第427話

 その夜、寮のリビングにて。

 ミーティングが始まって早々、里緒奈が宣言する。

「えーとぉ……このたび、リオナはPクンと交際することになりました~!」

「……ッ!」

 それを聞くや、菜々留と恋姫がこめかみに青筋を浮かびあがらせた。

「あらあらまあまあ……Pくん? とうとう里緒奈ちゃんとヤっちゃったのね?」

「待って? 今時の女子高生ってそんな思考回路してるの?」

「××に出したんですか、どうなんですかっ!」

「アイドル! 清く正しく美しいアイドルがそんなこと言わないで!」

 一方で、当の里緒奈はだらしのない笑みを浮かべる。

「えっへっへ~、真剣交際ってやつぅ? ……そうそう、恋人同士なんだから、今夜から添い寝もしてあげなくっちゃね」

 平然としていられるのは、美香留くらいのもの。

「ふぅーん。じゃあ里緒奈ちゃんは三番目の恋人かあ」

「え? なんでリオナが三番目なの?」

「だって一番が易鳥ちゃんで、二番はミカルちゃんっしょ? だから三番~」

 いつの間にやら順位が決まっていたことに、恋姫と菜々留が苦笑する。

「確かにその通りだわ。ねえ? 三番さん」

「今どんな気持ちなのかしら? 三番ちゃん。うふふ」

 里緒奈はレッドドラゴンと化した。

「よっ、四番と五番も怪しいひとが、何言ってるの? ほんとは悔しいんでしょ?」

「Pくん、次の企画はメンバー同士のバトルロワイヤルにしましょ。それで優勝したひとが新しいセンターになるの」

「それよ! レンキがセンターになってSHINYの風紀を正さないと」

 ブルードラゴンとグリーンドラゴンも目覚め、熾烈な睨み合いを繰り広げる。

 そんなあわや一触即発の戦線を、美玖が一笑に付した。

「順番なんて、あってないようなものじゃないの。あなたたちの場合。それとも何? 次は兄さんの『初めて』を巡って争うの?」

「初めて……」

 SHINYの初期メンバーがごくりと息を飲む。

「焚きつけないでよ、美玖……みんな、最近はお風呂ですごいんだからさ」

「知らないわよ。ミクは家のお風呂使ってるんだから」

 そこへメイドの陽菜がお茶を運んできた。

「あのぉ、交際がどうとか聞こえましたけど……お兄さん先輩、ヒナと恵菜は何番目の性処理当番になりますの?」

「おかしい! 陽菜ちゃんの言ってることが一番おかしい!」

 それって、ファンタジー編のアリエム王女だけじゃないのか……。

 気まずい空気の中、『僕』は咳払いを挟む。

「ま、まあ……里緒奈ちゃんとは交際することになったけど。僕が優先するのはSHINYのアイドル活動(と水泳部の活動)だから、そこははき違えないで欲しいな」

「おにぃ? なんか今、変な間がなかった?」

「突っ込まないで、美香留。どうせまたスケベなこと考えてるんだから」

 いまいち信用してもらえないものの、全員が頷いた。

「プロデュースのほうは意外と真面目ですしね。P君は」

「水泳部の練習も大真面目よねえ」

「あとコスプレ企画もね。『ユニゾンヴァルキリー』はミクも楽しみにしてるけど」

 里緒奈が踏ん反り返って、さらに鼻を高くする。

「ふふんっ! 悪いけど、この夏はリオナの勝ちよ? 大勝利っ! なんたってぇ、彼氏がいるし? デートにも行かなくっちゃ」

 恋姫が真顔で言ってのけた。

「P君を処刑したほうが早そうね」

「い、異議あり! 僕には弁護人を呼ぶ権利があるんだぞ?」

 菜々留はやんわりと関係の清算を勧めてくる。

「考えなおすなら今のうちよ? Pくん。里緒奈ちゃん、彼氏への要求が高そうだもの」

「あー。わかってるよ、そこは」

 反射的に『僕』も真顔で答えてしまった。

 重すぎる恋人が癇癪を起こす。

「何よ、何よぉ! さっきから水を差すようなことばっかり!」

「こんなところで報告するからよ。まったく……」

 結局、ミーティングはグダグダに。『僕』は疲労感たっぷりに溜息をつく。

「はあ……もうお風呂に入って、寝るよ。みんなは入ったんだよね?」

「お兄様、背中ならリオナが――」

「おにぃ、ミカルちゃんも! まだ入ってないもん」

「そうだね。美香留ちゃんとなら安心だ」

 天使のおかげで、風呂場で恋人に迫り倒される心配もなかった。

「いやいやいや……女子高生とナチュラルにお風呂って」

 メイドさんが気を利かせてくれる。

「お兄さん先輩のパジャマ、洗濯しておきましたので」

「ありがとう」

「それから、みなさんの今日の下着はお使いになりますの? どれも汗でべとべとですので、もしかしたら、お兄さん先輩にはそのほうが」

「「すぐに洗濯してえっ!」」

 悲痛な訴えが木霊した。

 『僕』はリビングをあとにして、美香留と一緒にお風呂へ。

 もちろん美香留はスクール水着を着用しての入浴だぞ。当たり前じゃないか。

「ふう~」

「おにぃも今日はお疲れ様っ。大変だったんしょ?」

「美香留ちゃんたちほどじゃないよ。僕はほとんど指示だけだったし」

 温かいお湯の中、ふたりでまったりと過ごす。

(相手が美香留ちゃんだと、ぬいぐるみの時と変わらないなあ)

 キュートが乱入してくる気配もなかった。

 しかし仕切り戸を少し開け、様子を窺ってくる心配性の恋人がひとり。

「じ~~~っ」

「里緒奈ちゃん、その……閉めてくれないかな? 湯気が」

「恋人を差し置いてほかの女の子とお風呂とか、どーいうつもりよ? お兄様」

 そんな里緒奈の肩を、恋姫と菜々留がぽんっと叩く。

「毎晩のことでしょう? 今さら何を慌ててるのよ、三番さん」

「余裕がないのねえ。……あぁ、三番だから?」

「きい~っ! 陽菜ちゃんたちも数えたら、六番以降になるくせに!」

 やれやれ……嫉妬深いなあ、里緒奈ちゃんは。

 ……あれ?

 女の子とお風呂に入ってる、こっちがおかしいんだっけ?

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