第413話

 里緒奈&易鳥ペアが戻ってきたところで、場所を変え、結果を発表する。

「優勝は第二ペアの恋姫、菜々留ペアよ。おめでとう」

 恋姫と菜々留はカメラの前でハイタッチ。

「やったわね! 菜々留」

「ええ! 連携がよかったのかしら」

 実際、恋姫と菜々留は役割分担が見事だった。多少、菜々留が難所で敵を深追いしてしまったくらいで、お手本のようなスコアをあげている。

 ピンクのタメにゃんが頭を脱いだ。

「イクノちゃん、ゲーム慣れしてる美香留ちゃんかなーと思ってたんデスけど」

 グリーンのタメにゃんも外し、実に三十分ぶりの外気を堪能する。

「ふう……。美香留はパニックなっちゃったのが、ね」

「ぐぬぬ」

 下馬評では一位だったはずの美香留&郁乃が、両手で頭を抱え込んだ。

 里緒奈&易鳥ペアも後半に掛けて健闘したものの、恋姫たちには一歩及ばず。

「惜しかったねぇー、里緒奈ちゃんと易鳥も」

「うん。……そういえばキュートちゃんって、易鳥ちゃんと美香留ちゃんだけ呼び捨てにしてない? どうしてなの?」

「え? えぇと……そーいうの、あんまり意識してないけどぉ?」

 妹が仲間に告白(白状)できる日は来るのだろうか。

 スタッフも早速の取れ高に満足していた。

「一発オーケーのクオリティで仕上げてくるところが、さすがですね! SHINY」

「この夏はSPIRALにも迫る勢いですからねー」

 ここで会心のスタートを切れたのは大きい。

 おかげで、その後の収録もトントン拍子に進めることができた。お昼のグルメレポートには郁乃と依織も加わり、8名のアイドルで賑やかに締め括る。

「イクノちゃんもお腹いっぱいデス!」

「KNIGHTSは今夜、どこに泊まるのぉ?」

「イオリたちは日帰りの予定なんだ。あんな過酷な業務、二日も無理」

 かくしてお待ちかねの自由時間がやってきた。

 スタッフは今から昼食へ。

「それではシャイP、パレードの時間にまた」

「了解です」

 そして残念ながら、このタイミングでKNIGHTSの3人も引きずられていく。

「あなたたちは仕事よ。着ぐるみの」

「な……なんだと? SHINYは自由時間なのに?」

「助けてください! にぃにぃ~っ!」

「救援を要請……」

 可哀相だが、仕事は仕事。『僕』たちは笑顔で見送るしかなかった。

「レンキたちも遊びに来たわけじゃないものね」

「でも片付けられる分は片付けたんだから。あとはナイトパレードまで自由、でしょ?」

 美香留と里緒奈が園内の地図を広げる。

「んーとぉ……お仕事で行ってないとこは、どお?」

「そうよねー。エンタメキャッスルとか……」

「お城は明日、撮影で行くんじゃなかったかしら? ねえ、キュートちゃ……」

 菜々留が気付いた時には、キュートの姿は消えていた。

 恋姫や里緒奈が眉をひそめる。

「またあの子は……同じグループのメンバーなんだから、もう少し協調性があっても」

「そこはPクンがビシッと言うべきじゃない?」

「えぇと……」

 プロデューサーの『僕』は返答に窮するも、菜々留がフォローしてくれた。

「まあまあ。キュートちゃん、今日のお仕事はとても頑張ってくれたじゃないの。正体を隠さなくっちゃいけないんだし、大目に見てあげて?」

「菜々留がそう言うなら、レンキも……P君目当てなのは相変わらずだけど、最近はお仕事に対するスタンスが変わってきたみたいだものね。キュートも」

 恋姫も感心する通り、この一ヶ月でキュート(美玖)は大きく成長している。

 巽Pのボーカルレッスンでも、当初は誰よりも苦戦していた。しかしハイレベルなレッスンを通じて、スキルとともにプロ意識も高まりつつある。

(自由時間になったら、すぐデートを要求してくるものと思ってたけど……)

 その妹がマネージャーらしい模範的な恰好で、数分のうちに合流した。

「悪いわね。みんなのお仕事、そっちの変態に任せっ放しで」

「ええっ? 変態なんてどこに?」

「無理があるってば、Pクン。ほかに誰がいるわけ?」

 残念ながらさっきまでのお兄ちゃん好き好きビームは、お兄ちゃん死ね死ねビームに。『僕』を毛虫のように扱いつつ、メンバーを一瞥する。

「ところで里緒奈、あなたはいいの? 遊園地でデートするって息巻いてなかった?」

 お調子者の里緒奈は頭を掻いて、苦笑い。

「それも一応、考えたんだけど……ね? ひとりずつPクンとデートとなったら、ひとり当たりの時間が30分あるかないか、になっちゃうじゃない?」

 大真面目に恋姫も相槌を打つ。

「それだと何度シミュレートしても、壁ドンあたりで時間切れなのよ。やっぱり一時間……ううん、二時間は見ておかないと、何も進展しないわ」

「恋姫ちゃん? Pくんに、30分でデートの相手に壁ドンは無理よ?」

「それよか壁ドンって必須なのぉ? あんなの要る?」

 JKアイドルの女子トークは今日も難しかった。

(壁ドンなんて、されるほうにとっちゃ怖いだけなんじゃ……?)

 壁ドンの是非はさておき、『僕』とのデートに拘らない理由はわかる。

 ナイトパレードの準備が始まるまで3時間ほど。仮に『僕』とペアでデートするとしたら、ひとり当たりの持ち時間はせいぜい30分程度だ。

 アトラクションによっては、並ぶだけでタイムオーバーを迎える。

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