第54話 胸なのか箪笥なのか
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王選が始まりました。
パパやママたち、お兄ちゃんに村の人たちとマナの扱いを一杯習っていたから、鉈にマナを纏わせるのも簡単だったけど、ダンさんに作って貰ったナイフの方がしっくりきます。
素材の違いなのかなぁ?
パパが木剣で訓練するようにって言っていたのは、鍛冶士さんの自信を奪わないための配慮かなぁ?
鍛冶士さんが仕立ててくれた鉈は、木剣と同じくらいのマナの通り方をします。
木剣はマナの濃い村の木から作ったものだから、マナが通りやすいのです。余所の木で作った木剣なんて、マナを通すだけで壊れちゃうもんね。
それと同等だから、凄い出来がいいのは分かるんだけど、普段見慣れているのが
まぁ、与えられたモノで勝負するしかないよね。
それにしてもパパの【収納】って異常だよね。村一つ抱え込めるって聞いたけど、流石にそれは盛り過ぎよねぇ? よね?
何で村の木を持ち歩いているの?
うん、よくわかんない。
予選は皆余裕でした。
リィナママは別の日にクリアしたみたいで、どんな武器を使うか見せてもらえなかったな。残念です。
組み手でボロボロになったからってムキにならなくていいのにね。だってニアママの動きに比べたら全然ゆっくり。
本職魔法使いなんだから仕方ないんだけど、シルフィの余計な一言で完全に火が着いちゃったみたい。「──バァサン」は言っちゃダメだよ。
みんなガマンしていたんだから。蜂蜜取り上げられたのも自業自得だね。
今回の予選は一回だけで、あとは勝ち上がり戦のトーナメントが組まれました。
同じ工房はなるべく当たらないようにされていたけれど、ミアと4回戦で当たりそう。シルフィはリィナママと2回戦で当たりそうかな。
1・2回戦は相手が油断してくれたから、アッサリ武器破壊できました。
ミアも同じで、アッサリ勝利。
シルフィはやっぱりリィナママとぶつかりました。
大振り攻撃が主体だけど、柄の返しで攻撃を受け止めたり、片手持ちでリーチを伸ばしたり、扱いがスゴく上手くなったんだよね。またリィナママの惨敗かな?
闘いはシルフィ優位で進みました。
リィナママは長剣でリーチはあるんだけど、王選は武器破壊が勝利条件だから、的が大きくもあるんです。
ホラ、斬撃を躱したシルフィの一撃で剣がバラバラに──って、バラバラすぎない?
シルフィの圧勝なのに、リィナママニヤニヤしているの。あの笑い方やだなぁ。
やっぱりリィナママはセコかった。バラバラになった剣を操って、シルフィをぐるぐる巻きにしちゃった。あれってアリなの? 武器壊れたんじゃないの?
判定員のおじさんはリィナママの勝利を宣言しちゃった。
シルフィは「あたしが死んでも代わりがいるもの──」って、死んでないよ!
あとでパパに訊いたら、“蛇腹剣”っていう浪漫武器?の1つなんだって。
予選で構造を申請していれば、ちゃんと判定してもらえるんだって。昔は構造申請がなくって揉めに揉めたんだって。
出場者じゃないのによく知っているねって言うと、保護者としての義務だって。んー、よくわかんないや。
刃と刃の間にワイヤーが通されていて、長く伸ばせば鞭のように縦横無尽に襲いかかってくるし、間のワイヤーを攻撃しようとすると、そこで動きが変わって却って危険なんだって。
近付いたらワイヤーを巻き取って長剣として闘えるし、飛ぶ斬撃のように遠距離攻撃も出来るって。
リィナママの【風魔法】とスッゴい相性がいいんだって、パパが釣り竿で動きを再現してくれたけど、ママより上手でした。練習していたの? 浪漫武器?って褒め言葉なのかな?
3回戦は警戒されてなかなか近付かせてくれなかったけれど、相手に指導が入って、闘わざるを得なくなったみたい。
瞬殺でした。
真っ正面から来たら、リィナママより遅い打ち込みは狙いの的でした。
ミアも危なげなく勝ち抜いて、4回戦で当たることが決まりました。
リィナママは3回戦でロングソードの相手と闘いました。
初めから剣をバラバラにした状態で、鞭のように相手を近寄らせずに攻撃を重ねて、相手もそれを剣で弾いて隙を窺って一進一退。
結局そのままリィナママの削り勝ち。ドヤ顔しているけれど、直接当たらない限りはちゃんと応援しているよ?
一夜明けて、4回戦。遂に身内対決。
手の内を知り尽くした相手だからこそ、何をしてくるかわからない。隠し事しているってバレバレなんだから。
頭一つ小さくても、アタシの方がお姉ちゃんなのよ。半年だけだけど。
闘い自体はいつも通りでした。
鉈で打ち付けても曲刀で流されて、曲刀の攻撃も鉈の厚みを突破できない。いつもの膠着状態で、何度も打ち合う内に息が上がってきちゃう。
次が最後の一撃って、渾身の力を振るうんだけど、姉妹って似るのだとつくづく思いました。
ミアは曲刀の根元、長く取られた鎺を、アタシは長めの柄の先を持って、互いに両手持ちで打ち合いました。「チェリオォォッ!」て、なんか違うくない?
結果から言うと、アタシの勝利! 姉の意地を見せました。
しっかり握れるけど逆手になっちゃったミアに対し、コッチは順手。
刃幅と厚みの差もあって、刃の中程で折ることが出来ました。
でももう流石にヘトヘト。明日の準々決勝闘えるかなぁ。
リィナママは4回戦でショートソードを操る男の人と当たりました。
アタシたちと同じ工房のフィーネさんのパートナーなんだって。直前までドタバタしていたけど、間に合ったんだね。
てっきりパパが出てくるかと思っていたけど、マナの感じは違うよね。パパは観客席にいるし。
帽子を深く被っているから表情はよく分からないけれど、結構カッコイイかも。
フィーネさんの好みがわかんないけど、多分イイ人なんじゃないかなぁ? スゴい応援しているし。目が乙女入っちゃっている。
ママが増えるわけじゃなさそうよね。シルフィの予想はハズレかなぁ。
闘い自体はシルフィのときと同じかな? 何度か打ち合って、リィナママの剣がバラバラに。
打ち振るう刃が風を巻いて斬りつけていくけれど、やっぱりパパの釣り竿の方が上手く見えたなぁ。
巻き上がる風と刃で相手の帽子が飛ばされちゃった。出てきたのはなんと熊人。
焦げ茶色のくせ毛で、どことなくティーダお兄ちゃんに似ているかなぁ?
リィナママもスッゴいビックリしていました。あれはパパが対戦相手だと思っていた顔ね。
殺気がちょっと和らいだけど、パパはちゃんと観客席にいるんだよ。どちらも応援していないあたり、ちょっと複雑だね。
熊人さんは観客席のシルフィをチラッと見て、リィナママの振り回す刃を左手で受け止めちゃった。マナで覆っているけど、素手で出来ちゃうものなの?
あ、熊人だから肉球で耐えられちゃうのかな? シルフィが手をニギニギしている。お姉ちゃんにも触らせてほしいなぁ。,、ァ,、ァ、痛くしないから。ね?
熊人さんは攻撃せずに、掴んだ刃を放しちゃった。うん、引っ込んだ殺気が再び燃え上がっているね。
そりゃ、「バカにしてエエェェッ!」ってなるよね。「リィナママ頑張れー」って応援していたら、熊人さんがコッチを見ていました。「熊人さんも負けるなー!」って、シルフィもミアもあとでどうなっても知らないよ?
──あれ? もう終わった? 「動け、動け“
高密度のマナを纏って一気に切断したみたい。熊人さん、アタシたちに闘い方を教えてくれた?
翌日の準々決勝の相手は、歴戦ってかんじの斧使いのドワーフのおじさんで、優勝候補の一人らしいの。
何度か打ち合ってもビクともしなくって、逆に打ち込まれたときは逃げの一択。コマみたいにグイングイン回られると、手も足も出ません。
こうなったら熊人さんが見せてくれたように、高密度のマナを鉈に纏わせてって思ったんだけど、これが拙かったみたいでした。
前日のミアとの闘いとおじさんの斧との打ち合いで、鉈の疲労が限界にきていたらしくって、爆発して砕けちゃったみたいです。
爆発のショックで気を失ったので、後から全部パパに聞きました。
気が付いたのは【回復魔法】を掛けてもらっているときで、てっきりパパだと思ったら熊人さんでした。
すっごいビックリしちゃって、ドキがムネムネするってこういう事なんだぁって。
傷一つ残さずに丁寧に回復してくれました。パパと同じくらいの使い手だったら、許してくれるよね?
熊人さんの準々決勝も優勝候補の一人で、リィナママの武器を作った人と同じ工房の人なんだって。
ドワーフで、大きな両手剣使い。
アタシのときと同じような状況になって、ごり押しされちゃった。
フィーネさんに目配せした後、コッチに笑いかけてくれたけど、そのままあっさり負けちゃった。どうしようもないこともあるって事かな?
結局決勝戦はアタシに勝った斧使いのドワーフさんと、熊人さんに勝った両手剣のドワーフさん。
かなりの接戦で、斧の柄が闘いの焦点でした。
『幅のある刃よりも破壊しやすく、逆に狙われることが分かっているから守りやすく。──対して両手剣はどこも同じだから、ちゃんと狙わないとダメージを蓄積出来ないし、考え方によっては何処を狙っても同じだから、相手の癖を見切ってしまえば手薄になるところに集中できる』
解説ありがとうございます。でも、おじさんは誰?
夕方に始まった決勝戦は、月が真上にきたところで勝負がつきました。
両手剣の勝利です。
単純に体力勝負でした。
年配の斧使いのドワーフさんが息切れしちゃって、両手剣のドワーフさんが斧を弾いて決着です。解説おじさんどこ行った?
さぁ、待ちに待った宴です。お腹いっぱい食べるぞー!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます