第6話 開戦の夜明け

 カイは会議を終わらせてから自室に戻り、ラミアとクロに今後のことを話した。



「これからキリア軍はレノア平原に陣をしくつもりだが、君達はどうする?」


「私は行くわ。もしかしたらガレスもなにか知っているかもしれないし」



 ラミアは一寸の躊躇ためらいも感じさせない声で言った。

 ラミアにはカルバ城での事件のときの記憶がほとんどない。

 だからこそ戦争を通して、ラミアは真相を知りたいようだ。

 ラミアの即決そっけつとは対照的に、クロはすこし迷っていた。



「ミャーもついていきたいけど、戦闘の邪魔じゃまになってしまうニャ」


「いいや、むしろ戦場に来てくれたほうが都合がいい。キリアに残す兵もいるけど、全員が全員君たちのことを知っているわけじゃないから、混乱をけるためにも目の届くところで行動してほしい」



 クロはふるえながら頷いた。

 おそらく、ラミアもクロも戦争を直接見るのは初めてなのだ。

 2人とも落ち着かない様子だ。

 強がっていたラミアでさえ、組んでいた両腕が小刻こきざみにふるえている。

 カイは戦場となるレノア平原の一点をさす。



「君たちは後方で隠れていてほしい。補給物資の荷台に隠れる場所があるから」


「わかったけど、ガレスから真実を聞き出すタイミングは作りにくいのではないかしら」


「たしかに難しいが、ガレスを無力化できればラミアとクロも近づけるかもしれない。ちなみに君達の護衛ごえいを今回マグナスに頼むから、彼の指示に従ってくれ」


「アナタじゃないの……?」



 ラミアとクロはここに来て日も浅く、カイ以外の知り合いも当然いない。

 ラミア達は知らない名前を聞いて動揺していた。



「俺はガレスを倒さないといけない。それにラミアには他にやって欲しいことがある。それは……」



 カイの頼みにラミアは驚きの表情を見せるのだった。



          ※



 出発の日。

 サイラスの兵が国を出発した、との報告があった。

 カイ達、キリアの兵2000とギフテル帝国から派遣はけんされた7000の兵はレノア平原に向かうため城門に集まっていた。

 残りのキリア兵1000はキリアを守るために留守となった。



「ちょっと寒いね」



 まだ日が昇りきっていないなか、馬に乗ったミーシャが両手に息を吐いている。



「そうだな。ほら、ミーシャ。この防寒具でも着て体を温めるんだ」



 カイは自分の着ていた防寒具を脱ぎ、ミーシャに手渡す。



「ェ……? でも、これってカイのじゃ……」


「気にするな。別に寒くないしな」



 防寒具に着込んだミーシャはフードを深々とかぶる。

 それを見ながらカイは笑みをこぼす。



「フードは外したらどうだ? 顔が真っ赤だぞ。暑いんじゃないのか?」


「き、気のせいだよッ! それよりも皆、集まったよ!」



 両手を顔の前で振りながら顔を背けるミーシャから視線を外したカイは馬からおりて、スーに話しかけた。



「申し訳ありません。スーさん、キリアをメイド隊に任せっきりになってしまって」


「大丈夫ですよ、団長ちゃん。ワタシにまかせてください。それにティアラちゃんもいますから」



 スーは小さな拳で平らな胸をポンと打つ。

 今回は、スーが率いる『メイド隊』と、ティアラをキリアに置いていくことにした。

 カイがいない間にキリアで問題が起こったときは彼女たちが対処することになってる。

 カイはスーに感謝の言葉を告げる。



「ありがとうございます」



 スーと入れ替わるように、ティアラも近づいてくる。

 早朝で冷えているにもかかわらず、ティアラはいつも通り布地の少ない黒のローブに身を包んでいる。

 ティアラはカイに近づくと両手で彼の顔を包み込むようにつかむ。

 ティアラの手をつたって、カイに魔力が流れ込んでくる。



「お姉さんの魔力を譲渡じょうとしたわ、団長さん。だけどいくら敵が強くても使いすぎないようにね」


「……善処ぜんしょする」


「……フフッ」



 カイは薄い布地からのぞくティアラの肌に顔を赤らめながら、ティアラから視線を外した。

 ティアラは分かっているのか、クスッと笑いながらカイの顔から手を放し離れていく。

 準備を終えたカイは兵たちに向き合うと、国中の空気を張り詰めさせるほどの大声をはりあげる。



「この戦いは久しぶりの大戦だ。敵の情報は少ない。そのなかで最善の戦いをするつもりだが、オマエたちも気を抜かないでいくぞッ!」



 カイの声に呼応し、兵たちも国中にとどろ奮起ふんきの声を響かせたのだった。

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