第411話

「連絡が遅くなってすみません、シャイP。この子たちが、どうしてもSHINYの仕事に関わりたいというもので」

「なるほど。スーツアクターと連携を取るなら、むしろアリか」

「にぃにぃ? 綾乃さんの独断専行デスよ、ちゃんと叱ってください!」

 叱るも何も、KNIGHTSに関して『僕』は大型新人の綾乃に一任していた。彼女が判断したのなら、すでに損益も織り込み済みなのだろう。

 マネージャーの美玖(キュート)はすっかりお株を奪われている。

「こんなところまで出張ってきて、何のつもりなの? 易鳥ちゃん。もぉー」

 プリプリするキュートを目の当たりにして、易鳥がテレパシーを飛ばしてきた。

(お前の妹に猫撫で声で文句言われてるんだが? こ、これに耐えろと?) 

(じきに慣れるよ。僕もそうだったから)

 『僕』以外でキュートの正体を知る唯一の人物、それが易鳥だ。

「KNIGHTSはKNIGHTSで、着ぐるみアクターの企画ですので」

「面白そうだなあ。SHINYでもやってみ――」

「「却下ぁ!」」

 せっかくのアイデアなのに、水着の時よりも力いっぱいに拒絶される。

「みんなが着てるとこ、可愛いと思うよ。そんなに嫌?」

「誰が着ても完成形は同じだってば! おにぃ」

 まあ夏場に着ぐるみは、魔法があってもツライか。

 着ぐるみの中では十八番の天音魔法が使えないせいで、易鳥たちも死にかけている。

「これ以上の『ガンガンいこうぜ』は無理……易鳥、『いのちだいじに』で行こう」

「ほらほら、ヘバってないで! あなたたちが引き受けた仕事でしょう」

「おっ鬼デス! 仮免プロデューサーのくせに~」

 何かにつけて魔法で好き放題したがる彼女らにとっては、いい薬かもしれない。

「みんなは中身がKNIGHTSってこと、気にしなくていいからね」

「お、おい? イスカはお前の恋人だぞっ?」

「ちょっと距離を取ろうと思ってたんだ。それじゃあ」

 SHINYの面々も『タメにゃんに中身などない』体で、仕事へ戻った。

(易鳥ちゃんがいたら、また勝負だ何だと面倒くさいからなあ)

(レンキもここは流すべきだと思います)

 綾乃もSHINYの企画に干渉する気はないはず。

 ところが、易鳥の出番は意外なところからやってきた。

「ハラハラゴーストハウスぅ? 何それ、おにぃ」

「要はお化け屋敷だよ。カートに乗って、お化けを銃で撃ちながら進むんだ」

「お化け? ……ユーレイってこと?」

 幽霊に重火器が通用するかは、さておき。

 ハラハラゴーストハウスはエンタメランドでも人気のアトラクションで、スコアアタックがよく話題になる。この夏は敵の配置が一新されたため、アイドルが実際にプレイし、その魅力をお茶の間に届けようというわけだ。

 里緒奈がぱちんと指を馴らす。

「どうせならスコアアタックで対戦しない? Pクン」

「いいね。誰が勝ってもよさそうだし……」

 しかしSHINYは5人(奇数)なので、分けようがなかった。

 恋姫が提案するも、

「美玖を呼んだらどうですか? それなら2対2でも、3対3でも」

「み、美玖ちゃんは忙しいんじゃないかなあ……」

 キュートがぎこちない素振りで目を逸らす。

 これこそ待ってましたとばかりに、再び青色のタメにゃんが出しゃばってきた。

「そうだ、そうだ! 妹が出られないのなら仕方ない。イスカが相手をしてやろう」

 ピンクとグリーンも参戦を申し出る。

「そんでこっちが勝って、着ぐるみアクターを交替デス!」

「君たちも地獄を味わうといい」

「いや、罰ゲームは荒れるからナシで」

 実際のところ、アイドルグループが奇数か偶数かは難しい話だった。奇数ならセンターを中心に絵になるものの、メンバーを分ける際は偶数のほうが都合がよい。

 となると、任意に頭数を偶数にできる今の状況はありがたかった。

「いいんじゃないスか? シャイP。生放送というわけでもないんですし」

「そうですね。じゃあ、易鳥ちゃんたちにも混ざってもらうか」

 ただ、綾乃から注文がつく。

「マスコットとの共演は外せないから。混ざるのはひとりだけにしなさい」

「な……っ?」

 これほど真剣なジャンケン、初めて見た。

 リーダーの易鳥が勝利を決め、サッカー選手のようなガッツポーズを震わせる。

「勝ったぞ! これでイスカが参戦だ」

「ぐ……」

「な、なぜ……今日に限って」

 しかし同じマギシュヴェルト出身の美香留が、言葉に含みを込めた。

「ほんとにいいのぉ? 易鳥ちゃん。ここは幽霊屋敷なのに」

「ゆ、ゆうれ、い……?」

 青色のタメにゃんが首をくっつけなおし、逃げようとする。

 それをピンクとグリーンが捕まえた。

「騎士団長の娘が怖気づいてるんデスかあ? お化けが怖いんデスかあ?」

「(笑)」

「は、話を聞けっ! そうだ、お前たちが出ろ!」

 さっきから皆して『お化け』と口にしているのに、話を聞かない騎士様だ。

 幼馴染みとして『僕』が青色のタメにゃんを宥める。

「まあまあ……易鳥ちゃん、遊園地は初めてでしょ? 絶対面白いからさ、ね?」

 タメにゃんの首の隙間から、易鳥が目元だけを覗かせた。

「お、お前が一緒に入ってくれるなら……」

「はいはい、ストップ! ストップ!」

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