第428話

 激動の二日間を終え、ようやく『僕』もベッドの中へ。

 ぬいぐるみの身体で転がりたかったが、恋人からお誘いがあったので、変身はせず。

 橙色のルームランプだけが灯る中、恥ずかしそうに里緒奈がパジャマを脱ぎ出す。

「そ、その……恋人同士だし? お兄様がその気なら、スクール水着を着てあげてもいいんだけど……今夜は、ね?」

 魅惑のセミヌードが『僕』の前で露になった。

「里緒奈ちゃん……」

 『僕』の困惑など意に介さず、下着一枚の恋人が同じベッドに入ってくる。

 吐息が聞こえそうな距離だ。

「んねえ……お・に・い・さ・ま?」

 新しい関係に舞いあがっているらしい里緒奈が、猫撫で声で甘えてくる。

「ちょっ、里緒奈ちゃん? どこ触って……」

「お兄様も脱がなくっちゃ。そっちのほうが絶対、気持ちいいんだから」

 そのことを否定するつもりはなかった。

 『僕』は女の子のスクール水着が大好きだが、自分はなるべく裸でありたい。そのほうが、女の子の柔らかさやスクール水着の感触がダイレクトに伝わってくるからだ。

 しかし今夜の『僕』はまた別のことに戸惑っていた。

「いやその、盛りあがってる時に何だけど……後ろにも、ほら」

 右の里緒奈に対し、『僕』の左にもセミヌードの恋人がもうひとり。先ほどから凄まじい殺気を放ちまくっている。

「どうだ、イスカも脱いだぞ? こっちを向け」

「もうっ! 無視してやろうと思ったけど、存在感ありすぎて無理!」

 ベッドインのムードなど最初からなかった。

(こういう勘の良さはさすがだなあ、易鳥ちゃん)

 『僕』を跨いで、ふたりの恋人がバチバチと火花を散らす。

「もう帰りなさいったら。お兄様が休めないでしょ?」

「こっちの台詞だ。そっちこそ、お兄ちゃまと夜更かしするつもりだろう?」

「あ、当たり前じゃない! リオナとお兄様はそういう関係なのっ」

「イスカとお兄ちゃまもな。抜け駆けは許さん」

 さらに里緒奈は『僕』の右腕に、易鳥は左腕にしがみつき、ブラジャー越しの巨乳を大胆に押しつけてきた。あ、柔らか……。

 不意に里緒奈がぴくっと敏感そうに反応する。

「んああっ? お兄様ったらぁ、そんなとこに手ぇ突っ込んだりしてえ」

(何をしてないけど?)

 対抗するように左の易鳥も

「あっ、あふ? 本当に好きだな、はあ、お前は……」

(だから何もしてないんですけど?)

 ふたりの意図はわかる。『僕』とそこまで進んでいるフリをして、ライバルを遠ざけようという算段だろう。

 いかにも嘘っぽい演技で、ふたりが声を色めかせる。

「ほ、ほらね? お兄様はぁ、リオナに病みつきなのっ」

「騙されるものか。イスカは幼馴染みだぞ? はぁ、こっちの相性だって抜群……」

 真中の『僕』は恐る恐る仲介に入った。

「待ってよ、ふたりとも。二股してる僕に言えたことじゃないけど、順番とか、そういうのはナシで……いや、ええっと」

 しかしかえって火に油を注ぐ形になり、恋人たちはヒートアップ。

「順番……そ、そうよ。先にイッたほうが先手ってことで、どう? 易鳥ちゃん」

「の、望むところだ。……ちゃんとイクのが条件だぞ? 嘘はつくな?」

 そして『僕』を間に挟んだまま、秘密の競争を始める。

 暗いのではっきりとは見えないけど……里緒奈も、易鳥も、自分でパンツの中を弄ってないか? 熱帯夜だから蒸れるのカナー?

「ちょっ、ストップ! そんなキュートみたいなことしないで!」

「やっぱりあの子、お兄様と……はあっ、こんなことまで?」

「とんでもない妹だ、涼しい顔をして……あふぅ? お前、触ってないか?」

 やけに湿っぽい吐息が『僕』の首筋をくすぐってくる。

 そのうえで、里緒奈が『僕』の頬を舐めだした。

「んっ……ぺろぺろするくらい、いいれしょ? お兄様ぁ」

 同じく易鳥もスイッチが入ったようで、

「ラブホの時みたいに、んむっ、いいんらぞ? おにぃひゃまらっへ、ぺろぺろぉ」

 頬どころか、耳の中にまでにゅるっと入ってくる始末。にゅるっと。

(どどっ、どうすればいいの? 教えて天使さん、悪魔さん!)


   天使「僕だったら、先に易鳥ちゃんとパコパコかな?

      それを里緒奈ちゃんに見せつけて……」

   悪魔「いいな、それ。じゃあ俺は里緒奈のほうから……

      易鳥の目の前で、後背位でよォ」


 必死に理性に訴えるも、頭の中のエロゲーを止められない。

 この場でエッチの拒絶は不可能だった。

 下手に断ろうものなら、恋人たちはライバルより『僕』に不満を募らせるわけで。

『リオナに魅力がないってこと? 何よ、お兄様のバカ! 意気地なし!』

『見損なったぞ。女にここまでさせて……お前はそれか?』

 当然、その話はほかのメンバーも知るところとなり、『僕』の処刑が確定。

『言い残すことはありませんか?』

『違うわよ、恋姫ちゃん。思い残すことはないかしら?』

 下着姿の恋人たちに挟まれて、『僕』は赤面するどころか青ざめる。

「わ、わかった! どっちもちゃんと相手するから、まずは喧嘩をやめて!」

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