第424話

 プロデューサーの『僕』がインカムで指示を出すまでもない。

「キュートちゃんも『ユニゾンヴァルキリー』は好きなんでしょ?」

「うんっ! きゅーとの推しはね、ユニゾンジュエル!」

「コスプレはキュートちゃんの代わりに美玖ちゃんが担当するのよね。うふふ」

 ところで菜々留さん、やはりキュートの正体をご存知で……?

「この間のPV、ものすごい反響らしいわよ? 美玖のユニゾンジュエルだけじゃなくって、相手の魔法少女たちも」

「マジカルラズリとマジカルラピスもみんなに紹介しなくっちゃね!」

「……あら? どっちがラズリだったかしら?」

 ファンも興味津々に耳を傾けていた。

 トーク用のBGMを切り替えながら、『僕』は静かにステージを見守る。

「そろそろですね。さて、雲雀さんのレッスンの成果は……」

「やっぱり綾乃ちゃんも気になるんだ?」

 トークが一段落したところで、馴染みのイントロが流れ始めた。

「それじゃあ、一曲目は『シャイニースマイル』で!」

 里緒奈たちがダンスのスタート位置につくと、ファンは手拍子の構えを取る。

 そして、青天に轟くほどの一声。


   輝く笑顔で 会いに行くわ――


 恋姫の美声が波紋のように広がっていく。

 その瞬間、ファンの全員がぴたりと止まった。

 手を鳴らす者はひとりもいない。誰もが半ば呆然として、その歌声に圧倒される。

 ……そう、圧倒だ。

 ファンが声援を忘れるほどの衝撃。

 『想像とまったく異なるもの』を前にして、理解が追いつかないのだろう。それが『期待を上まわる何か』だと徐々に悟り、驚嘆する。

「な、なあ? これって……」

「こんなに上手かったっけ? 恋姫ちゃん」

 当然、歌い手は恋姫だけではなかった。

 美香留や菜々留もパートデュエットで美声を響かせる。


   YES! YES! ふたりだけの合言葉

   ほらね お日様が笑ってる あなたの頭の上で


 『僕』や綾乃もどきりとしたほどだ。

 SHINYの歌い方が以前のものから明らかに変わっていた。声に厚みがあり、音程の加減には豊かな感情が乗っている。

 かといって、単純に上手いだけでもなかった。

 今までのSHINYならではのスタイルも踏襲し、原曲を尊重した歌い方で。

 懐かしくもあり、新しくもある『シャイニースマイル』が、瞬く間に皆を虜にする。

「SHINY! SHINY!」

 あどけない美香留とたおやかな菜々留のパートデュエットも、聴き応えは抜群。

 キュートは懐っこいキャラクターとは裏腹に、ストイックなボーカルでSHINYの楽曲に抑揚をもたらす。

 何より5人揃っての、リズミカルなダンスがファンを魅了した。

 2人が前に出れば、3人が後ろへ下がり、3人が前に出れば、2人が後ろへ下がり。

 そこから続けざまのターンで、髪を華麗に波打たせる。

 ミニスカートも危ういところまで捲れて、健康的なフトモモを覗かせた。アクションの大きい美香留のスカートには、念入りに魔法で『謎の光』を差し込んでおく。

 そしてサビの歌い出しは、里緒奈のソロで。


   シャイニースマイル! 私だけを見詰めて

   ほかの子なんて目じゃないわ 私が一番なんだから


 音が圧力となった。

 ワァアアアアアーーーッ!

 声援が、歓声が、コンサート会場で飽和する。

 ファンのボルテージが最高潮に達するとともに、里緒奈たちも弾みをつけた。

「まだまだ行くわよ! みんなっ!」

 せーのでジャンプを決め、最高の瞬間をファンの網膜に焼きつける。

「SHINY! SHINY!」

 こうなってはSHINYコールも止まらなかった。

(すごいよ、里緒奈ちゃん! みんなも!)

 夏のスタートに相応しい、それこそ真夏の太陽のようなステージ。

 SHINYの伝説が始まったのかもしれない。

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