第80話 手紙 ~15の君へ~
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1から12を数えていくと、one, two, three, four, five, six, seven, eight, nine, ten, eleven, twelveとすべてバラバラである。
13のthirteenから19のnineteenまでは“teen”が共通するようになり、20以降はtwentyをはじめとして、“ty”が付いて後に1~9が加わる新たな規則性で進行する。
これは、1歳から12歳(無論
13歳から19歳は青年期とされ、社会の規則性を学ぶ時期。大人の階段を上るモラトリアム。
20歳以降は成年期となり、完全に規則性に縛られた状態。規則を破ろうものなら、社会不適合の烙印を押されかねない段階だ。
逆説的ではあるが、20歳になるまでは、多少の失敗については社会はそれを許してくれるし、許すだけの度量をもとうとする。
勿論、多少なりとも罰は受けることになるだろうし、度を超えた行いには相当の報いがあるだろう。
高を括って反省の色がなければ、厳罰が下ることもある。
この手紙を読んでいる君たちは、15歳を迎え成人と認められたことだろう。おめでとう。
前述の年齢については私の故郷の話で、厳密に言えば世間に広まっているものではない。
だが、なるべく同じ扱いとなるように、この国を作り上げてきた。
只人であれば、生活魔法を修得するのを待って成人として認められる。その歳がだいたい15歳であった。
我が国では大樹の力もあり、マナの扱いに長けることから、生活魔法は指標にならないため、明確に“15歳”と決めた。
それは魔法が使えようとも、15年という月日で培う人間性を重視したためでもある。
それでもまだ15年だ。5年の猶予がある。
失敗を怖れなさい。
失敗し、考え、また失敗し、また考え、そして、成功を喜びなさい。
何でもこなしてしまう者は、成功を積み重ねなさい。
積み重ね、重ね重ねて、失敗するまで成功しなさい。
失敗したという事が、糧になる。
もし失敗と成功を繰り返す中で、一緒に悩み、喜び、泣いてくれる者が傍らにいれば、それが仲間だ。
これからの5年間は失敗の許される期間。
考えに考え抜いた挙げ句、失敗してしまうのであれば、社会は許すだろう。
考えず、反省もせず、失敗を繰り返すのであれば、許されることはない。
国を出て世界を歩けば、また違ったものも見えてくるだろう。
君たちが見るものは、私が見たものと同じものかもしれない。だが感じ方、捉え方は異なるはずだ。
しかと見聞を広め、より良き己となれるよう祈っている。
筆:トモオ=ミクラ・ウェルマーチ
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父の手紙を手に、馬車に身を揺られる。
父がバンドウッヅで手に入れてきた馬たちは、異常と言えるほど長寿で、9年経った今でも現役だ。
今、僕を乗せているこの馬車を牽くのはその子どもたちで、連れ帰ったときに既に母馬が身籠っていた2頭だ。
その後も母馬たちは隔年で産み続け、先に生まれた4頭は、行商やアニスさんの島で農作業に駆り出されている。
後に生まれた4頭はまだ遊び盛りで、ウェルマーチスを出発した時は牧草地を駆け回っていた。
今はツワァゲンランドへ向かう旅の道中。
王選でドワーフたちが集まるため、結婚相手を探し求めに帰るオットーさんに付き添って、ドワーフたちの国を見に行く事にしたのだった。
ちなみに、ブルーノさんとハンスさんは獣人のお嫁さんを貰った。ドワーフと獣人の特徴を兼ね備えた、
男女のこともよく分からないのに、父の様になるのを期待されても困る。
トールとジャスティのお母さんたち、イースさんとプレアさん姉妹もいる。
更にアニスさんの島に残っている現地妻もいるから、把握出来ているだけでも15人。
1日1人で1周するのに2週間以上掛かるけれど、よく不満が出ないものだ。
それが王の器だというなら、王にはなれそうにもない。
最も王に近いのはホーラン(呼び捨て)で、この間10人目が見つかり、国中に激震(物理)が走った。マナの大樹に逆さ吊りにされた姿は記憶に新しい。
13番目の標的がいることを、奥さんに教えた方がいいのか迷っている。
ケヴィンさんには奥さんが3人いて、子どもは10人いる。
全員狼人で一列に並んだときに、尻尾が一斉に右、左と規則正しく揺れていたけど、練習したのだろうか?
飛びつこうとするルゥナとミアを取り押さえるのに必死で、質問できなかった。
父の跡は継ぎたいのだけど…。
間もなく中継地のバンドウッヅだ。
獣人国からすると、曰く付きのバンドウッヅだが、リィナママの生家があるため、邪険にも出来ないとのこと。
交易の拠点として発展著しく、中央の都市国家セントリオンとドワーフ国ツワァゲンランドに加え、もしかしたらダンさんたちの村経由でウェルマーチスの物も入っているかもしれない。
建国時のスライム騒動による兵役の義務化によって、国民、特に男性の精強さは、直接交易を行っていないウェルマーチスにまで届いている。
あくまで只人間での噂話であるため、情報の確度がどれほどかは不明だ。
わざわざバンドウッヅへ立ち寄る理由もそこにあって、バンドウッヅの男たちを見定めておきたい。
バンドウッヅでは毎年この時期に何かしらの闘技大会が行われているらしく、今年はドワーフ国の王選があるからと、闘士になるチャンスが与えられる『闘士選出大会』が行われる。
この大会にはドワーフ国の鍛冶士たちが観戦に来ており、優れた使い手と認められれば、優勝できなくとも王選へ挑む闘士として選ばれる事があるらしい。
もっとも闘士に相応しい者がいないとなれば、選出されることはない。
しかしながら『闘士選出大会』と銘打ちながら、選出者が0では格好が付かないと、最終戦は王選参加が決まっている闘士と闘い、勝てばその闘士の枠を譲ってもらうことが出来る。
勝てない場合でもその闘士が王選に出場するため、大会出場者から王戦に出場することは担保されているという寸法だ。
ルールは王選に準拠するというが、有象無象の武器を用いて闘うため、武器破壊が絶対ではない。
戦意を喪失した相手を死亡させた場合は失格となるが、避け難い攻撃に武器が耐えきれずに死亡した場合や、怪我をして粘りすぎたために失血死するような場合には不問とされる。
そのあたりは審判員が判定するとのことだ。
傷付くことが想定されているため、防具の装着も【回復魔法】の使用も認められている。
攻撃魔法が禁止されている以外は、通常の闘技大会と大差ないらしい。
「ティーダ様ですね。それではこちらの札をお持ち下さい。その札を持つ闘技大会出場者は、宿をはじめ酒場や娼館で割り引きが受けられますので、ご活用下さい。では明日から大会は開催されますので、時間までに闘技場へお集まり下さい。場所は北門を出てすぐ右手の小闘技場です。左手の大闘技場は上位トーナメントで使用致しますので、お間違えのないようご注意下さい」
「はい、ありがとうございます」
ダンさんに教えてもらったと、父がこの大会のことを話してくれた。
ドワーフ国に行くことも腕試しの一環だ。
どうせならと、王選への出場も自力で勝ち取ろうと思ったのだ。
この大会で勝てなければ、王選出場も夢のまた夢。
というのは建て前で、只人の戦闘能力がどの程度のものか、身をもって確かめたいと思った。
搾取しようとする者たちから、家族を守るためにも、必要な能力を見極めたい。
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