第7話 進軍のちに爆発

 キリア軍がレノア平原に向かっているとき、サイラスもキリアを目指して進行していた。

 総勢20000の兵が隊列を組んで前進する。



「ここをこえればキリアまで2日……か。



 レノア平原につくまえに、いくつもに枝分かれした丘についた。

 サイラス軍の先頭を歩く青年。

 としにして17くらい、短く切りそろえられた髪の毛先は空をむいている。

 青年のとなりには、黒衣に身を包んだ男が気味の悪い笑みをうかべていた。



「グシュシュシュシュ、ガレス様。兵を分けて進みますか?」



 ガレスと呼ばれた青年は返答することなく、馬からおり背負っていた槍をとりだした。



「面倒くさいから、消しとばす。ミゲル、オマエは防御結界ぼうぎょけっかいでもはっておけ」


「おおせのままに」



 黒衣の男・ミゲルはつえをとりだして前にかざした。

 サイラス軍をつつみこむような防御結界がはられる。

 それを見たガレスは槍の先から紅くきらめく炎の球を丘の上めがけて発射する。



紅蓮ぐれんの炎をもって対象を消滅させろ、『爆炎エクスプロージョン』ッ!」



 弱々しかった火球は一瞬まばゆい光を発した、と思われた次の瞬間。

 大規模な爆音、爆風、高温の熱をともなってあたり一帯をふきとばした。

 その反動はミゲルがはった防御結界にひびをいれる。

 丘があった場所は更地さらちと化し、1本の道がサイラス軍の前に出現する。



「さすが、ガレス様。一瞬で道を作ってしまわれるとは」


「ミゲル、口を動かす前にさっさと行けよ。ここさえぬければキリアまで2日だ」


「グシュシュシュシュ、もうすこしで我らの願いがかないますね」


「当たり前だッツーノ、を確実にとりもどさねーと、に怒られるし」



 サイラス軍は丘をぬけ、レノア平原まで軍をすすめた。

 しかし。

 ガレスは目の前に広がる光景に歓喜かんきがこみ上げる。



 「ギャハハハハッ、やっぱりここに来たか、ッ!」

 


          ※



 サイラス軍よりも先に着いたキリアは、レノア平原に軍を横に広げて配置しいていた。

 ガレスのうわさが本当だとすれば、軍を一か所にとどめておけば魔法の的になりかねない。



「団長、これまた圧巻あっかんだな。軍をひろげたとしても、あの数でおしきられたらあまり持たないだろうな」


「エド、持つか持たないかじゃない。勝つんだ」


「団長がガレスと戦っているあいだに、俺はまわりの兵の相手をするが、そう長くはもたないぞ」


「副団長エドがそんな弱音をはくとは情けない」


「まあ今回ばかりは相手がわるい」



 サイラス軍でさえ手があまるっていうのに、偵察兵ていさつへいの話だとカルバ軍までひきつれてきたらしい。

 おそらく先日のカルバ城でおきた火災がキリアによるものだと広めたのだろう。

 しかし、おくすることなくカイは軍の先頭に立つ。



「敵は予想より多いが、俺たちはここでひくことはできない。オマエたちも本気を出して敵をむかつぞ!!」



 キリア軍2000、ギフテル軍7000もの兵が大地をゆらしかねないほどの気合のこもった声を上げ、前衛ぜんえい騎兵きへいがうごきだした。

 


 カイもけ声を上げて突撃していく。

 騎兵が先陣をきり、カイはそのあとをついていく形で、馬に乗らずに走った。

 しかし、魔法で速度をあげることで馬と同等以上の速さで走っていた。



「団長、右側がおされぎみとのことです」


「わかった」



 馬に乗っていた兵がカイに近づく。

 カイは右側にむかって加速していき、敵兵を次々とっていく。

 そしてすぐにそこから後方に下がる。

 こうして戦線を保つことで味方の攻撃が安定するだけでなく、敵も勢いがおちる。

 圧倒的に兵の数が不利なので苦しまぎれの戦法だが、これしか方法がない。



(……なんだ、この違和感は?)



 だが、しばらくしてカイは周囲を見渡す。

 カイと同じ立ち回りをしていたエドが声をかけてくる。



「団長、おかしくないか?」


「ああ、敵の第1陣のほとんどがカルバ兵だ。サイラスの兵がみあたらない」


「さっきからカルバ兵の相手しかしてないぞ」



 考えた作戦は、敵兵との混戦になればガレスの爆裂魔法ばくれつまほうをうたせずに済むという安全な作戦だった。

 偵察兵の話から、ガレスは一度大規模な爆裂魔法を丘で放ったらしい。

 ガレスが前線に出てこないのは魔力が枯渇こかつしたから、と言えるが、のはおかしい。



「いっかい兵を下げたほうが……」



 そこでカイの指示が止まる。

 小さな火の球が混戦地帯こんせんちたいの真上に現れたのだ。

 後方から、それを見たカイは最悪の考えが脳裏のうりをよぎる。



「まさか……、魔導部隊、防御結界をッ!」



 カイの叫び声がかろうじて届いたのか、横に広がって騎兵の後ろを走っていた魔導士が何人か止まった。

 彼らは魔法をとなえると杖を前にかかげ、騎兵たちの前に防御結界を張った。


 その瞬間。



「……、『爆炎エクスプロージョン』」



 防御結界のすぐ外で巨大な爆発がまきおこる。

 横一列におきた爆発の威力をかろうじて弱められたものの、咄嗟とっさのことで結界は完全ではなかった。



「な、なんだ、この威力は……ッ、クッ!?」


「だ、だんちょ……ッ!?」



 防御結界は破壊され、爆風が敵兵もまきこんでキリア軍を襲うのだった。 

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