第418話
「みんな、そろそろ……」
「誰とお揃いの買うんですか? それを決めてからですっ!」
「ミカルちゃんとがいいっしょ? ネ!」
「時間もないんだから、そのへんにしときなさいってば」
やがて午後の五時が迫ってきた。真夏だけあって、夕方とはいえまだ明るい。
「いよいよ大一番のナイトパレードね! リオナ、すっごく楽しみ!」
「こればっかりは泊まりでないと、なかなかね」
「服はこれでいいのぉ? おにぃ」
「うん。恋姫ちゃんはさっきの怪獣でも構わないけど」
「忘れさせてください……」
怪獣の召喚には失敗するも、意気揚々とスタッフのもとへ。
パレードの道沿いは客で混むため、SHINYのメンバーもフロート車(パレード用の台車)に同乗することになった。
「え? おにぃは一緒に乗らないの?」
「さすがにちょっと……ね」
「Pくん、変身して乗るのはどうかしら? それなら……」
「あーだめだめ。そんなことしたら、僕がタメにゃんを食っちゃうじゃないか」
「Pクンのぬいぐるみとしての自信、どんだけー?」
パレードの準備も完了しつつある。
プロデューサーとして『僕』は皆に発破を掛けた。
「台本通りにやれば大丈夫さ。ただ、パレードの間は周囲の音がすごいから」
「だからインカムなんですね。わかりました」
いよいよ陽も傾き始め、夏の空が下のほうから茜色に染まっていく。
「夏季は七時からなのね。ナイトパレード」
「逆に冬季は六時らしいわ」
ところが、ここで大問題が発生してしまった。
「あと十分か……」
待てども、キュートが来ない。
抜け出すチャンスがなかったのだろう。妹は今しがた離れたばかりで、合流にはもうしばらく掛かりそうだ。
しかし『美玖=キュート』と知らない面々が焦り出す。
「んもう……何をやってるのよ、あの子は」
「捜したほうがよくない? おにぃ。てか、キュートってケータイ持ってんの?」
「ええっと……」
里緒奈が軽いフットワークで飛び出した。
「ちょっと更衣室のほうとか見てくるわ」
「ちょ、ちょっと? 里緒奈ちゃん」
咄嗟に呼び止めるも、間に合わず。彼女は人込みの中へ紛れていく。
菜々留が溜息をついた。
「認識阻害の魔法が仇になっちゃったわねえ」
「平気だって思っちゃうんだよなあ……」
その里緒奈と入れ違いになるタイミングで、キュートが合流する。
「お待たせっ! ……あれれ? 里緒奈ちゃんは?」
「さっきあなたを捜しに行ったのよ。まったく……本番まで時間もないのに」
仕事中のアイドルはケータイを持たないため、連絡も無理だった。ベテランの里緒奈らしくもない凡ミスが、プロデューサーの『僕』に失敗を痛感させる。
(やっぱり里緒奈ちゃん、告白のことで……)
仕事に打ち込むことで、考えないようにしていたのだろう。
先日の期末試験で、自分だけ赤点を取ってしまった件もある。補習は免除してもらえたものの、彼女が責任を感じているのは想像がつく。
「SHINYさーん! 出発しますので、乗ってください」
「あ、はーい!」
ここでタイムオーバーとなった。
「とにかくみんなは先に乗って、お仕事を頼むよ。里緒奈ちゃんは僕に任せて」
「大丈夫なんですか? そんな急に……」
恋姫、菜々留、美香留、キュートは後ろ髪を引かれながらも、フロート車へ乗り込む。
「里緒奈ちゃんのいるところ、魔法でわからないの? Pくん」
「これだけひとがいるからね。まあ心配しないで」
間もなくナイトパレードの時間となった。
夕暮れの下、愉快なBGMとともに、賑やかなパレードの一団がエンタメランドの中央通りを闊歩していく。
先頭で必死に踊っているタメにゃんは、幼馴染みらしい。
菜々留たちの実況も弾む。
『エンタメランドに来たら、これを見なくっちゃね!』
『おおお~っ! お城のパレードよりすごいかも』
『美香留は留学してたものね。遊園地のパレードもいいものでしょう?』
『あっ! あっちにもタメにゃん見ーっけ!』
里緒奈が不在にもかかわらず、トークにぎこちなさはなかった。台本の流れを壊さない範疇で上手くアドリブを利かせている。
(本当に成長したなあ、みんな……っと。それより里緒奈ちゃんだ)
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