第117話 新作ワンピ
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「これでようやく9振り目か。最早時流にそぐわぬ物だ。最後の1振りも残っているかさえ怪しいものだがな」
「本日こうして半数が帰ってきたことを鑑みますと、残っている可能性は高いですね。ましてや賊の管理であれほどの状態ですから」
「先人たちの技量の高さに頭が下がる思いだが、それと同時に歯痒いものだな。そうだ、オモテのバァさんらんとこに伝令を送ってやってくれ。何かしらの手掛かりになるかもしれんとな」
「“バァさん”だなんて、また尻を蹴飛ばされますよ?」
「バァさんがダメならバケモンだ。ガキの時分からまるっきり変わってねぇんだからな。いずれ国中がハナタレ扱いされらぁな」
「素直にお美しさを称えて宜しいのでは?」
「嫁に来てくれるんならな」
「王とあろう者がみっともない」
「うるせぃ! とっとと手配に行け!」
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「そんなわけで、ヘクター、僕とスーはこの国での用事を済ませちゃったから、明日にでも出国するよ」
「急ですね」
言葉とは裏腹に、ヘクターは落ち着いた様子だった。物々しい木箱が無くなっているのだ、理由も察しが付いているのだろう。
「一カ所で片付いちゃったからねぇ。物件の方はどう? イイの見付かった?」
「門近くの古い坑道を利用したものがあるそうですので、そこにしようかと」
「そうかい。ドワーフたちは背丈が小さい分、坑道の大きさもそれに見合ったものだから、【大地】で拡張すると同時に圧し固めちゃいなね。件の武器の謝礼で資金面は潤っているから遠慮せずに使ってね」
「ありがとうございます」
「辛かったら遠慮なく言ってよ? 定期的に地図の更新さえ出来れば、常駐する必要性は低いんだからね。戦争なんか相手があってなんぼ。他さえちゃんと押さえていられれば、推量は容易いもんさ。ドワーフたちの気性は分かりやすいからね。無理してからだを壊すことは誰も求めていないから。ダメだと思ったらいつでもギブアップして良いからね」
「お気遣い頂き、誠にありがとうございます」
「堅いな~。エッダはそんな風に教えてるの?」
「いえ、そんなことはありません! 姐さんはいつも優しくお美しい方です!」
「質問と答えがチグハグだけどまぁいいや。森に戻ったらエッダに伝えといてあげるよ。ヘクターが褒めていたよって。それはさておき、セントリオンでもバンドウッヅでも話したけど、なるべく素性は隠すようにね。特に寿命が長いことがバレると、それを目当てにすり寄ってくる輩がいないとは限らない。ドワーフたちは皆が皆探求者と言っていいくらいだからね。中には道半ばにして斃れるくらいなら、外法に手を伸ばす者がいないとも限らない。くれぐれも注意するように」
真っ赤になるヘクターを先頭に、この旅で何度目かの注意喚起を行う。
「異種族と結婚しちゃうと森へ帰れなくなっちゃうから、エッダ姐さんにも会えなくなっちゃうね~」
「伴侶が存命中の場合だよ、スー。これも繰り返しだけど、寿命が異なるといろんな人の死に目に立ち会うことになる。親しい友人の死に、支えてくれる誰かが居なければ耐えられない子もいると思う。惚れた腫れたは周りが見えなくなるだろうし、周囲が如何に諫めようとも暖簾に腕押しさ。キミたちが誰を伴侶に迎えようと構わないけれど、周りの迷惑をかけないこと、特に森への帰還は文字通り死活問題だと思って欲しい。人は自ら持たざる他人の物ほど強く欲しがるからね」
「富・名声・力! 痛ぁ!」
「まぁ、若さと寿命があれば、自ずと富や名声はついてくるものさ。努々忘れないようにね。じゃあ微妙に違うけど中締めってことで、この後もどんどん飲んで食べてね」
翌朝、ヘクターたちに暫しの別れを告げ、山を下る。
海賊王になりたい女スザンナと、その相棒アディとの珍道中だ。
途中の宿場町では行きで一泊した宿で昼食を済ませ、日が暮れる頃には山を下りきってしまった。
街道を外れたところで一夜を過ごし、バンドウッヅへの道を進む。
「何で普段からコレ使わないんですか?」
「人目を惹くのが嫌だからだよ。『どこで売っている? 売ってくれ!』ってきた後は、『壊れた、直せ。余計な物を買った! 返品だ!』なんて言われるのがオチさ」
スザンナの指すコレとは、新たな移動手段。自動車だ。
浮上都市の船渠で作り上げた物で、動力は石油・石炭どころかエタノール、メタノールなどの燃料を使用せずに、マナによる駆動を実現した“魔導車”となっている。
モーターによって車輪が回転するため、車軸を排して4輪を独立して動かすことが出来、送り込むマナの割合を変えることで前輪駆動、後輪駆動、四輪駆動も思いのまま。左右独立駆動も出来るため回頭性もクッション性も高く、悪路の走破力も非常に高い。
居住空間は一般的な対面式の馬車よりは狭いが、二列式の物としては同等か少し大きいくらいだ。
【収納】があるため荷室は広くせず、今は手紙鞄を置いているのみ。
難点は起動時のマナ要求量が大きく、常人には扱えないように仕上がっていること。
盗難防止対策として敢えてそのように造ったのだ。無論、鍵や認証によるロックも搭載した上での対応だ。差し詰めマナ容量による認証といったところか。
何も知らない人が動かそうとしたときには、壊れていると思えるだろう。
だが一度動き出してしまえば、地面の起伏から受ける振動でサスペンションが吸収するエネルギーも、制動時にブレーキが熱として放出するエネルギーも、車体にぶつかる風でさえマナに還元し動力とすることが出来るため、運転中のマナ消費はそれほどでもない。
「そうかな~? やろうと思えばもっとマナ消費少なく造れたんじゃないですか?」
「やろうと思えばね。ただやる必要性を見出せないだけさ。ゴブリンたちがこれに乗って森を襲いに来たらどうする? 物理的にも魔法的にもエネルギーをマナとして吸収しちゃう高速移動体をどうやって止めんの?」
「なんて物造ってんですかぁ!」
「ね? ゴブリンたちが使用する可能性を考慮すると、完全機械仕立てはリスクが大きいんだ。怯えて思い通りに動いてくれない馬車くらいがこの世界には合っているんだよ。誰かに奪われてしまうことを考えると、売り物になんてそうそう出来ない代物なんだよ。だったら自分たちだけが扱えるように仕上げておけば、リスクは下がるってもんさ。そもそも金儲けしようという気が皆無なんだから、親しくない者に対して利他的にはなれないんだよね」
「ぶぅ~。じゃあ、名前付けましょう! 魔導車なんてお漏らししただけで成仏しそうじゃないですか!」
「【蓮花】をこまめに使いなさいよ。……メリーもサニーもダメだからね」
「じゃ、じゃあ、黒いから、バットモービビビビビ」
その後、三短剣と嘴蜘蛛を却下し、フェンリルもありきたりだとボツにした。神を喰う狼の腹の中に収まるのは如何なものか。
結果的には黒いからという理由で“ヤマト”となった。足廻りの完成度には自信がある。苦心の末に開発した、おそらくはこの世界初のゴムタイヤ装着車両だ。
波動砲を付けて欲しそうな目をしているが知らない。46cm砲など以ての外だ。車体より大きな砲身をどう設置するのか理解に苦しむ。
手前の森で車を降り、最後の野営を張り、翌朝徒歩でバンドウッヅを目指した。
野盗が出るわけでもなく、ゴブリンやスライムが出るわけでもない。
ただただ牧歌的な景色を眺めながら歩を進める。
「ミツキ様、暴走馬車が来る気配がないです」
「何を期待してんだい?」
「ほら、こう、貴族とか富豪の娘が乗った馬車がコントロール不能で、止めた人に金一封どころかいろいろな便宜を図ってくれるという伝統のアレですよ」
「もれなくライバルの雇った破落戸が付いてくるやつだねぇ。その場合、助けちゃうと娘の縁談相手がやってきて、決闘だったり根拠不明なマウントをとってきたりするんだよねぇ」
「そうそうソレソレ。『ワタシのために争わないで!』って見てみたい! あわよくば言ってみたい!」
「ふーん。僕の得られるメリットは?」
「さぁ? 痛ぁ!!」
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