第420話

 ナイトパレードは大盛況のうちに幕を閉じた。

 それから遅めの夕食を取り、『僕』たちは園内のホテルへ。

「ん~っ! 菜々留ちゃん、恋姫ちゃん、お風呂行こ!」

「Pくんの魔法があっても、日中は暑かったものねえ。ナナルも汗かいちゃったわ」

「女湯には入ってこないでくださいね? P君」

 毎晩のように『僕』の入浴中に押しかけてくる女の子が、何か言ってる……。

 去り際、里緒奈は『僕』にだけウインクを残していく。

(また明日ね! お兄様っ)

 さっきのキスで、今や主導権は完全に彼女のものだった。

(手玉に取られちゃってるなあ、僕……)

 告白の返事が決まっていることは、彼女も勘付いているのだろう。

 ただ、どのように受け入れるか――そこで『僕』も彼女も昨日まで足踏みしていた。

 そして里緒奈は覚悟を決めたのだから、次は『僕』の番だ。

 しかし……そんな『僕』の男気を、妹が挫こうとする。

「どうして兄さんも同じ部屋なのよ! バカ!」

 まさに同じ部屋で、美香留は平然と入浴の準備中。

「えーとぉ、シャンプーはこれで……おにぃ、もっかいボックス出してー」

「はいはい。忘れ物しないようにね」

「話を聞きなさいったら!」

 怒りんぼの美玖が癇癪を起こす。

「兄さんと同じ部屋で寝るなんて……妹だからって安全じゃないのよ? 今だってミクのパンツ、オ×ニー用にこっそり持ってる変態の分際なのに」

「持ってないし使ってない!」

「おなにゃー? タメにゃんの仲間か何かぁ?」

 マイエンジェル美香留の前で、なんて言葉を口走るんだ……この妹は。

「大体、最近はそういうの……してないし? うんうん」

「ああ……女子高生にお風呂でヌいてもらってるものね。毎晩」

「そっそうだけど! そうじゃなくて!」

 『僕』はベッドを指差し、一台ずつ数える。

「夏休みに入って繁忙期だから、お部屋もふたつしか取れなかったんだよ。スタッフもビジネスホテルでぎゅうぎゅう詰めだし……ね? これくらい我慢しないと」

「兄さんが我慢できるかどうか、でしょ? ミクが寝たら、絶対……」

「……その発想から離れてくれない?」

 この妹は何が何でもお兄ちゃんをケダモノ扱いしたいらしい。

「そりゃスクール水着だったら、まあ? 美玖でもどうなるかわからないけど……」

「ほ、ほら! 寝てる間に着替えさせる魂胆じゃないの」

「どっちも話食い違ってない? さっきから何言ってんのぉ?」

 しかし部屋に限りがあるのも事実。今夜のところは『僕』も一緒に寝るほかなかった。

 面倒くさそうに美香留がボヤく。

「だったらさあ……おにぃには一晩、変身してもらえば?」

「それだよ、美香留ちゃん。その手があった」

 『僕』はぬいぐるみの妖精さんに変身し、美香留の胸へ飛び込む。

「それにこっちの姿なら、お風呂だって一緒に入れるもんネ!」

「そーそー! おにぃはミカルちゃんが洗ったげるね」

「……は? あなたたちこそ何言って……」

 変身したことで、気分もハイになってきた。

 『僕』は美香留とともにホテルの大浴場へ。『女湯』の暖簾をくぐり、先発隊の里緒奈たちと合流する。

 服を脱ぎながら、里緒奈が目を点にした。

「あれ? Pクン、なんで変身しちゃってるわけ?」

「美玖がさー、僕が人間だと寝込みを襲われるっていうから」

「失礼しちゃうよねー。勇者のおにぃが、そんなことするわけないのに」

 恋姫と菜々留も手を止め、ぬいぐるみの『僕』を取り囲む。

「そうですか。ところでP君? ここがどこだか、わかりますか?」

「ん? 脱衣所?」

「女湯の、ね。……それで? Pくんはオスだったかしら、メスだったかしら?」

「やだなあ、オスとかメスとか。恋姫ちゃんの読んでる漫画じゃあるまいし」

 この時の『僕』は久しぶりに変身したせいで、相当ハイだったらしい。

 あとはもう……おわかりですね?

「そんな漫画ばかり読んでませんっ!」

「んぶっびゃらぶ!」

 れんきのこうげき、つうこんのいちげき!

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