第431話

 女子校の水泳部である。

 それだけで……こう、胸が熱くならないかい? 

 今日は朝から水泳部の活動のため、『僕』も変身し、女子高生だらけのプールへ。

「練習、頑張ってね! おにぃ」

「美香留ちゃんも。チア部、期待してるぞー」

 純真無垢なマイエンジェルと離れ離れになることだけが寂しい。

 アイドルの里緒奈たちも水泳部の一員として、今朝は練習に加わることになった。

 恋姫や菜々留も紺色のスクール水着(水泳部用なのでハ・イ・レ・グ)で、朝のうちから眩しい夏の日差しを浴びる。

「絶好のプール日和ね! 早く泳ぎたいわ」

「なんだかんだ言っても、練習が始まると頑張っちゃうのよね? 水泳部」

 里緒奈のワガママボディーも生き生きとしていた。

「ん~っ! Pクンがアイドル活動と同じくらい水泳部もっての、わかる気がするわ」

「良妻を気取らないでくれるかしら? 里緒奈」

「まあまあ、恋姫ちゃん。今だけのことだから……ね?」

 苛立つ恋姫を宥めつつ、菜々留が里緒奈の言うところを解釈する。

「アイドルだからってアイドル活動一辺倒じゃ、すぐに行き詰まると思うの。こうやって別のことをして、気分を変えるのも大事でしょう?」

「それは……レンキもわかるんだけど」

「あと、女子高生らしいこともたくさんしなくっちゃ。ナナルたちは『女子高生のアイドル』を売りにしてるんだもの」

 菜々留の言う通り、プロデューサーの『僕』も、このクラブ活動がSHINYに大きなプラスをもたらすと確信していた。

 ダンスの練習以外で身体を動かすのも重要だ。

「まあでも、リオナたちのタイムじゃ大会はちょっと……ねー」

「先輩たちはもっと速いものね」

「美玖ちゃんならチャンスがあるんじゃないかしら」

 妹の美玖もスクール水着に着替え、プールサイドで合流した。

「易鳥たちが潜り込んでる気配はなかったわ」

「ありがと、美玖ちゃん。ほんっと……易鳥ちゃんには気を付けなくっちゃ」

「ナナルとしては、むしろ易鳥ちゃんにはいて欲しいんだけど? 里緒奈ちゃん」

 コーチとして『僕』は皆に号令を掛ける。

「そろそろ始めるよー! まずはしっかり準備体操からネ」

「は~い!」

 健全な女子高生たちが、健全なスクール水着で、これまた健全なラジオ体操を始めた。

 スクール水着一枚のうら若い肢体が、右へ左へと曲線をつける。

(この素晴らしい光景に……祝福を!)

 ぬいぐるみの『僕』も一緒においっちに、おいっちに。

「あれ? 美玖ちゃん、もう始めるの?」

「ええ。最初が肝心だから」

 今朝も妹のドライブシュートが華麗に炸裂した。んばぶっ。

 辛くも生還を果たしつつ、『僕』は水泳部の面々と一緒にシャワーへ。

「やーん! 冷たぁい」

「P先生もこっち、こっち!」

 スクール水着の天使たちがびしょ濡れではしゃぐ、素敵な夏のワンシーン。

「菜々留。それ、こっちに放って」

「こうね?」

 お次は恋姫に稲妻アタックを叩き込まれた。んぶっびゃらぶ。

「美玖も、恋姫ちゃんも……ここは水泳部であって、サッカー部やバレー部じゃないからね? あと、僕はボールじゃないんだぞ?」

「だから水泳部でしょーが。高校の」

 一体『僕』が何を間違えたというのだろうか……。

「はあ……。まっ、こっちのPクンがおバカなのはいつものことだし? ぬいぐるみの妖精さんなら、女の子におかしな真似もできないでしょ」

「我慢できなくなったら、里緒奈ちゃんがヌいてあげるものねえ」

「え? でもリオナがシコシコしてあげるのに、Pクンのオカズは水泳部のみんな……って、変じゃない?」

「ここは高校の水泳部だって、さっきも言わなかったかしら?」

 恋人が『僕』の生理現象や嗜好について、正しい知識を持ち始めているのが怖い。

「みんなのプールなんですから。汚さないでくださいね? P君」

「恋姫ちゃん? 今の発言に違和感とかないわけ?」

 SHINYの今後に一抹の不安を禁じえないものの、『僕』は指導に励む。

 水泳部での指導は平泳ぎの場合、こうだ。


   女の子のフトモモの間に『僕』が入り、浮き身をサポート

   手足の動きに合わせて、前方へ押してあげる

   これを繰り返すことで、綺麗なフォームが身につく   


「美玖はいいから。それ」

「エ? でも上級生はみんな、これでタイムが伸びたんだぞ?」

「いらないって言ってるの。あと死ね」

 意地っ張りの妹は別として、水泳部のメンバーは今日も順番待ちだ。

「P先生、私はクロール! この間みたいに教えてー?」

「オッケー、シホちゃん。まずは脚を……」

 よく鈍感呼ばわりされる『僕』も、さすがに自覚していた。

 この姿の『僕』は、こちらの世界でも美男子にカテゴライズされるのだろう。なかなか異性と縁のない女子高生たちには、それこそ王子様のように見えるわけで。

「彼氏がモテモテだからって、嫉妬しないでね? 里緒奈ちゃん」

「面白がられてるだけよ? Pクン、自覚して?」

 イケメンのぬいぐるみに生まれてしまったのだから、仕方がない。女の子たちのハートを温かく包み込んであげるのは、『僕』の義務であり、使命だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る