第25話 旅は道連れ
村に戻り、それぞれが日常を取り戻していく。
家族を失った者、新しく家族を得たもの。残された者たちで、新たな生活を始める。
旅立ちを決めた者もいた。
「それじゃあ行くわね。お世話になりました」
「どうしても行くのか?」
「ええ、もう決めたので。この子が大きくなって、機会があればまた顔を出します。案外近いかも知れませんしね。南村のこと、お願いします」
「──そうか。無事を祈ってる。良い旅を」
村長となったダンに別れを告げる。
ティーダを抱いたティアナと共に、旅装に身を固め、村を発った。
旅程は不明だが、お伽噺になるくらい。誰かが見聞きして、伝えられるくらいの距離。
元の世界に置き換えて、鬼退治した桃太郎の話が都に伝承されるとして、いくつか説はあるものの、発祥地から近くの大きな街・都まで約200kmか。
時速4kmで歩いて50時間。一日に6時間歩いたとして8日と少し。
女子ども連れで余裕を見て10日程。さらに【収納】があるこの世界ではもう少し距離は伸びるだろうから、片道約2週間をみている。
見付からない場合の帰還も考えて、往復でひと月分の準備はしたつもりだ。
ダンに頼んでいた防具の修理も、改良・追加の品も出発前に揃えてくれた。
旅立ち行く者に与える物としては破格の物だった。
残していく家の管理もお願いした。
将来的にはリズかラルゴか、自立するのが早い方が住むことになるだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「では、行きましょうか。今日は予定通り南村まで。そこで一泊して、森を迂回して進みます」
村の外に出て歩み始め、今日の目的地を確認する。
「本当に良かったのですか? 私たちと一緒にきて」
「構わんよ。元々此奴は根無し草じゃ。何よりこの世界のことを舐め腐っておる。何が起こっても何とかしよるじゃろうし、痛い目みるのも一興じゃ」
「リナさん、ヒドくありませんか?」
「リ・ィ・ナじゃ。昨夜決めたじゃろ。さんもいらん」
茜髪の少女ことリィナがしゃしゃり出てくる。
「高々ひと月程の付き合いじゃろうが。こんな風にしたのもお前さんじゃ。責任は取ってもらわんとな。呼び方ぐらい変えてみせい」
「では、リィナ、ティーダの世話と道案内をお願いします。貴女の年の功に期待しています」
「死ぬか?」
「冗談です。──愛していますよ?」
「死ね!」
リィナの【風魔法】が頬を掠める。
お返しに足下を液状化させ、首元まで浸かったところで硬化させる。
「こら、止めんか! ここから出せぃっ!」
「分かりましたから、マナの無駄遣いは止めましょうね」
「「お前が言うなぁ!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
新たな装備の確認をしながら進む。
腕に装着したそれは、手甲の上から覆うように、盾を兼ねた腕当。
盾ほどの面積は確保されていないが、肉厚の甲面は刃物を通すことはなく、腕との間に挟んだ
手首部分と肘部分は肉厚になっており、重量は感じるものの、腕の振りの勢いを増し、打撃力の向上が見込まれる。
鉈の追い打ちを腕当でも出来るようになったものの、振り回すには上腕から肩、上半身の筋肉に加え、逆に振り回されないように足腰の強化が必要になった。
当面の間は常時着用し、筋肉に負荷を馴染ませていく。
かなり蒸れてしまうところだが、要所要所に汗抜きの穴が開いており、魔法に頼らずとも快適性は保たれていた。
一際大きな穴が手首部分に開いており、肘に向けて延びていた。
中に円筒を仕込んでもらったのだ。
肉厚は5mm、内径で8mm。言わずもがな、銃身である。
片腕で2本並べて、攻撃を受けるときの圧力の分散も狙った。
肘側の燃焼室を起こして、後方から装填するようにしたため、銃身にはライフリングを施してある。
ダンには簡単に構造を伝えただけだったが、すぐに形にしてくれた。
試射を繰り返し、今の形がゴールとして見え、完成したときには2人で抱き合って大喜びしたが、女性陣の目は冷ややかだった。
何度骨折と火傷をしたと思っているのか、小一時間問い質したい気分になったが、リタの背後に般若が見えたから止めにした。あれはダンの仕事だ。
それにしても、ダンの火傷治療の腕前は流石だった。
話には聞いていたが、鍛冶仕事にはやはり付き物なのだと実感した。
火傷防止と発射の衝撃への緩衝材として、人熊の毛皮は優秀だった。
撃った後の薬室は熱を帯びているため、再装填で起こす際には手袋代わりに手甲が必要となった。装備としての方向性はこのとき決まった。ズル剥けになった指先も無駄ではなかった。
弾頭は取り敢えず、屑鉄を精錬し直した鉄が主体で、貫通力や殺傷力はそれなりだ。
最悪【土魔法】で現地調達するつもりだし、拘りはない。
これは、と人熊の歯を加工した弾頭をダンが用意してくれた。
薪にするため乾燥させていた丸太に撃ち込んだら、抱え込む太さがあったのに、貫通どころか破砕した。リタの雷が落ちた。リズとラルゴは泣いて震えていた。
作った分すべて渡すと言われたが、押し付けられただけだろう。確かに手元に置いておきたくはない。
40発程あったが、すべての歯を加工したのか? 臼歯もあったはずだ。リタの怒りはもっともだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
野鳥を狩りながら、南村跡に着いたときには日暮れ前だった。
狩りに熱中し過ぎてしまった。
動体への射撃の難しさと命中精度の補正。
コリオリの力を考慮するほどの距離ではないし、単純な手ブレ──銃身を保持する腕力がないことが原因だ。
後半は慣れてきて当てられるようになってきたが、魔核を掠めることもしばしばだった。
発射の反動で腕が上がらなくなり、運用面での問題点が浮き彫りになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夜は家財回収のときと同じく、ティアナの家で過ごした。
殆どの家屋は使えそうな建材の回収に加え、野犬や狼、ゴブリンたちが棲みつかないようにと、粗方壊していた。
ティアナの家は、また来るからと堅牢に作り替えたが、それでも荒らされる不安はあったので、いっそのこと【収納】してしまっていた。
「本当にデタラメなヤツじゃのう。家屋を【収納】するのは大魔法使いレベルじゃぞ。ワシが世話になった魔法使いじゃ出来んかったわい」
「ただの【収納】ですけどね」
「使うマナが桁違いなんじゃ!」
「そんな事より、東のどの辺りかって分かっているんですか?」
取り出した家に上がりながら、明日以降の行程を確認する。
「もう50年以上前の話じゃぞ。実家の酒場に来た旅人がホロ酔いで話してくれたんじゃ。例え与太話じゃとも、気に入っとったから昔話風の寝物語にしただけじゃ」
「森の東側に出て、東に見える山を越えて、その先の森ですよね?」
炊事をしながらティアナが訊ねる。
「そうじゃ。その辺りはアレンジしとらん。そもそもワシらの村も、本来は森の東側に作るはずじゃった。開拓団の主力たちが倒れてしまったから、今の場所に落ち着いたんじゃ」
「例の魔法使いもですか?」
「うむ。ティアナや、お前さんもこの男の異常さは目の当たりにしとるし、これからもウンザリすることばかりじゃろうから、先に話をしとこうか」
「──ふええぇぇぇん」
ティーダが空腹を訴え始めたので、夕飯を先に済ませることにした。
夕飯後、ティーダを寝かしつけ、リィナは果実酒の水割りを片手に、懐かしむように静かに語り始めた。
「此奴は“渡り人”と言って、こことは違う別の場所からやってきたんじゃ。ワシらにはない知識をもっていたりする。大昔の賢者や富豪などは大方、この“渡り人”じゃろうと踏んどる。その“渡り人”に見られる特徴が黒髪・黒眼なんじゃ──」
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