第95話 D計画 収納界
「【収納】した物が異空間にまるっと移動した場合、その物が存在していた空間は一瞬、無──真空になるよね。すると、そこに向かって空気が流れ込むから、風が生じるはず。【収納】する物が大きければ大きいほど強い風がね。でも実際はそんな風は起こらないから、少なくとも空気との置換が行われているはずだよ。そうなると、【収納】は何もない空間に物を仕舞い込む魔法ではなくて、ちゃんとした物質界との行き来する魔法ってことだね」
「ほうほう」
「その物質界、仮に“収納界”とするけど、そこは多分地面も何にもないだだっ広い空間で、重力がはたらかずに宙に浮いた状態。使用者ごとに区別された空間だと管理が難しいし、重力がはたらくと物が重なっちゃうからね。もしかしたら【収納】に反重力の公式が含まれているかもしれないけれど、それだとマナの消費はもっと大きくなりそうなんだよ」
「取り出した物が纏っているマナは、飲食に向かないほどに大きくなりそうですね」
「でしょ? だから空間側で制御されていると思うんだ。まぁ確認しようがないから、重力がはたらいていてもいなくてもあまり関係ないけどね。僕が創るならそうするってだけ。重なり合ったものを引き抜くのは労力が無駄に掛かる気がするしね」
「纏わせるマナを減らすための無重力ですね」
「そんなかんじ。【収納】した物が誰のか分かるように
「時間経過はありますね。この手の物だと大抵時間固定ですから、すっかり思い込んでいろんな物を腐らせてしまいました。あと、分割しながらの【収納】は出来ますが、【収納】内で分割は出来ないです。【収納】した塩水の中から、水だけ取り出すことは出来ないですね」
「それだと温度も拡がりそうだね。【収納】するためには接触の必要があるから、高温でも50℃くらいかなぁ、大抵の物は20℃くらいとして、収納界に熱源がないのなら温度は均一化されていくね。冬場に氷を【収納】しておけば、収納界自体もどんどん冷えて冷蔵庫代わりになりそうだけど、水になったらどうなるんだろ? 氷と思っていた物が水になって、イメージが合わずに取り出せなくなるのかな?」
「…【収納】した氷がなくなった理由が今分かりました」
「うまく水をイメージ出来れば取り出せるならいいね。常温になったときに変化しない状態で【収納】するのが推奨かな。夏場に【収納】を繰り返せば徐々に温度は上がっていくから結局は20℃付近で落ち着きそうか。世界規模で動いたら収納界の冷蔵庫化は出来そうだけどなぁ。火が着いた状態の蝋燭や松明なんかも収納界で燃え尽きてしまうから取り出し不可だろうね」
「…心当たりがあります」
「以後気を付けましょう。最初の質問だけど、収納界から戻ってきた後、纏ったマナが霧散するように魔法が組まれているのなら、すぐに飲食可能かな。だから【水魔法】で生成した水も、マナを散らしてやればすぐに飲めるはずだよ」
「ミツキさんはこの世界のマスターですね?」
「ヤメてよ。そんな大層なもんじゃないし、世界の管理なんてガラじゃないよ。『有り得ないことを排除していって残ったものは、どんなに信じられなくっても真実』って言うしね。繰り返しになるけど、有り得ないこと、不思議なことが出来るから“魔法”なんだから、仮説自体に意味はないよ。自分の中で理解・納得するためだけのもの。有り得ないと思っているものが実際は行われていたら、今話した仮説は真実になり得ない。『この魔法はこういうもの』って設定されていたりすれば、お手上げだね。“所有権”なんかは正にそうかも。譲渡や売買ではすんなり渡されるけど、窃盗・強奪するだけじゃ駄目なんだよね。所有者死亡でパスが完全に途絶えたときは奪われちゃうかな。だからパスを霧散させることが出来れば、奪えちゃうだろうね」
「設定が徹底していないときの裏ワザですね。不可視化からの即死みたいな」
「不可視化からの即死はドロップアイテムが出ないから、レアアイテム持ちには禁じ手だったよね」
「ですです。それを知らずに何度も周回しました。別タイトルですが、特定の手順でアイテムが増殖するのもとてもお世話になりましたね」
「不完全なロジックがあると、抜け道を突かれちゃうんだよね。アイテム数のカウントが0からさらに-1でカウンターがぐるりと回って、した最大数の255個になっちゃうわけだ。蓋を開けてディスクの読み取りをさせなければ、何度も選択し直せるスキルなんかもあったね。しかもラスボス即死だし。アクティブバトルって何だか分かんなくなったよ」
「ハード本体を立てたり、ひっくり返したりしていた時代ですね。開発陣によって用意されていた隠しコマンド(隠されていない)ってのもありました。この世界にもああいったゲームが生まれたりしますかね?」
「懐かしいねぇ。ただの娯楽が生まれるくらいに暮らしに余裕がないと駄目だろうね。槍投げや棒高跳びなどの戦技がスポーツになるのが先かなぁ。話が脱線しすぎたね。守護者なんかは造るかい? 森は蟲害が酷かったから導入することにしたけど、こっちはどうかな?」
「うーん、森を出て来てしまった分、あまり必要は感じないです。海洋生物で集団行動かつ大型化する可能性のあるものがピンとこないですね」
「そう言われるとそうかもしれないね。大型化してここら辺までやってきそうなのは、頭足類のイメージが強いかな。偏見かもしれないけど。鯨喰いをすると言われるダイオウイカなんかが脅威かも。海棲の節足動物は屍肉喰いが多いから巨大化もしれているだろうね。肉食の海獣類は数多いけど、人類と生活環境が重なるものがどれだけいるかだね。サメやシャチなんかは水中が基本だから、陸にあがっていれば問題なさそう」
「? サメは空を飛びますよ?」
「……ハリケーンには注意しようね。沿岸調査は必要かもしれないね。ゴムの木探索ついでに回ろうかな。あとは、海中素潜り漁の流れで銛や槍の扱い、強力なイカ・タコ相手のときに、腕を断ち切れる剣や斧の扱いもかな? 操船、船上での振る舞いは必修科目。発光信号、手旗信号も身に付けてもらいたいね」
「ですね。話は変わりますけど、【収納】って裏ワザ的なモノ、思い浮かんだりしないですか? 【着火】を使った物質合成・分解みたいな」
「なくはないよ? 守護者を造ると思っていたから後回しにする予定だったけど。協力してもらえる?」
「おやすいご用です!」
「裏ワザって言っても、こんなこといいなってくらいのもので、出来たらいいなくらいのものだよ」
「ドラ「収納界でさ、物を譲渡出来れば、離れた誰かにすぐ物を渡せるよね。でも収納界のことは知覚することが出来ないから、パスを
「四次「課題は【収納】の魔法公式化なんだよね。収納界が検知できないから、その部分が不明なんだ。『大賢者』様に頼りたいところだね。次に【収納】は存在を忘れちゃった物──認知していない物は取り出せないから、その認知部分を魔導具でどう再現するか。そしてそれをどうやってペアに伝えるか。メールで『コレ送ったから』って伝えられればすぐなんだけどね。シェアする人が一緒に【収納】する瞬間を見ていれば可能だろうけど、機能に制限が付いちゃうのがイマイチだよね。あとは大きさだね。【収納】出来る物の大きさは当人のマナ次第だから、魔導具でどこまで対応できるか。大きいほど魔導具の発動に掛かるマナの量が増えそうなんだよね。入れた人と出す人が同一人物なら問題ないんだけどね」
「ミツキ先生、さすがです…」
「まぁ実現できるかはやってみないと分かんないけどね。期待しているよ『大賢者』様」
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