを思い出したわ。あの炎はアナタの魔法よね?」



 ラミアが見つめる先には大地を燃やす炎の残り火。

 それはラミアが実際にあの事件のときに目の当たりにした物だった。

 ガレスはため息をつきながら。



「はあ、思い出してしまいましたか。そうです。あの爆発も火災も俺様がしかけた物。王族を皆殺みなごろしにするために!」



 危険をさっしたカイがラミアの身体を引っ張り、地面に寝かせていたマグナスのもとに走っていく。

 ガレスの目からは敵意が消えてなかった。

 ラミアが目の前に来てくれたことを喜ぶように口を動かす。



 「『紅炎プロミネンス』」



 ガレスを中心に爆発が起こる。

 戦場一帯に重い衝撃波しょうげきはが広がり、敵も味方も吹き飛ばされたのだった。



          ※



 爆風に舞い上げられた砂埃が晴れていく。

 爆心地には座り込んだままのガレス。彼にはもう走る気力は残されていなかった。



(アイツらを戦場に連れてきていたことは予想外だったが、そのおかげで確実に殺すことができた。ドラゴンを調教ちょうきょうするのにかけた時間は無駄むだだったが……)



 とガレスはため息をつく。

 しかし、すぐにため息は消え笑みに変わる。



「ふふ、今の爆発で事件の真相を知る者はいなくなった。予定もくるったが終わり良ければすべて良し。これで俺様も心置きなくカルバの実権じっけんを握ることができる」



 よろよろと立ち上がろうとしたガレスに砂煙すなけむりの向こうから声がかけられる。



「それが貴様の目的だったか」



 ガレスの両膝りょうひざが切断された。

 立つための足を失い、地面に盛大に転ぶ。

 足を失ったことによる激痛がガレスを襲う。



「グあああああああああアアッッ!!!!!!」



 ガレスは悲鳴を上げる。

 ガレスの前に立つ1人の少女。

 両膝をったのはその少女が放ったカマイタチだった。



「エレイン様、なんてことを……!?」



 エレインから発せられる殺気に、恐怖からガレスは言葉に詰まった。



「なんてこと? 貴様は2度もラミア様の命を狙った。そのためにカルバの兵まで躊躇ちゅうちょなく爆発に巻き込んだ。そして貴様の先程の言葉……」



 弁解べんかい余地よちすらないほどの気迫。

 しかし。



「わ、私ではありません。……全て、キリアの王子、カイの目論見もくろみなのです」



 エレインは怒りで魔力が暴走し、クレーター内の砂埃すなぼこりが晴れた。

 その奥にはカイ、ラミア、クロ、マグナスがいた。

 エレインとカイが防御結界をはったのだ。

 エレインは殺気を隠そうとせず。



嬉々ききとしてラミア様に爆裂魔法を放っておきながら今さら。非を認めればカルバに罪人として生きたまま送還そうかんするつもりでしたが……」



 エレインは剣を振り上げ、ガレスの首を斬ろうとする。



「エレイン、上だ! かわせッ!!」



 カイの声にエレインは反応し後ろにとんだ。

 彼女の頭上からいくつものせまってきていた。

 エレインがいた場所に無数のやいばが突き刺さっていた。

 クレーターの縁から気味の悪い笑みをうかべた人間がおりてくる。



「グシュシュシュシュ、これはこれは、お取込み中のところ、失礼します」



 カイはラミアとクロの前に立つ。



「オマエは何者だッ!?」



 ガレスの横に着地した、その男のまわりに黒い球体が無数にとびまわっていた。

 先程エレインを襲おうとした刃も、形をくずし球体に変わった。



「ワタクシはついさっきまでサイラスの参謀さんぼうだったミゲルと申します」



 ガレスはその男に助けをう。



「おい、ミゲル。助けてくれ」



 ミゲルに向かって、ガレスは残った左手をのばすが。

 次の瞬間、ガレスの左腕はちゅうをまっていた。

 黒い刃がガレスの左腕を切断したのだ。



「グギャアあああああ、腕が、俺様の左腕がああああああ! どうしてだ、ミゲル!?」


「アナタの役目はここまでですよ、ミゲル様。アナタという存在が、レオン様の内に眠る『にくしみ』を引きずり出してくれると期待したのですが……」



 ミゲルは『イフリート』を見下ろしながら。



「この槍も、『破滅剣ルーイナー』の刃にふれたことで、ほぼ魔力が残ってませんね。だから、アナタはもう用済みなんです。では、ごきげんよう」


「ミゲルウウウウウウゥゥゥッ!!」



 ガレスの断末魔だんまつまもむなしく、無数の黒い刃がガレスをのみこむ。

 黒い刃が消えた場所には、先ほどまでガレスは無惨むざんな死体に変わり果てていた。

 ラミアとクロは目をそむける。

 しかし、カイとエレインにはそんな彼女たちをフォローするひまがなかった。

 ミゲルが使った言葉。

 ……、その言葉をエレインとカイは聞き逃さなかった。



「ミゲル、レオンのこと、ルイアーナ村のことを知っているのか!?」


「いきなり呼び捨てですか? アナタは、もう立派な王族の一員なのですからもう少し礼儀れいぎを……」



 誤魔化ごまかそうとするミゲルにカイは声をあらげた。



「そんなことは、どうでもいい! しらばっくれずに答えろ!」


「グシュシュシュシュ、わかりました。答えてあげましょう。ワタクシはルイアーナ村のこと、レオンのことを知っていますよ。あれはワタクシが色々と根回しして起きたんですから」



 それだけで十分だった。

 カイは右手に握られた『破滅剣ルーイナー』を振りかざしミゲルに迫る。

 ミゲルの近くを浮いている黒い球体が変形し無数の刃に変わった。



「いいのですか? この刃はアナタだけでなく、後ろにいらっしゃる王女様も襲いますよ」



 ピタリと止まったカイはすぐさま方向転換して、ラミアとクロの前に戻ると、迫りくる刃を『破滅剣ルーイナー』で消滅しょうめつ

 エレインも彼女達の前に立ち防御結界をはる。



「不完全とはいえ、破滅剣の力をそこまで引き出せていらっしゃるとは。グシュシュシュシュ、今後が楽しみですな……」


「貴様の目的はなんだ?」



 エレインがミゲルにたずねる。



「……そうですね。面白い結果になったので、教えてあげてもいいでしょうか。貴方達が必死に守っている王女達は『』。そして、レオン様は『しろ』です。それを確認するのが目的です」


「詳しく話すつもりがないなら、力ずくでも貴様を連行させてもらう」



 エレインは剣をかまえなおす。



「さすがに『エレメントマスター』と戦うのは骨が折れますね。それではまたの機会に……」


「待てッ!」



 エレインの制止もむなしく、ミゲルは『飛行魔法』でクレーターの外に飛んでいった。

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