第437話

 夏休み中は何かと忙しいため、入浴後もマネージャーの妹と打ち合わせだ。

「スッキリした顔で出てきてくれちゃって……死ね」

「ぼ、僕だって抵抗したんだよ? 抵抗」

「でもスクール水着に我慢できなくなって、ぶっかけたんでしょーが」

 本当のことなので、ぐうの音も出なかった。

(最初の頃はもっと健全なソーププレイだったはず……なんだけどなあ)

 『ソーププレイ』という言葉に『健全な』という修飾が可能かどうかは、さておき。

 気持ちを切り替え、『僕』は夏のスケジュールを確認する。

 7月の残りの予定は次の通り。


   ケイウォルス学院で世界制服(KNIGHTSも共演)

   縁日~花火大会で配信企画とライブ

   SHINYとSPIRALで合同トークショー

   ミュージック・プラネットに出演   

   白虎アクアフロートでKNIGHTSと対決企画


 目下の企画で大きいものは、世界制服と花火大会か。世界制服はケイウォルス学院にてKNIGHTSも共演することが決まっている。

 マネージャーが肩を竦めた。

「にしても……花火大会にライブをぶつけるなんて、よく企画が通ったわね。正気の沙汰とは思えないわ」

「綾乃ちゃんにも同じこと言われたよ」

 『僕』自身、この企画の実現には四苦八苦したもので。

「でも最高のステージになるよ、絶対。花火をバックにライブするんだからさ」

「はいはい」

 SHINYは業界でも異例尽くしの、無茶苦茶な企画ばかり。

 だからこそ結果は未知数、だからこそ頑張り甲斐がある。

 その後も妹と打ち合わせしていると、タオルを頭巾にした美香留が戻ってきた。

「ふい~っ。いいお湯だった~」

「……と、もうこんな時間ね。ミクは帰るわ」

 美玖がてきぱきとノートパソコンを片付け、席を立つ。

「メンバーの心のケアは丁寧にね、兄さん。曲がりなりにも『彼氏』なんだから」

「う、うん。善処するとも」

「あと妊娠させないように。……ほんっと気をつけなさいよ? オスザル」

 実妹に『オスザル』などと罵られてしまった……。

「オオカミくらいでよくない? ねえ、美香留ちゃん?」

「ふえ? おにぃはおサルさんでもオオカミさんでもないっしょ?」

 マイエンジェル美香留の純朴なまなざしが『僕』の汚らわしさを露にする。

「こ、こんな僕を見ないで……」

「それよりおにぃ、今夜も一緒に寝てくれるよねっ」

 しかし美香留がいるおかげで、『僕』は平穏な夜を過ごすことができた。

 アプローチがエスカレートしつつある里緒奈も、さすがに美香留の前で大それた真似はできないらしい。お子様にうふんあはんを見せられないのと同じだ。

 ところが美香留に対し、まったく遠慮することのない妹もひとりいるわけで。

「お兄ちゃんっ! 今夜はきゅーとも一緒でいいでしょ?」

 キュート(仮面をつけただけの美玖)が現れるや、猫なで声で『僕』に甘えてくる。

「もうっ、またぁ? ミカルちゃん、おにぃとふたりっきりがいいの!」

「そうはいきませんよーっだ。お兄ちゃんはきゅーとのだもん」

 間に『僕』を挟んで、今夜も妹たちが火花を散らした。

(また始まっちゃったか……)

 足音なしに距離を取ろうにも、やはり喧嘩の原因として巻き込まれる。

「どーせ美香留はすぐ寝ちゃうんだから。お兄ちゃん、ふたりで夜更かししようねっ」

「この前はそっちが先に寝落ちしたくせに。おにぃと夜更かしするのは、ミカルちゃんなのっ! 大体、きゅーとには自分のお部屋があるっしょ?」

「だーかーらぁ、お兄ちゃんはきゅーとのベッドなの。わかんないかなあ~?」

 当然、妹たちは『僕』の嗜好を熟知していた。

 ふたりともパジャマの袷を開くと、紺色のスクール水着が――。

「ね? おにぃは美香留ちゃんが一番だよね?」

「一番はきゅーとっ! ……ね? お・に・い・ちゃ・ん」

 いいえ、一番はスクール水着です……。


 そして翌朝、『僕』は何とも優しいマッサージで目覚める。

「うぅ~ん……って、うわぁあ?」

 両隣にいたはずの美香留とキュートはどこへやら。

 カーテンが全開で眩しい中、レオタードのメイド姉妹がエロゲーみたいに『僕』の自主規制をマッサージ……。

 慌てて『僕』は腰を引き、枕を股間に挟む。

「陽菜ちゃん? 恵菜ちゃんまで、あ、朝っぱらから何やってんのぉ?」

 メイドの陽菜は奥ゆかしい素振りで、恥じらいの笑みを浮かべた。

「いえ、その……起こしに来ましたら、お目覚めになっていらっしゃいましたので」

「何言ってるかわからないよ? 恵菜ちゃんも止めてってば」

 姉の恵菜は余裕めかして微笑む。

「夏休みですもの。エナも時間がありますから、お兄さま先輩に朝のご挨拶を……と」

「朝の挨拶って……部屋に忍び込んで、パンツを脱がせることが?」

「それは準備段階ですわ」

 このメイドさんたち、教材を間違えたのではないだろうか。完全にどこぞのリアル・エロゲー・シチュエーションなのですが……。

 キュートの姿は見当たらないものの、美香留はベッドの端に転がっている。

「むにゃむにゃ……手伝ってあげるね? おにぃ……びゅるびゅるするのぉ……」

「おっ起きて! 天使がそんな夢見ちゃだめ!」

 素っ裸で枕を抱え込む『僕』と、レオタードのメイド姉妹と。

 天使系の妹が寝惚ける中、さらに乱入者がもうひとり。

「朝だぞー、お兄ちゃま! ……なんだ、もう起き……て……」

 幼馴染みの天音騎士VS魔法少女の姉妹、再び。

 今日こそゲートを閉じようかと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る