第94話 D計画 Evolve

「クローさーん、手伝ってー」


「ハイハイ、何でしょー?」


「チャンバーの蓋を取り付けるから、持ち上げてほしいの」


「おー、おやすいご用デス。いきますよー。カタミ、ワカチタ」

「「ヤガダンセ!!」」


「おー、さすがミツキさんです!」


「さすがの意味がよくわかんないけど、大丈夫の呪文の汎用性が高すぎるでしょ」


「ホームランもかっ飛ばせるのです。信じないと効果はないのです」


「そだねー。それはさておき、装置自体は完成したね。このあと試運転して、水張り検査に合わせて配管の漏れチェック。今取り付けた蓋に刻んだ回路の動作チェックをして、実働かな」


「オゥ、さておかれましたが、順調ですね。ありがとうございます」


「まぁ、そのために来たからね。引っ越しが無ければもう少し早く実働出来たとは思うよ」


「面目ない」


「そんなショボーンな顔しないでよ。ってか、ほんと似てるな! まぁ、そこも含めて僕が来た理由と思えばいいよ。『大賢者』でも生み出した後のことまでは分からないみたいだね」


「ですなぁ。肌の色を濃くするだけで、森から追い出される羽目になるとは思ってもみませんでした」


「肌の色が濃くなるほど、ビタミンDの合成が阻害される傾向にあるからね。なるべく日光を強く受けられる環境にしてやらないと、ビタミンDの不足からカルシウムの吸収が悪くなって、骨粗鬆症やくる病のような骨格異常なんかになっちゃう。骨が弱いと筋肉も強くならないからね。日光浴をするにも、せめて森の端っこの方にいないと」


「それにしても海岸沿いとは驚きですな」


「そこはねー。森を出たらすぐ海だったってだけだけど、すぐ海に入れるからって理由ができたから、ビキニアーマーが許容出来るよね。クローさんの希望通りじゃん」


「貝殻ビキニと海草ビキニは浪漫値高いです」


「浪漫値は高いけど、ラッキースケベ枠だよソレ? じゃなかったらただのバカだよ? 真っ当な理由がないと、強要と見なされて信用がた落ちするからね?」


「手厳しい。優れた防具のデザインに採用すれば…?」


「製作者がバレた時点でアウトだね。僕は誤魔化しきる自信ないよ? それに男用の貝殻アーマーなんて作りたくもないし」


「作れるんですね…。最悪自作します」


「……任せるよ。折角だし、このまま仕様を詰めようか。時間は大丈夫?」


「無問題です。ヤっちゃいましょう」


「褐色肌はメラニン合成の調整でいけるけど、髪は銀というより白だね。毛を作る毛母細胞にはメラニンを入れないようにする形だね。完全に入れない真っ白から、少し入れる灰とが混ざり合って、丁度良い色合いになればいいかな。肌はメラニン多めでムダ毛は少な目。メラニン合成遺伝子の部位ごとでの特異的発現の調整は『大賢者』様に任せるよ?」


「お任せください! 『大賢者』様は優秀なのです!」


「問題は海水での髪自体へのダメージだね。紫外線もあるし、塩でもタンパク質がヤられちゃうね。【回復魔法】は直接の毛の修理は出来ないよ。伸ばしたり、生え替わりを促進したりは出来るけど、泳いだ後に髪の毛バッサァってなるのはちょっとホラーだね。トリートメントなんかの用意はしておきたいかも。そもそも傷付かないように保護帽をかぶるのは有りかな」


「ワカメを巻きましょう」


「ワカメって効果が高いの? 波打ってて巻きづらそうだけど…?」


「ワカメを頭に巻くなら、ビキニになっていても違和感なしです!」


「…なしで。シリコンの組成が分かれば再現も出来るんだろうけど、さすがに覚えてないからなぁ。これだけの熱帯ならゴムの木くらい見付かるかな? 追々探してみるよ。魔紋はどうしよう? 肌色が濃い分、白色顔料でも目立っちゃうしね」


「いっそのこと、黒か茶色くらいので良いかと」


「じゃあ、黒と茶を用意して、本人の好みで決めてもらおうか。図柄はトライバルを意識して幾何学より象形寄りで──っと、こんな感じでどう?」


「おー、エロカッコイイデス! そういえば、この世界の入れ墨は、犯罪者への刑罰として入れていたりとかはないですか?」


「どうだろうね? 僕が知らないだけかもしれないし、今が無くても今後そんな刑罰が出来たりする可能性はなくはないね。所有する奴隷に入れたりとかね」


「奴隷紋ですね! 抵抗しようとしたりすると痛みが走ったり、居場所が分かったりするやつです!」


「この世界だとマナのパスの強制接続ってかんじかなぁ。本人に向けた【雷魔法】の魔紋を刻んで、強制的に繋いだマナのパスから発動。物と違って生物の所有権を主張するわけだから、【収納】の可否みたいなルールが出来れば自動だろうけど、たぶん駄目だろうね。パスが切れないように常時繋ぎ続ける工夫がいるかも。主側にも支配の魔紋なり魔導具なりを用意するかんじで。パスが繋がれば位置は分かるね。主のパスが切れたときには自身のマナで【雷魔法】が発動して、自動的に逃亡の防止をしちゃうと」


「主がパスをあまり伸ばせないと不自由しそうです。おつかいもままなりません」


「そこは魔紋・魔導具で補助だね。所有権程度の弱いものだけど、常時発するマナが必要になるから、只人の場合は大事をとって成人以降じゃないと使えないかな」


「? 只人は成人しないと魔法が使えないのですか?」


「一般的にはね。使えないわけじゃないんだけど、使い過ぎると病気に罹りやすい体質になっちゃうんだ。そこらへんも何世代か経れば、いずれ解消されると思うけどね」


「適者生存ですね?」


「んー、まぁそんなかんじ? 決定的な生存の優劣に直結するわけじゃないけれど、幼い頃から魔核が大きく、魔法が上達しやすければモテるだろうし、広がりやすい形質と言えるかな。基本的に生存を左右するものじゃない限り、次世代以降に残るかどうかは運次第だから、必ずしもそうとは言い切れない面はあるよ」


「運者生存…、ラッキースケベです!」


「前半は良かったのに…。ルックスなんかはそのときそのときで流行があったりするから、決定的な美男美女って分かんないんだよね。黄金比がとれていれば美人っていう研究もあるけど、機械的に見えて嫌悪するって人もいるしね。体型もふくよかな方が栄養状態が良くて、子どもをしっかり生み、育てられるからって好まれた時代もあったから、太りやすい遺伝子ってのが残っていたりもする。男性ホルモンが多いと髭が濃くなり、頭頂部が薄くなる傾向が強いから、ハゲてる男性は男らしいという考え方もあるしね」


「薄毛男性に朗報なのです」


「不衛生・不摂生で薄くなる人もいるから、一概には言えないけどね」


「なぜ上げてから落とすです?」


「まぁ外見上のイケメン基準は時代とともに変わりゆくってことで、その時代のイケメンかどうかなんてのは、運が良かっただけとも言える。ただ美人薄命という言葉があるように、生き残っていなければ如何に顔が良かったとしても意味はないよね。バカなことをして怪我をしたり、病気に罹ったりして子孫が残せなければ、生き残った者は相対的に優れていると見ることも出来る。そう言えば、子孫を残せずに死んだおバカさんを讃える賞もあったね。結局のところ、大事なのは中身ってことだよ。それはさておき、奴隷紋は可能だと思うよ。自衛の為に解除方法なんかは研究しておいてもいいかもね。当たり前だけど、この子たちに入れることはないからね」


「当然です。むしろ入れてもらいたいくらいです」


「……オススメの魔法は【風魔法】と【雷魔法】かな」


「対称的合体!」


「そっちなのね…。【風魔法】は船を動かすときに、【雷魔法】は獲物を痺れさせるのに使えるよ。海で漁に出るときに凄く便利だよ。どっちも森だと微妙な使い勝手なんだけどさ。【風魔法】を駆使すれば静電気も溜まるから、【雷魔法】との相性も良いんだよね。まぁ【雷魔法】が派生魔法みたいなもんだけど」


「やはりシンメト「あとは水流も操れた方が良いから【水魔法】もオススメだよね。帆が壊れたときにも操船出来るし、遭難しても飲み水を確保出来るよ。ある程度マナが抜けるのを待たないといけないけどね」


「そう言えばあのルールも不思議ですね。【水魔法】で生成した水がマナを多く含むから飲用に適さないのは分かるんですけど、【収納】したものは普通に飲んでますよね? 肉とかも料理に使えていますし。何で?」


「何でだろうね? それを言ったら【収納】自体がかなり不思議魔法なんだよね。不思議なことが出来るから“魔法”なんだろうけどさ。質量保存の法則をぶっちぎってるんだよね。例えば、コップの水が180mLあったとして、比重は1。180gのH2Oがあって、H2Oの分子量は18g/molだから、10molあるわけだ。分かりやすく常温で気体になってもらうために、水素と酸素に分解すると、H2O=H2+1/2O2の式で表されるよね。H2Oが10molだから、10H2O=10H2+5O2となる。理想気体として27℃、1気圧で約24.6L/molとなるから、合わせて15molで369L。人体もおおよそ比重1だから体重(kg)=体積(L)と見なせる。60kgの人間の体積は60Lとなるから、約6人分だね。コップ一杯の水を一瞬で目に見えない状態にしたとすると、人間6人分の体積が出現することになる。気密室で【収納】ばかりしていると圧が高まってどうにかなっちゃう。ドアの開く向き次第では閉じ込められちゃうね。でも実際は【収納】を使ったときにそんな圧力や風を感じたことはないよね」


「部屋の窓を割ると、中にある紙幣が外に飛び出しちゃうヤツですね?」


「そだねー。高層建築の上階だから、強化ガラスを使っていたはずだよ? 拳銃で割るのは骨が折れただろうね、ってバーロー、話の腰が折れたじゃないか」

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