第2話 破滅剣ルーイナー

 周囲に響いた轟音ごうおんに気付いた村の人々が教会の広間に来て、驚きの声を上げる。



「何があった……!?」


「……ヤバすぎるだろ」


「誰がこんなことを!?」


「まさか、ガリッタさん、アンタほどの人が魔力を暴走させたのか!?」



 ガリッタは言い逃れができないと思い、村の人達に事情を説明した。



「……というわけじゃ。じゃが、これはレオンのせいじゃない。説明不足だったワシに問題がある。じゃから、レオンを責めないでやってくれ」



 12の子供が木々をなぎ倒したことに村の人達は驚きのあまり、押し黙ってしまう。



「…………」


 

 レオンもあれから固まったままだった。

 それから数時間、森を破壊した件で村長から説教を受け、何とか解放されたレオンとガリッタ。

 その後、2人は倒れた木々を片付け始める。



「じいちゃん、ごめん。まさかこんなに威力が強いなんて考えてなかった。ちょっと怖いとすら思ったよ」



 レオンは自身が作り出した更地さらちを見渡す。

 ガリッタは木をしばり上げて、呆れた声で言った。



「ワシも言葉足らずだったのだからこちらにも非はある。じゃが、ここまで破壊力が

あるとは予想ができんかった。今回は魔力が手から放出しただけで、魔甲まこうと呼べるかは微妙びみょうじゃがな」



 ガリッタは魔甲まこうで腕を覆い、転がっている木に拳をうちこんだ。

 木は真っ二つになったが、余波よははほとんどなく、先程の破壊力はなかった。



「一般人が魔甲まこうの使い方を習って、本気を出したとしてもこの程度が限界じゃ」



 しかし、と続けた。



「レオン、お前は村の中でも一番の魔力量を保有しておる。それにワシと同じくらい剣もあつかえる」



 レオンはガリッタから剣術を学んでいたこともあって、その実力は村の中でも屈指くっしの物だった。



「ど、どうしたの、じいちゃん? めずらしいじゃん、めてくれるなんて」



 木を縛り終えたガリッタは、



「これなら大丈夫……か」


「じいちゃん?」



 縛り上げた木をわきにはさみながらガリッタは立ち上がる。



「レオン、お前にたくしたい物がある。ついてきてくれ」


「?」



 ガリッタは何も言わずに歩き出し、レオンも黙ってその後ろをついていった。



         ※

 


 掃除を終えて教会の前に戻ってくると、ガリッタは教会に入り大きな箱をとりだした。

 レオンはガリッタを止めようとする。



「じいちゃん、何をやってるんだよ!? また、村の人たちにしかられちゃうぞ」


「そのことを気にする必要はない。ここにある物はワシのじゃ」



 その箱から禍々まがまがしい魔力をレオンは感じた。

 箱の中にはキレイな黒色の剣が入っていた。

 刀身はレオンの背丈せたけより少し小さい。



「この剣は『破滅剣はめつけんルーイナー』。先祖代々せんぞだいだい受け継がれてきた剣だ。次はレオンの番じゃ」


「待ってくれ、なんで俺なんだ? 代々受け継いできたなら、まだじいちゃんだって親父だっているじゃないか?」


「すまない。その剣は厄介での。あるじとしてふさわしくないものが持てば暴走するのじゃ」



 不穏な言葉を聞いたレオンはガリッタに聞き返す。



「暴走?」


「昔は、それもワシを主として認めてくれたのじゃが。年を取るごとに反発するかのごとく、扱いが難しくなりよった」



 じゃが、とガリッタはつづける。



「息子は農業を営んでおる。そんな息子にこの剣を持たせれば暴走する可能性が高い」


「そんな危険な剣、さっきみたいに教会に入れておけばいいんじゃないか?」


「この剣はワシ達が受け継ぎ続けなければならないのじゃ」


「なんで?」


「それは……、今は言えん。じゃが、1つだけ言えることがあるとすれば」



 ガリッタは一呼吸ひとこきゅう置く。



「この世界の命運がかかっている」


「そんなバ……か……な」


(じいちゃんが嘘を言っている……とは思えない)



 レオンは箱の中に入った剣を見る。

 黒く禍々まがまがしいが、吸いこまれてしまいそうなほどの魅力みりょくもあった。



「じいちゃんの頼みなら仕方がない、って言いたいところだけど、『世界の命運』についてくわしく話してくれないのか?」


「さっきも言った通り、教えることは出来ない。いや、実はワシにもよく分からないのじゃ。長年各地を旅して情報を集めたが、この剣が何かついに突き止めることは出来んかった」


「つまりじいちゃんは俺にこの剣が何かを調べてほしいのか?」


「そうだ」

 


 レオンは返答に迷ってしまう。

 しばらくレオンが返答できずにいると、



「急にこんなものを押し付けてしまって、すまないと思ってる。じゃが……」



 ガリッタの辛そうな表情を見たレオンは断ることに罪悪感ざいあくかんを覚えてしまう。

 深呼吸した後、レオンは箱の中の剣を持ち上げながら、



「分かったよ。この剣は俺が受け継ぐ。じいちゃんの望みが叶えられるか分からないけど、できる限りのことはしてみる」



 と言った。

 レオンの手になじんだ剣が漆黒しっこくの光になって消滅しょうめつした。

 あるじと認められなければ『破滅剣ルーイナー』は暴走するらしいが、特にそういう反応は示さなかった。

 レオンは息をらす。



「ふー、よかった。暴走しなかったぜ、じいちゃん」


「ワシはいつ死ぬか分からん。これからその剣のことを頼んだぞ」



 レオンはコクリとうなずくのだった。



         ※

 


 稽古けいこが終わり、レオンは不安を覚えながら帰宅する。

 レオンの両親は心配そうに出迎える。



「レオン、今日は大変な1日だったみたいだな」


「アナタ、笑い事じゃありませんよ! レオン、怪我けがはなかった?」


「……ただいま」



 両親の顔を見ると、レオンはおかしな感覚におそわれた。

 突然、両親のことを強くきしめたのだ。



「ごめんなさい、パパ、ママ……。私のせいで……」



 と涙を流す。

 これはレオンの意識ではない。

 身体がレオンの言うことを聞かなかった。



(な、なんで……?)



 突然のことに、両親も困惑の表情を浮かべた。



「どうしたの、レオン? 本当に大丈夫?」


「レオンも疲れてるんだ。あまり質問攻めにしてはいけないよ。今日のことはお父さんから聞いたから、ゆっくり休むといい」



 すぐにレオンは2人から離れた。

 このときには身体の自由を取り戻していた。

 すると、レオンの妹であるエレインが声をかけた。



「大丈夫、兄さん? いつもお父さん、お母さんって呼ぶのに?」


「あ、ああ、大丈夫だ。少し横になる」



 そのままレオンはリビングを後にした。

 レオンの後姿を家族は心配そうに見るのだった。



         ※

                


 そんな1日から3年がたった。

 15になったレオンはあの日からも剣と魔法の練習はかかさず行っていた。

 ガリッタは剣も魔法も教えることはないと言い、練習を見ることも少なくなった。

 今日の手伝いも終わり、レオンが家に入ると、



「お母さんもお父さんも、からずやッ!!」



 エレインが怒鳴どなり声をあげていた。

 普段怒らないエレインの怒りっぷりはすさまじかった。

 リビングでガラスが割れたような音にレオンは肩を上下させる。



「……エレイン?」



 そこから出てきたエレインはレオンを一瞬にらむと、自分の部屋にこもってしまったのだった。

 レオンがリビングに入ると、両親は椅子いすに腰を掛け、顔は苦悩に満ちていた。



「エレインはどうしたんだ、親父? というかこの花瓶かびん……」


「……怒ったさいにエレインの魔力で花瓶が落ちちゃったんだ」



 父の説明を聞いてレオンは周囲を見渡みわたす。

 先程のガラスが割れた音は花瓶が落ちた音だけではなかった。

 リビングの窓がにでも入られたかのように、ひどれ方をしていた。



「レオン。ちょうどいい。少し話そう」



 レオンは両親に向かい合う形で椅子に腰をかけた。

 それを確認すると、レオンの父は口を開いた。



「実はな、エレインが魔導師になりたいと言ったんだ」



 魔導師、魔法の才能を持った者にのみ与えられる役職。

 大国では城の警護けいごや、戦争では魔導士部隊などの仕事がある。



「エレインがそんなことを?」



 エレインはてっきり親の畑でもぐ、とレオンは思っていた。



「そうだ。かなり前から練習していたらしい」


「1人で練習していたのか?」



 本来、魔法は強力かつ暴走の危険があったので1人で練習するのは危険だった。

 しかし、レオンの質問に父は首を振る。



「いいや、お父さんが見ていた」



 その返答にレオンは驚くものの、



「じいちゃんが見ていたのなら、無茶なことはさせないと思うけど……」



 レオンの言葉をさえぎるるように、レオンの父が口を開く。

 ここからが本題だ、と言うように。



「ただな、エレインは昔話を読んで、魔導士になりたいと思ったらしい」



 村の中では有名な昔話として語り継がれている物があった。

 1人の魔導師が凶悪きょうあく怪物かいぶつと戦って勝利をおさめる物語。

 男の子が好みそうな設定だが、その魔導士の人情味にんじょうみあふれる姿に老若男女ろうにゃくなんにょ問わずに人気だった。



現実リアル物語フィクションは違う。エレインはそのことをまだ理解できてない」



 レオンは父が何を言いたいのか理解した。



「レオン、エレインが魔導士になるのをあきらめるよう説得に協力してくれ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る