第88話 E計画 魔紋
「さて、昨日の話の続きだけど、まずは魔導具と魔法陣、どちらにするかだね」
「魔法陣を採用する場合、特定の場所に設置じゃったら意味はないな。トイレと変わらん。そうなると魔導具じゃが、作用部近くに持って行こうとするとベルトじゃな」
「ゴブリンに連れ去られでもしたら、真っ先に剥ぎ取られるだろうね。いっそのこと貞操帯にでもしちゃう?」
「それじゃあ、女はまだしも男はツラいじゃろ。朝の生理現象で窮屈な思いをすることになるのは目に見えておる」
「排泄しないんだったら、取り外しが利かないくらいのオムツアーマーでもいいと思ったんだけどなぁ」
「容姿に拘った意味ないじゃろ…。じゃが、取り外しが利かんという発想は頂きじゃ」
「外科的に埋め込んじゃう? あ──」
「「魔法陣を彫りこむ」」
「なるほど。刺青よろしく皮膚に魔法陣を描き込んじゃえば、どこでもいつでも使えるし、奪われたり悪用されたりすることもないと」
「そうじゃ。顔料も白いものを使ってやれば目立たんじゃろう?」
「普段は目に付くことはないけど、お風呂や運動で血流がよくなると、薄ら浮かび上がるお色気仕様だね。場所も下腹部だし。そうなると、魔法陣というよりは魔導回路をこんな風にエロカッコよく…」
「こういうときのお主は本当に頼もしいのう。ココはコッチに繋いだらんといかんぞ」
「じいちゃん、エロは人類の原動力の一つだよ。エロなくして人類の繁栄はないからね! ──そうなるとコッチはこんなデザインに変更して…」
「と、そんなこんなで『魔紋』が出来上がったけど、コレって他の魔法にも応用できるよね?」
「無論じゃ。五指に火炎弾を飛ばす魔紋を刻み込めば同時に5つの火炎弾を使うことが出来るし、左手に炎弾を、右手に氷弾を出して掛け合わせて放つことも出来るな」
「五指爆炎弾と極大消滅魔法だね。オリジナルは呪文か。消滅魔法はあれだね。正の熱エネルギーと負の熱エネルギーを打ち消しあって、
「結局のところ、物体の温度は構成する物質分子・原子のもつ運動エネルギーと言えるからの。完全停止が絶対零度じゃな。そこから温度を上げていったときに、物体の形を留められなくなると固体から液体、気体へと相転移するわけじゃ。この運動エネルギーを正負で与えることにより、周りを留めつつ一部を動かせば、その部分の分子または原子が飛び出してきてしまうと。これを繰り返せば、対象を構成する分子は、魔法のぶつかった箇所ですべて離脱・飛散し、ぽっかりと穴が開くわけじゃ。まるで消滅したようにな」
「おー。使用者が発射前に消滅することがなかったのは、マナで自分を保護していたからかな? そう考えると、マナの消費が激しい理由も納得できるね。炎弾と氷弾1発ずつの筈なのに、それ以上に消費するらしいしね。エネルギーの正負が相殺しないように制御も必要だし、相当な技術が要求されそうだね」
「まず、天才と呼んでいいじゃろうな。そもそもこんな魔法を創ろうとした奴も大概じゃぞ。魔法を飛ばさずに合わせた状態で直接殴りつけようものなら、地獄と天国どちらへ転ぶか分からんな」
「もはや異星の技術だね。でさ、じいちゃんのかねてからの希望だった精霊魔法なんだけど、これでソレっぽいの創れないかな? 例えばトカゲっぽい形の火炎弾を作って、使用者に追従させるんだ。ソイツが居てるだけで、ソレっぽくないかな?」
「いや、【土魔法】だと浮かばせるのはおろか、追従させるだけでひと苦労じゃ。他の属性と比べると質量が段違いじゃからな。マナの管理が難しくなるだけじゃ。ナンチャッテ精霊魔法を騙って、いざ本物が見つかったらこの子たちに申し訳が立たん。ワシらが恥をかく分には構わんが、この子たちが恥をかくのは違うじゃろ? ましてやワシは生きておらんかもしれんしの。非難を受けてやることも出来ん。ちゃんと考えくれてありがとな」
「そっかー。公式化してしまえば、使用者が変わっても同じ様に発現するから、説得力はありそうだったんだけどな~。じゃあテロメラーゼと分化全能性の公式を組んだ【回復魔法】を追加するくらいかな? 手にでも刻んでおけば、植物に作用する事も出来るんじゃないかな?」
「【木魔法】か?! 心躍るなっ!」
「生木じゃないと駄目だし、パスが繋がってないと論外だけどね。植物の生長に作用・促進するから多少は活性化できるだろうけど、弦の鞭でバシバシみたいに戦闘中に使えるような爆発的なものは無理だよ。他生物を取り込んで自己へ組み替えるような仕組みを、植物自身に導入すれば出来るかもしれないけどね」
「まるで魔界の植物じゃな。家を造るためだったらこれで十分じゃろ。──マナを植物体の構成物質に変化させて操ってみせれば、どうじゃろうか? 要らんくなったらマナに戻せばパッと消せるぞ?」
「それだったら【収納】から取り出したら一瞬で生長したように見せられるね。【収納】し直せばパッと消せるし。マナの物質置換は負担が大きいだけの無駄遣いだよ」
「バッサリ…」
「纏めると、手に付与するのは熱操作の正と負、つまり【火魔法】と【氷魔法】に加え、【回復魔法】の3つかな?」
「弓を使うときに【風魔法】があると、補正を掛けやすくて便利じゃないか?」
「それを言ったら、両手を合わせて地面を触るだけで石筍が出来るように【土魔法】をいれるのもありだよね? 暴漢に襲われたときなんかはスタンガンよろしく【雷魔法】は便利だし、汚れを洗い流す【水魔法】もあるとないでは大きな違いだね。全部盛りにしちゃう?」
「大きくなってから自分で選べるようにしてやろうか。公式化するということは威力も決まってしまうからの。伸ばしたい才能の頭打ちを作ってしまうことになりかねん。当人の苦手分野を補うためという扱いに留めておこう」
「りょーかーい。魔紋のデザインはヘナタトゥーっぽくしたいね。図柄での意味は本家と違うかもしれないけど、火と氷は正と負、陽と陰で“太陽と月”。回復はこの子たちの生活環境でもあり、生命力の象徴として“大樹”をあしらったかたちかな。風は靡く草を、土は大地を、雷はその元となる雲を、水は雨を…」
「まるで新しい生命の樹じゃな」
「背中にどどんと?」
「背中はいかんぞ。焔の秘密が遺せなくなるではないか!」
「そんなものないよね?」
「将来的な話じゃ。何事も可能性を奪うことをしてはいかん」
「龍の左手を狙ったり? 王の記憶の秘密を遺したり?」
「もしかしたら、そういうこともあるかもしれんじゃろ?」
「まぁいいや。手に刻むならそれぞれこんな感じかな?」
「いいんじゃないか? 腹のやつと趣が異なるのがまたいいな」
「うーん、そう言われちゃうと、ちょっと手を加えたくなっちゃうね。アッチは“蓮の花”の要素を加えるよ」
「泥の中に咲く大輪の花じゃな」
「合うでしょ?」
「そうじゃな。そっちの方が一貫性も出ていいかもしれんな」
「安心して。エロ要素は忘れないから!」
「お、おう」
「手の方の顔料も白系でいいんだよね?」
「その方がいいじゃろうな。消すことはないだろうから、心理面で負荷を掛けることはあるまい。刺青に対して悪感情をもつ人間がいないとも限らんしな。不要な波風を立てる必要はあるまいて」
「おっけー。あとはこれらの魔紋をどうやって入れるかだね。僕らなら直接魔法で刻んでやれるけど、僕ら以降のことを考えておかないとね」
「漏洩するとあまりいいものではないものばかりじゃ。悪用する者が現れんとも限らん。全員が知る必要はないな。長を決めて管理させよう」
「詳しい仕組みを教えないのであれば、魔導具を造ってあげた方が良いかもね。【収納】出来ないように、マナの妨害・放散回路を組み込むのも忘れずに。そんなとこかな?」
「じゃな」
「それじゃあ、張り切っていきましょー」
「「オー!」」
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