第416話
占いの館を出たところで、里緒奈たちに囲まれる。
「ちょっと、ちょっと! 菜々留ちゃん? さっきのはナシでしょ!」
「そんなだから、あなた、動物と心を通わせることができないんでしょう」
しかし菜々留はどこ吹く風といった調子で、『僕』に一言だけ。
「占いの結果はお兄たまとナナルの秘密、ね?」
「お、おにぃ! 恋愛とか占ったんっしょ? なんて言われたの?」
「いや、その……」
『僕』も口を噤むほかなかった。
(ベッドインを勧められたなんて、言えないよなあ……)
確かに菜々留という女の子は魅力的で、夜な夜なソーププレイなんぞも繰り返している――とはいえ、男子も萎える時は萎えるもの。
(あ……そうか)
そこで『僕』は自覚した。
アイドルたちとお風呂でニャンニャンしている件は別として……別として、だ。
『僕』が彼女たちに関係を迫りきれないのは、相手を異性ではなく、あくまで『妹』として線を引いているからでは――?
里緒奈や菜々留、恋姫のことは確かに『好き』だ。
けれども、その『好き』は本当に異性に対してのものだろうか。
守ってあげたい、力になってやりたいと思う一方で、彼女たちを伴侶とするような未来は想像することさえできない。
「この件は帰ってから、ゆっくり話しましょう。いいわね? 菜々留」
「んもう、恋姫ちゃんったら。次は恋姫ちゃんの番なんだから、カリカリしないで?」
「あなたがカリカリさせてるんでしょーがっ」
メンバーの話も一段落したので、次へ。
ところが、順番待ちのはずの恋姫が提案する。
「先に美玖、あなたがどうぞ」
「……ハア?」
妹の嫌そうな表情といったら、それはもう……お兄ちゃん悲しい。
それでも恋姫は妹の背中を押したがった。
「SHINYの活動を手伝うようになって、あなたも随分、お兄さんと打ち解けたでしょう? 最近はちゃんと目を見て話すようにもなったし」
「まあ……そうかもしれないけど」
『僕』の心のHPは崖っぷちで押されてるんですが……そんなに嫌われてたっけ?
「だから、たまにはいいじゃないの。少しくらい歩み寄ってあげても」
「ったく。しょうがないわね」
恋姫の言い分に参ったのか、妹はやれやれと嘆息した。
「わかったわ。じゃあミクも、兄さんと一枚」
「えっ、いいの?」
『僕』が喜色の声をあげると、菜々留と里緒奈が囁きあう。
「今のってアレよね? 里緒奈ちゃん。ニギニギしてあげるって言った時の……」
「あー、わかる。お兄様ったら、すっごい嬉しそうな声出すもんねー。つまりお兄様にとって、美玖ちゃんとのツーショットはニギニギくらい嬉しいと」
「へ? 何の話ぃ?」
「美香留ちゃんの前でヤメテーッ!」
悔しいが、『僕』は年下の女の子にリードされる運命にあるらしい。
美玖の視線が氷のように冷たくなる。
「毎晩毎晩、お風呂で何させてるのよ? この変態」
「し、心配しないで? 美玖にはしないからさ」
「殺されたいの?」
さっきの占いの結果を忘れるためにも、ここで気分を変えるのは悪くなかった。
『僕』は妹とふたりで先頭を進む。
「で……美玖はどこで撮りたいんだ? 写真」
「最初に美香留が言いかけたの、あったでしょ。特大パフェがどうのって」
菜々留がぱんっと手を叩いた。
「美玖ちゃんは別でお仕事してたから、まだ食べてないものねえ」
「ああ、そうだったわね。美玖だけ食べてないんだわ」
恋姫もはっとして、喫茶店のほうを見遣る。
「席が空いてたら、リオナたちもお茶くらいする?」
「賛成~! 待つだけなんて退屈だもん」
午前中も仕事で関わった喫茶店は、午後もほどほどに繁盛していた。
さすがエンタメランドでも指折りの人気店。客の多さを考慮してか、店内には充分な数の席が設けられている。
「じゃあ、僕と美玖は一番奥で」
「レンキたちは……窓際のテーブル、いいですか?」
「ええ、どうぞ! SHINYのみなさんでしたら大歓迎です」
仕事で顔を会わせたばかりのため、店員は認識阻害の影響を受けずにいた。声のボリュームを落としつつ、『僕』たちを手頃なテーブルへ案内してくれる。
(それにしても……)
ただ、『僕』には疑問があった。
なぜ妹はスイーツを所望したのだろうか。
妹もキュートとして、お昼にあれだけ試食したはずなのに。『僕』の真正面で興味津々にメニューを物色している。
「これにするわ。カップル限定、特大ラブラブパフェ」
「えっ? 結構な量だぞ? これ……」
『僕』は尻込みするも、美玖はてきぱきと注文を済ませてしまった。
こんなに食べたら、妹の爆乳がもっと大変なことに……。
「現時点で三桁だしなあ」
「帰ったらバレーボールの練習しないと」
「ヒイッ」
里緒奈たちもコーヒーで一服し始めた頃、大ボリュームのパフェが運ばれてくる。
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