第21話 カロリーは0
参加した村の数だけ煙か【照明】が上がり、今回の討伐が終了した。
遺品回収の後ダンは、積まれていた骨も【収納】した。
「ゴブリンの犠牲者は村に帰ってから、一緒に弔ってやるんだ」
回収を終えた頃には火も燻る程となり、穴の中は消し炭ばかりとなった。
「あとはここの穴ぐらを崩して終いだ。そのままにしてたら、すぐに何か棲み付いちまう。手伝ってくれるか?」
「大丈夫です。まとめていきます」
ダンの要請に応え、窪地全体にマナを広げ【土魔法】を発動させていく。
縦穴を埋めつつ、横穴を崩して大きなすり鉢状になるように地形変化させる。
5分ほどで完了し、皆を追いかける。
森の出口近くで生存者を連れた先発組と合流出来、ダンとエリックとで解体場へ向かうこととなった。
川辺の解体場で母熊と屠殺された家畜たち──豚1頭に山羊2頭を処理していく。
体表の汚れを綺麗に落とし、血抜きを流水中で行う。
腹を開き、内臓を取り出していく。
どす黒く変色しており、食用に適さないことが見て取れた。
「ゴブリンに襲われるとな、連中のマナに侵されて腹の中から駄目にされちまう。ここまでヤられちまうと、【回復魔法】も効かずにすぐ死んじまうんだ」
「他のはまだ症状は軽かったから助かると思うけど、この仔たちは体も小さく、マナの影響も強かったんだ。──肉は大丈夫そうだよ」
肉にマナを通し、抵抗の有無で汚染を確認できるという。
【回復魔法】や【巡廻】で、生きている間でも大凡検討が付くらしい。
「そんでもってコイツだ」
子宮を切り開くと、小指の先ほどの胎児が2~3体、臍の緒でぶら下がっていた。
ソレは豚でも山羊でも等しい形で、繁殖期など無視した存在だった。
「コイツらはすべてゴブリンになりやがる。ただ連中が殖える為だけに、他の動物の胎を利用するんだ。苗床って言ったのはそういうことだ。雄は餌に、雌は苗床にってな」
「それで女衆は森に入ることを禁じられたのですね。脅威が大きくなってしまうから」
3人で手分けして解体を進めていく。
得られた魔核は大分小さく、そのまま処分してしまうことになった。
「ゴブリンどものマナに対抗しようとマナを使い切ってしまうからね。しょうがないよ」
母熊は捕らえられてからが長く、肉どころか皮さえ汚染されていた。
もとの体格は良かったので、魔核を取り出すことになったが、期待しないでと言ったエリックの言葉通り、以前穫った猪のものと比べると2回り以上小さかった。
「これだけ形が残っているなら十分だ。元の大きさが残っていたなら一財産だったかもな」
「家畜はどうしても魔核が育たないからね。やっぱり野生の方が大きくなりやすい。野鳥なんかだと空を飛ぶのに風を利用するから、体格の割に魔核が大きいし」
「だからこうして森の傍で暮らすのですね」
「そういうこった。トモー、さっきの
「ありますよ。【収納】から出しましょうか?」
「おう、頼む。ここで解体していこう。食えるわけじゃないが、骨や牙、爪に皮と、いい素材になるはずだ。村で解体するのは、女子ども、特に南村からの連中には酷ってもんだ」
「分かりました」
除去した臓器や母熊を、焼いて供養する。
その間に川辺に寝かせるように、人熊を【収納】から取り出す。
「また綺麗に仕留めたね。傷一つない。食用ってわけでもないし、血抜きが出来なくてもいいね」
「頭は首級として、村に持って帰っていいか? 石を投げたりして、憂さ晴らしをしてもらうんだ。皆の心の整理に使わせて欲しい」
「構いませんよ」
「爪と剣歯は根元から抜いて、皮を剥いで魔核を取ったら燃やしちまおう。このクラスだったら骨は燃え残って、強度もそのままのはずだ」
協力して解体していき、焼いて骨にしたときには、日は大きく傾いていた。
帰路につき、森を出て丘を登りきると、村からは煙が登り、昨夜のゴブリンを燃やしているのだと知れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
村に着くとリタが迎えてくれた。
「他の生き残りは? ──そうか」
首を横に振るリタに、南村が失われたことを知る。
「連れ帰った人たちは、堕胎させてお風呂に入ってもらっているわ。ただ…」
表情を曇らせ、言い淀む。
「一人お腹の大きな娘が居てね。このまま産むって聞かないのよ。最悪の場合どうするかは伝えたわ。今はシャーリーが付いてくれている…」
「その娘の旦那や家族は…?」
無言で首を横に振る。
「そうか…。ラルゴの嫁さんだったら良かったんだが。俺たちの手で独りにしてしまうかもしれんな…。そういやラルゴは?」
「子どもたちの相手をしてくれているわ。彼自身も大変だろうに」
「明日、遺品の整理をする。遺骨も有るんだが、山羊や豚も混ざってる。判別はつかないだろうから、まとめて弔うことになるな。女将さんの弔いもそのときだ」
互いに、神妙な面持ちになる。
「分かったわ。2人にも伝えとく。もうすぐご飯よ。リザが用意してくれているわ。エリック、今晩は貴方もこっちで食べて行きなさい」
夫婦のやり取りを聞きながら、避難所と化した家へ無事帰還した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
──起きて~。
──朝だよ~?
──目覚ましのキスが必要かな~?
──キャアアアァァァァーーッ!
悲鳴に覚醒する。
抱え込んでいた抱き枕を手放し、ベッドを抜け出す。
「おはようございます、リズさん」
「ぉ、おぉ、ォ,、ョゥ…」
真っ赤になり俯くリズがいた。
部屋に招き入れた覚えはないが、鍵も掛けずに寝てしまったのだろう。
盗まれて困る物は特にないし、目くじらをたてるようなものではない。
「何かありましたか? またゴブリンでも?」
悲鳴の原因を尋ねる。
「リズさん?」
左頬に痛みが走る。
「トモーさんのバカァ!」
罵られて、走って出て行ってしまった。
残念ながら、それで喜ぶ属性は持ち合わせていなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おはようございます」
「おはよう、トモーさん。聞いたわよ? 女の子連れ込んでいたんですって? ウチの娘じゃダメだった?」
食堂に顔を出すと、開口一番リタが訊いてくる。
周りは先に朝食を済ませたようで、2人きりだった。
「いえ、勝手に潜り込まれたようです。とは言え、言い訳にも成らないですね」
「全裸だったもんね? 大きかったって言っていたわよ?」
「ちょっとナニ言ってるかわからないです」
「今日の予定なんだけど、南村の人たちに遺品を確認してもらって、その後で葬儀をするわ。ウチの村からは母さんだけだけど、南村の人たちの気持ちに一区切り付けさせて上げたいしね…。その後で戦勝祝いも兼ねた収穫祭よ。昨日、居残り組で準備したんだから、期待していて。──あと、ダンが工房にいるから顔出して上げて」
「分かりました」
手早く朝食を済ませ、工房へ向かう。
「朝っぱらから大変だったみてぇだな」
上機嫌なダンがニヤニヤしながら、椅子を勧めてくる。
「隙があったのは確かですね。何か手伝いましょうか?」
「いやなに、コイツを渡そうと思ってな。女将さんに言われて新しく打つつもりだったんだが、トモー用にしたものを先に打ったんだ。親方の打った鉈を使っているだろう? 対の金鎚と一緒に。比べられたら出来は良くないかも知れねぇが、戦闘用としての使い勝手は上のはずだ」
渡された新しい鉈は刃渡り50cmにもなり、今までのものより20cmも長い。
刃厚は6mm、幅6cm。
刃先が鋭角に突き出し、ククリと鉈の間といった感じだ。
柄の取り付け角度は強くないが、弧を描きながら長めに取られていた。
指の掛かりが良く、攻めは長く、受けは短く。持ち手を変えることで、力の掛け方が変え易くなっていた。
「もちろん薪も割れるし、両手持ちも出来る。刃を入れた後の追撃は金鎚でやっても良いし、もう一本の鉈を使ってもいい」
「──二刀流」
「そういうことだ。斬り掛かる際に左右の持ち替えは不要になるし、金鎚じゃ受け難いしな。追撃は峰でやらなきゃいけねぇから、手返しの練習は必要だがな」
「早速、薪を割りに行ってきます」
「待て待て。そう言ってくれるのは嬉しいんだが、話は未だ終わっちゃいねぇ。鎧の肩部がヤられちまってただろ? 修理するから出してくれ。あと人熊の革を使って、腕や腰、腹回りの防具を揃えてやる。見た目の統一感も出したいから、全部出しといてくれ」
言われるままに防具を出していく。
「念のため、サイズをもう一度計らせてくれるか? リズのやつが『大きい!』って騒いでたもんだからよ。──確かに筋肉は付いてきてるが、騒ぐほどじゃねぇな」
──チョット、ナニ言ッテルカ、ワカラナイデス。
「まぁ、余裕を持った造りにして、ベルトで調整できるようにしとくわ。何か、希望のデザインとか、追加したいものとかあるか?」
「それなら──」
追加品の打合せを終え、昼食を済ませた後、薪割りで新しい鉈の感触を確かめる。
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