第58話 真の敵は身内

「力を抜いて。──いくよ?」


「ん──。あぁッ?!」


「ココで一旦止まるよ? ナカで感じて」


「うん。ハァ…ハァ…。あぁ、うん」


「いい? 続けるよ?」


「──アアァ! 待って、待って!?」


「────いい? もう一回イクよ?」


「ん、ぅお、大っきい…ぁふ」


「入ったよ。──動かすね」


「あ、あぁ、熱い、スゴいの! グチャグチャになっちゃう!! ──ぁ、溢れるぅ…」


「まだだよ、まだイっちゃダメ」


「──ウソ。アハァ、ゥ。ヤダ! 膨らんでる。まだ大っきくなるの?!」


「ホラ、イクよ? もうガマンしなくていいよ」


「あああああぁぁぁ、ダメ! ダメ! あああぁぁぁ」


「──イったかな? ナカにあるの分かるかい? コレで2人のが出来るんだよ? 一緒に頑張っていこう──」



 フィーネに【巡廻】でマナを注ぎ、ミクラ氏と同じくショートソードを打ってもらう。


 リィナたち4人の武器で、新旧の製法で優位な差が確認できたため、各工房の魔法炉を改造して回ったため、順番は最後に回された。


 改造して作り上げた魔法炉は、基本構造こそ王宮工房のものと同じだが、回路の入出力はレベルを落とし、意図的に性能の低い物しか出来ないようにした。

 これは独立する鍛冶士たちが外で構える工房の質を下げるためで、外敵により接収されたときの脅威を下げるのが狙いだ。


 同様に捕虜や戦死者から奪われることを考慮し、兵士の装備する武具も一般の工房製となり、王都防衛のみ王宮工房製となった。

 親衛隊や近衛兵のみに与えるのでないのは、民が全て王になれる、この国ならではの考え方と言える。

 民を守れなかった時点で国としての未来はないという、極めて分かりやすい思想だ。


 王選のルールは一般工房で武器を打つことはそのままに、優勝者の『戎貴世』への挑戦の部分が変更された。

 優勝者は王宮工房を使って武器を仕立て直すことが出来、『戎貴世』と同条件での製作を可能とした。

 これにより真に優れた鍛冶士が分かり易くもなるのだ。


 『戎貴世』の挑戦時には互いにマナを通す必要があるため、挑戦対象の武器は、打った鍛冶士や扱った闘士、先王や準優勝者などその武器に縁深い者が持ち、可能な限り条件を揃える。

 但し、扱えない武器に価値はないという考え方は健在で、十全に扱える者が居なくても問題ないとはされている。



 王宮工房試運転を兼ねた、新製法の検証製作が完了すると、王宮工房製の鍛冶道具は一度回収、王へ献上される。

 各工房長と星持ちには再度下賜され、王都防衛兵士の武具の製作に取りかかるという。

 名誉くらいしかなかった星持ちに、実利が与えられることとなり、実質的に王に至るためには必要な称号となった。

 残念ながら該当しなかった者たちは、再度手にするために研鑽するのだ。

 如何に優れた道具であるかを身をもって知ったため、取り組みにかける熱量は計り知れない。



「完成したよ。念のため、もう一度マナを抜いとくかい? 研ぎの間に馴染んじまってるかもしれないし」


 丹念に磨き上げられたショートソードを受け取り、マナを纏わせる。


「特に問題ないようです。ほぼ私のマナで打ったようなものですからね」


「完成したようだな。ではフィーネよ、道具を此処へ」


 作業音がしなくなったことで、王をはじめ、議会を構成する面々が工房内に入ってきた。

 フィーネの作業完了をもって検証製作が完了したため、今後は工房長と星持ちによる王都兵士の武具の製作に入る。

 いずれにも該当しないフィーネは工房長オイゲンの手引きを受け、鍛冶道具を盆に乗せて王へ献上する。


「ハッ。有り難うございました。お納め下さい」


 傍付の従者が盆を預かり、製作時の目録と照らし合わせる。過不足ないことを確認し、王へ報告した。


「うむ。確かに。ではオイゲンの娘フィーネよ。ここにツワァゲンランド国王ガイウスの名に於いて、そなたに『星』を授与する。王宮工房製道具とともに受け取るがよい」


 ガイウスの言葉に合わせ、従者が一人前に出る。手には星の乗った盆があり、道具の乗った盆を持った従者の横に並ぶ。


「? ──髭はありませぬが…??」


「其方には美しい髪があるではないか。爪にも気を配っていることが分かる。あまり褒めそやすとセクハラだパワハラだとあらぬ言を掛けられてしまう故、これ以上の形容は伴侶となる者に譲るが、今朝方、議会で決定した。髭がないだけの理由で女性に星が贈られないのは、今後のこの国の発展のためにならぬと。命の危険がない事柄に於いては男女平等であるべきだろうとな。決して婦人方が怖かったわけではない。全会一致での決定だ」


「何故、小職が?」


 未だ理解が追いつかないフィーネが問いを重ねる。


「王選の前であれば、箸にも棒にもかからなんだよ。王選での成績、そしてその後の国への貢献。何よりその美貌だな。よき相手に巡り合えたと見える。自らを磨くことを忘れず、仕事も一級品だ。星に相応しい人物と皆が認めた。拒否権はないぞ。其方が受け取らねば、今後星を授ける基準が跳ね上がってしまうのでな」


「謹んでお受け致します。一層精進致します」


「「おめでとうございます」」


 工房内を満たす拍手に、頭を垂れたフィーネの足元に雫が落ちた。



「さて、トモーよ。これで其方の求めた進歩した技術が形となったわけだが、いかんせん、実戦試験を終えておらん。決勝戦の再現をするべきなのかもしれんが、ここにいる皆が其方の力量を知りたがっていてな」


「参考までに、拒否権は──」


「ないな。其方も実戦での経験は必要であろう? それとも娘御たちと真剣勝負をするのか? ──場所は闘技場。一刻後に始めようか。新たな星持ち、フィーネの腕を国中に知らしめてみせよ」



 闘技場へ移動するため王宮工房を出ると、号砲が1つ鳴り響いた。


 闘技場に着けば王都中の人が集まっていた。注目されていることよりも、盗難や侵入者が不安になるほどだ。

 先の号砲が集合の合図だったようだ。


 簡単に準備を済ませ、開始の合図を待つ。

 命の駆け引きにはならない上に、武器の性能を評価するための試合なので、防具の着用は認められていない。

 将来的に武器の開発に行き詰まることがあれば、防具の進歩をはじめ、武技や運用法を競うことになるのだろうか。


 対戦相手のガイウスは王選と同様に両手剣だ。ドワーフという種族柄、身の丈ほどの巨大剣に見えるが、只人には標準的なサイズだ。

 それでも腕力の高さを生かして、刃幅、厚さは大きく作られており、只人では持ち上げるのも一苦労だろう。


 対する此方は刃渡り50cmの両刃の直剣。長さとしては長鉈と同じくらいだが、柄は短め。

 柄尻に拳大の半球が付けられており、引きの掛かり、突きの押し込み、柄尻での直接打撃に対応する。

 今回は剣だけでの試合のため使用出来ないが、金鎚を使って鏨の様に追撃することも出来る。



「急な呼び掛けに集まってくれて礼を言う。此処にいるトモーが我々に新たな知見を授け、魔鋼の可能性を押し広げてくれた。今日はそのお披露目だ。王選とは異なり、多少の余興も含まれている。楽しんでいってくれ」


 ガイウスによる簡単な紹介の後、審判員により開始が宣言された。


 ──ん? 余興??


 銅鑼が鳴らされ、予選で用いられる鋼材が投げつけられる。

 慌てて虚視を発動し、鋼材に込められたマナに合わせ、剣に纏わせるマナを調整する。

 少なければ刃が悪くなるし、多すぎれば切断するだけで勢いを殺せず、数を増やした鋼材がそのまま直撃してしまう。

 躱してしまうこともできたが、主旨に外れるため片っ端から斬り捨てていく。


 ガイウスも同様に斬り捨てていた。良かった、イジメなんてなかった。


 再度銅鑼が鳴らされ、続いて先の王選で使用された武器の影打が投げ込まれる。コチラもしっかりマナが込められていた。


 見覚えのあるショートソードにシミター、熊手が容赦なく投げ込まれるも、新しく作って貰っていることを知っているため、遠慮なく破壊していく。

 此方の隙を狙うように蛇腹剣が巻き付こうとするが、読めてもいるし、見えてもいる。

 本選でされたように、ワイヤーを切断しバラバラにしておく。


 更に投げ込まれる武器を斬り捨てていくも、マナの刃からなる自称【風魔法】が混じっていたため、足下の鋼材片を取って、発生源の茜色バケツヘッド目掛けて棒手裏剣宜しく投げつける。

 バケツの中へ1cm突き出る程度に加減した。

 湯気とともに茜色バケツヘッドの足元に水溜まりが広がる。鼻のいいミアが涙目になっていた。

 へたり込んでグショグショだろうが、尻を冷やして風邪をひかない内に立ち上がることだ。


 三度銅鑼が鳴らされ、片付け部隊が入って一時休憩となった。

 茜色バケツヘッドも連行された。身元引受は何処に行けばいいのだろうか。

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