第422話

 そんな『僕』たちの努力の甲斐あって、本日のエンタメランドは早くもSHINY一色となっていた。園内のテロップでも『ようこそSHINY』といった文言が躍る。

 恋姫が感慨深そうに息をついた。

「遊園地でライブだなんて、夢みたいね。SHINYもここまで……」

「刹那さんのおかげさ」

 今日の舞台のスケールには『僕』も武者震いを禁じえない。

 エンタメランドでのアイドルコンサートは、すでに去年、SPIRALが結果を出してくれていた。その実績があったからこそ、SHINYにも順番がまわってきている。

 里緒奈がエンタメキャッスルを遠目に眺めた。

「じゃあ今年もリオナたちで盛りあげれば、来年はまた別のアイドルグループが続いてくれる……ってことよね? Pクン」

「その通りだよ。そのためにも今日は頑張らないと」

 またひとつ里緒奈の成長を感じ、誇らしくなる。

 結局のところ、アイドル活動でもっとも大事なのは心構えだ。

 売り上げの数字によってブレることのない、アイドルとしての純真なスタンス。それがスタッフのモチベーションを高め、多くのファンを惹きつけるのだから。

「美香留ちゃんも加入が遅かったとか気にしなくていいからね? センターの里緒奈ちゃんを食っちゃうくらいの勢いで、ガンガン行こう!」

「もっちろん! なんたって今日は、ミカルちゃんのライブデビューだもんっ!」

 新メンバーの美香留にとってはなおのこと、本日のステージは正念場。

「ナナルたちもサポートするわ」

「あなたなら余裕よ。キュートでさえ大丈夫だったんだもの」

「ちょっとぉ、恋姫ちゃん? それ、どーゆぅ意味?」

 その後も立て続けに仕事をこなしつつ、『僕』たちは正午を迎える。

 エンタメランドの放送室にて、SHINYラジオが始まった。

『今日は生放送でお届けっ! SHINYラジオの特番よ。みんな、お待たせ~!』

『もう夏真っ盛りね! エンタメランドは朝からすごい熱気よ、ふふっ』

 里緒奈の挨拶に続き、恋姫や菜々留も軽快にトークを繋ぐ。

『今日のコンサートでは、いよいよ美香留ちゃんがオンステージ! ファンの前で一緒に歌うのは初めてだから、ナナルも楽しみだわ』

『いっぱい練習したもんね。ミカルちゃん、自信あるんだ~』

 SEはマネージャーよろしくキュートが担当。

『夏の予定とか話さなくっていいの?』

『それそれ! 花火大会に、アクアフロートでしょ? それから』

『あのSPIRALとのコラボ企画があったり……あの番組(秘密)にも出演することになったのよね』

『コスプレのイベントも忘れないでよ? もぉー』

 このラジオはいつものチャンネルのみならず、エンタメランドの園内でも大々的に放送されている。

 その間も綾乃は情報収集に奔走していた。

「ライブのお客さん、半数くらいはこれから来園するみたいです。入場ゲートのほうに何人か増援を送ろうと思うのですが」

「そうだね。頼むよ」

 本日はSHINYのコンサートのため、大勢のファンがエンタメランドを訪れる。

 遊園地で遊ぶ気満々のファンは当然、朝一から。

 そうではないファンも、徐々にエンタメランドへ集まりつつある。

「一般のお客さんと混ざってるのが、なあ……」

「そこが心配ですね。ライブ直前の一時間が、勝負所かと」

 優秀な後輩は本日の山場を正確に把握していた。

(その一時間が勝負か……忙しくなってきたぞ)

 司令塔として、『僕』はどっしりと構えてなくてはならない。

 ラジオはつつがなく終了し、続いて広報用の写真撮影となった。ステージ衣装のメンバーがエンタメランドの名所を巡って、撮影に応じる。

「一発で決めるわよ! みんな」

 里緒奈の号令ひとつで、スタッフの顔つきも引き締まった。

 やはり昨日までの彼女とは違う。ポジティブなエネルギーに満ち溢れている。

(僕のために頑張ってくれてるんだよな……里緒奈ちゃん)

 これが彼女との新しい関係なのだと、『僕』は思い始めていた。

 男女で好きあって、関係を求めあって――それでは欲求に従っているだけだ。

 傍にいたい、言葉を交わしたい、触りたい、抱き締めたい、全部が欲しい……そういった欲求を、相手に受け入れてもらうだけでは、恋人同士とは呼べない。

 以前の里緒奈がそうだった。

 『僕』の傍にいたがり、触って、抱き締めたり抱き締められたりして――ただ気持ちよくなることだけを目的にしていた。

 『僕』とて同じだ。気持ちいいから受け入れている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る