第四章 不定期更新編
第128話 新天地
潮気を含んだ風が頬を撫でる。
進む先には人の侵入を拒むように切り立った岸壁。
揚陸艇の甲板には
「これが偉大なる航路と直交する大陸、レッドラララララ」
「しつこい」
合流当時はまだしも、今となっては感電するスザンナは日常茶飯事。
「痛いよ、
「そんなことない。強さ設定はパパのお墨付き」
「あなたのは痛いだけなの! 愛がないわ!」
変わったのはツッコミ担当がシルフィに移ったことくらいか。
乗組員たちも慣れたものだ。
ついでとばかりに国内で暇を持て余していた家族たちも便乗してきた。
具体的にはリィナ、フィーネ、ルゥナ、シルフィ、ミアの5人だ。言うなればトモオ捜索班で、僕が帰国したことで任が解かれたため、休暇がてら世界を見たいという。
明確な下心があったのはフィーネで、浮上都市の船渠や工場に興味津々だった。
次点はシルフィで、教本や地図をはじめとした書物目当てで、寄港する先での本屋巡りも含まれている。
ウェルマーチス国内の要職には国王のレシオをはじめ、先王ティーダが相談役を。フィーネの娘グートルーンが工房長を務め、ニアの息子マオがケヴィンから兵団長を引き継いだ。
グートルーンもマオも後進の育成に励んでおり、グートルーンの息子、ブルーノの血を引くヴィルマーと、ケヴィンの孫に当たるジーンがそれぞれの次期長と目されている。
どの組織も新陳代謝が進み、常に新しい血が流れている。
見た目はともかくとして、古い血である自分たちが幅を利かせてもしょうがないので、諸国漫遊の旅に出ることにしたわけだ。
今度こそは行方不明は死亡扱いとするようにしてもらい、手紙鞄、転送箱を設置し、定期連絡をすることで以て、安否確認とすることに。
情を交わしたことのある者との別れも済ませ、残ったのがいつもの面々というわけだ。
少し寂しくもあったが、不在の間に帯同できない理由がそれだけ生まれたということだろう。居なくなった者にどうこう言う資格はない。
浮上都市では中層の一角に部屋をあてがってもらい、中央管理塔を除いてほぼ全域のアクセス権を得た。
子どもじゃないんだし、問題を起こすことはないだろうと思っていたら、リィナは酒造工場に、シルフィとミアは下層養殖場へのアクセス権が剥奪された。いずれもつまみ食いが原因だった。
浮上都市による各地の調査は順調で、地図の作成や地質、海底地形の資料はすぐ集まっていった。
状況が変わったのは1週間前。
上陸部隊の一つから定時連絡が途絶えた。
どうやらトラブルに巻き込まれたようだった。
連絡が途絶えるだけならあまり珍しいことでもないのだが、すぐに動ける段取りを整える。
敵性種族に囲まれている状況下であれば、手紙鞄のマナで検知されてしまう危険性から、連絡出来ないこともある。
よって、浮上都市からの催促の連絡も、上陸部隊を危険に晒すかもしれないので行わないと決めてある。
事故の場合でも、70時間を目安に救出を行えるように部隊を編成し、また他の上陸部隊も同様の事態にならないように帰還を命じた。
救助部隊は調査報告書をもとに、消息不明となった部隊が張っていた野営地跡まで進み、少しでも手掛かりを掴もうと調査を行う。
その救助部隊が消息を絶ったのが昨夜のこと。
大至急救助部隊を再編することになり、クローさんからの要請もあって参加を決めた。
女性を参加させることは不本意だったが、昔からかくれんぼが得意なシルフィを索敵要員の補強に加え、ツッコミ役が居なくなるからと、スザンナも押し付けられた。自動的にルゥナとミアも加わることになり、リィナとフィーネがお留守番だ。
もともとフィーネは非戦闘要員だし、リィナも上達はしたが一線級とは言い難い。ベッドを温めて待つように言うと、頬を赤らめて素直に応じた。
「まずは救助部隊の足跡をたどり、野営地を確保。その後の足取りの手がかりを見付けるぞ。総勢30名が失踪している。生存者の捜索はもとより索敵は最大限、猫の子一匹見逃すんじゃないぞ!」
「「ハッ!」」
「にゃー」
「ミア」
「てっきりフリかと」
「スーみたいなことしない」
「ゴメンナサイ」
「ジョシュア、気にせずに指揮を頼む。この子たちは無駄口は多いが、仕事はちゃんとするよ」
銀髪を短く刈り込んだ筋肉質の部隊長にフォローを入れる。険しく眉根を寄せる面立ちは、幾つもの苦労を重ねてきたようだ。
「──分かりました。トモー様には分隊長をお願いしたい。その4人はお任せします。あの2人?もですけど。あと何人か付けましょうか?」
「いや、この7人で大丈夫。その代わりと言っちゃ何だけど、遊撃隊を編成するときは優先して任せて欲しいかな」
「そのときがくればお願いします。でも基本的には私の指揮下ですので、集団行動を乱さぬようにして下さい。トモー様の料理、楽しみにしていますから」
上陸はシンプルに岸壁に【土魔法】で階段を作るだけ。
先に2部隊が上陸しているので、痕跡を頼りに再構築すれば余計な労力をかけずに済む。
揚陸艇は部隊長兼船長のジョシュアが【収納】し、登り切った後で階段も撤去しておく。帰り道が一緒とは限らないので、環境破壊は最小限に留めるためだ。
「どうだい?」
「2km程先に野営の跡があるけど、そこまでは大丈夫。付近に変なのはいない」
鬱蒼とした森の中。
岸壁に階段を作った際の感触からも、何者かの縄張りとなっていることはなさそうだ。“所有権”の概念があるこの世界ならではの、安全地帯の確認法だ。
外部思考により範囲を広げた
立体映像として可視化し、部隊内で情報を共有する。
あとは思い思いの樹に登り、俯瞰を補足したり、自らの五感で“感察”して得た情報を追加したりする。
誰かの縄張りではない分、急な訪問客がいないとも限らない。
慎重に歩を進め、日が昇りきる前には野営地跡に到着し、周辺の捜索に取り掛かった。
「何もないですね」
「この辺りまでは報告書も上がってるんだよね? あと2日分かな?」
「一次救助部隊の足跡ベースで2日ですね。上陸調査隊だと倍以上かけてますから1週間弱といったところでしょうか」
「なるほどね。どうする? 調査隊を視野に入れるなら強行軍になると思うけど?」
「ええ、トモー様方には悪いのですが、このまま進みます」
ジョシュアの目に迷いはなく、可能な限り救出するという決意に満ちていた。
二次救助部隊という性質上、時間的に調査隊は望み薄とならざるを得ない。
それでも自信を持って当たれるのは、経験のなせるものか、先の部隊員たちへの信頼によるものか。
いずれにせよ、現場にいる人間が希望を持って仕事に当たっているのだから、危険が差し迫る状況でない内は全力でサポートする。
「了解。僕らが先行して良いかい?」
「お願いします。総員集合!」
野営跡地を中心とした【地図】を共有し、報告書にあった進路へ。
現状で得られた【地図】を紙に写し、手紙鞄から浮上都市へ送ることも忘れずに行う。ジョシュアたちが。
「いやぁ、優秀な部下がいるっていいねぇ!」
「トモー様、現部隊中では私がトップですからね? 勝手は控えてくださいね?」
「アイ・サー!」
「──────oh」
「なに惚けてんの? 置いてくよー? シルフィ、スー、敵性存在だけじゃなく、晩御飯のおかずになりそうな相手も捜索しながら進むよ! ミアはアディの補助をしてあげて。気になる木があれば止まってあげてね。ルゥナはいつも通り
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