第127話 米100%
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
親愛なるクローネン様
ご心配をお掛けしておりました小生の記憶について、無事取り戻すことが出来ました。
本名はトモオ・スズキですが、この世界ではトモオ=ミクラ・ウェルマーチと名乗っております。
クローネン様におかれましては、従来通り“ミツキ”とお呼び頂ければ幸甚です。
取り急ぎご一報を届けたく、筆を手にした次第ですが、其方はお加減如何でしょうか?
此方はバンドウッヅより遥か西に位置する、獣人国首都ウェルマーチスに居を構えております。
沿岸都市でもあり、大型の港湾施設を有するため、
お近くへお立ち寄りの際には、是非ともご活用下さい。
追伸
うん、堅っ苦しい挨拶はこの程度にしておいて、ビックリした?
僕もビックリだよ。この世界の故郷に戻ってこれたから良しとは言えるんだけどさ、まさに人格崩壊?
主人格のトモオとミツキとじゃ精神年齢にも隔たりがあるから、そこの摺り合わせに苦心してるよ。
なんせトモオは妻子持ち。しかも嫁が片手で収まんないときたからもうね。
子どもで両手じゃ足りなくなるし、早いところは曾孫がいるからね。
一気におじいちゃん扱いだよ。なんだか浦島太郎な気分さ。
ただでさえ子沢山は自覚していたけど、まさかの実子は驚きの連続だったね。
そうそう、僕の帰還を記念して純米酒“
困ったことがあったら遠慮なく言ってね!
心より、ミツキ=トモオ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「スー、この手紙をクローさんに届けておいてくれるかい?」
「はーい、ミツあ、トモオ様!」
「ミツキでいいよ」
「いいえ、少なくとも他人の目がある場所では徹底しておかないと!」
「その方が2人っきりになったときにミツキ呼びで特別感が出るじゃないでかぁ」
「そうそう! んなっ?! ちょっと熊っ娘! ヤメてよねっ!? 人の心読まないでよ! 営業妨害よ!!」
「ほ~、どんな営業か是非聞かせてもらいたいもんじゃな」
「第一夫人!? 恐ろしい子……!」
「コントはそれくらいでいい? フィーネ、
例の物を」
「はいよ、アタシじゃ届かないから、トモーが着けてやんな」
「スー、ちょっと大人しくしててね」
フィーネから受け取ったチョーカーをスザンナに着けてやり、マナを通して起動する。
見る間にスザンナの耳が伸び、瞳も青から金へ変わっていく。
「え? え? 何コレ?! やだ~!」
「ゴメンね、スー。抜き打ちの肌荒れチェックだよ。今着けたのはマナの使用を禁止する魔導具なんだ。──うん、可視光偽装に頼らず、ちゃんとケア出来てるね」
『拘束輪』の兄弟品、『魔封輪』は元々盗難防止の【収納】を妨害するものだったが、魔法の発動自体を妨害するものへと改良済。
妨害して奪い取ったマナの使い方の違いで拘束、感電、魔封と名称も変更しているが、基本構造は同じだ。
「じゃあ、持ち物チェック入りまーす」
風紀委員の腕章を着けたミアがボディチェックをはじめる。同じく腕章をしたルゥナが金属探知機のようなもので表面を撫でていく。
「──まだ隠してる」
「え? きゃあっ!?」
2人が離れたところで、シルフィがスザンナの背後から羽交い締めにし、上着の中に手を入れてモゾモゾ弄りはじめる。
すかさずルゥナとミアがマントを広げて目隠しをつくった。
足元に綿袋がポトポト落ち、ブラジャーを片手に満足そうなシルフィが目隠しから出て来た。
いつもより平坦なスザンナを向かいの席に着かせ、各自思い思いの場所に陣取っていく。
「えーと、どういうことでしょう?」
「うん、ゴメンね。スーの身体のことは僕が一番詳しいからさ。念には念をってね。まぁ、さっさと済ませよう。──キミは何者だい?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「──開けられるはずのない目を開けたら、“コウノトリ”の中だったの。すぐに違う世界に来たって思った。水槽から出てミツキ様に会って、神様だと思った。でもなんであたしが転生者だと思ったの?」
「
「その人は?」
「死んだよ。
「あたしも殺すの?」
「──必要とあれば」
「その必要性を確かめるためにこの場を設けたんだけどね。偏見かもしれないけど、前世の記憶をもつ者を脅威に感じる人もいるんだよ」
「彼奴の場合は、ワシら家族が危険に晒されたんじゃ。殺らねば此方が殺されていた。仕方あるまいて」
「パパがやらなければ、私たちは生まれてきてないし、貴女も此処に居なかったかもね」
フィーネ、リィナ、ルゥナがフォローしてくれ、シルフィ、ニアも頷いている。
スザンナ=リョウコの話に、皆の目許は赤くなっていた。
「小さい頃からしっかりと教育すれば、正しい倫理観をもってくれる。洗脳と紙一重だけどね。でも転生者はそうじゃない。三つ子の魂百までって言うように、すでに完成された人格はなかなか修正が利かない。だからこそ僕がしっかりと見極める必要がある。スーが誰かを害するのなら、それを止める責任がある。その肉体を与えた者としてね」
「なら、人間に危害を加えないし、
「そこは第三条も守ろうよ」
「守らない方が、あたしを守ってくれる王子様が現れそうじゃないですか!」
「──若王ってどんな子?」
「レシオのこと? まぁ普通だよ」
「良くも悪くも平凡。ティーダ兄様のカリスマ性を2割減らしたくらい」
「まぁ、内政はまだ向いてるんじゃない? 3代目のバカボンとしては及第点だと思う」
「エラく辛辣だね?」
「即位の時に“オバサン”って呼ばれたことをまだ根に持ってんのさ。あの子もちゃんとやろうとしただけなんだけどね。気が利かないと言うか、女心が分からんと言うか…」
「唐変木じゃな」
「だってさ?」
「えっと、トモオ様が良いんですけど?」
「だってさ?」
「「「あ?」」」
右からの好意を左へと受け流すと、左からは露骨な嫌悪感と殺意が返ってきた。
「だってさ」
「うわぁ…」
右へと受け流せば、呆れと諦めの吐息が漏れた。
「それじゃあ、チョーカーは外しても良さそう?」
「まぁ、危険はないじゃろ。監視も特に必要とは思えんが、ワシらで分担すればええことじゃしな」
「そうだね。じゃあ、コレをこうしてっと」
スザンナの背後に回り、マナ封じのチョーカーを取り外す。
「いいの?」
「スーを信じるよ。ティアナが話してくれたけど、ここは生き難さを抱えた人が集まって出来た国なんだ。歓迎するよ」
「……グス、トモオ様ぁ」
鼻をすすり抱きついてくるスザンナを受け止める。ここまではセーフだ。
「さっきの三原則だけど、順番は自分の身を守ることが最優先だからね。余裕があれば周りの人を守ってあげて。命令遵守はその先だよ。気にしないで良い」
「……はい」
「改めてよろしく、スー。僕のかわいい娘」
「……うん。……パパ。……ふ、ふぇぇん」
泣き出したスザンナに胸を貸し、落ち着いたところで3人娘に任せ、リビングを後にする。
家の一番奥、ティアナの寝室の扉を開ける。
「お帰りなさい、父さん」
「ただいま、ティーダ。苦労を掛けてしまったね。申し訳ない」
遺品の整理をするティーダの顔には深い皺が刻まれ、髪にも白いものが目立っていた。
「それは弟妹たちに言って下さい。順番とはいえ、ベルレーヌたちは親が只人ですからね。リィナさんのように父さんの影響を強く受けていないですから、延命も大きくは出来なかった。レシオに言って対面式の準備をさせているから、何処かへ行くならその後にして下さいね」
「西の山向こうに
「──ふふ、変わりませんね」
「そうかい?」
「どうせまた新しいおもちゃを自慢したいんでしょ? そうじゃなかったら、新しい魔法か技術か試したいんだ?」
「──正解」
管理者の施した肉体改造の確認の場として考えていたのが、しっかりとバレていた。
ティーダ、おそろしい子!
「じゃあ、対面式もそこに合わせましょう。父さんからすると曾孫に当たる子たちも、ちゃんと戦えますから。ついでに山を拓いて、そのままキャンプをしましょう。久し振りに父さんの作ったカレーが食べたいや。うんそうしよう。
「バナナはおやつに入りますか?」
「引率にホーランとケヴィンさんにも来てもらいましょうか。そしたらバナナは主食枠です」
「他家を入れて良いのかい?」
「──そうか、父さんは知らないのか。何人かはあの2家の者と婚姻を結んでますよ。教会の住民台帳を確認してもらえたら分かると思います」
ノリ気なティーダの口から発せられた事実に面食らう。なるほど、あの場に2人が乱入出来たわけだ。
「そうだ、城庭のあの像のことだけど、熊耳と眼帯が付いていたのはなんで?」
「獣人国の初代国王が只人だと格好付かないからと、満場一致で耳が変更に。眼帯は母さんからの愛ある嫌がらせです。どちらも作り替えることは許しません」
「……ぉぅ」
その後、日が暮れるまで他愛のない話をしながら片付けを進め、ティアナの部屋をスザンナへと引き継ぐ準備をした。
親子水入らずの時間を過ごしながら──。
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