第409話

 エンタメランド。

 それは業界でもシェア一位を誇る、有名なテーマパークだ。

 マスコットの『タメにゃん』も今や国民的キャラクターとして幅広く愛されている。その人気ぶりはマギシュヴェルトでの『僕』にさえ匹敵するだろう。

 当然、支度は昨晩のうちに済ませてある。

「みんな、忘れ物はないかな」

「あれ? P君、変身しなくていいんですか?」

「うん。夏の間は僕も、魔法にばかり頼らずに……と思ってね」

 七月の空は今日も快晴、絶好の遊園地日和。

「エンタメランドなんて超楽しみっ! お泊まりだからナイトパレードも」

「ミカルちゃん、漲ってきた~っ! おにぃ、早く早くぅ!」

 里緒奈と美香留は出発の前からテンションがMAXに近かった。

(よかった……里緒奈ちゃんの調子も戻ったみたいだ)

 しかし能天気なメンバーはマネージャーに釘を刺される。

「遊びに行くんじゃないのよ? あなたたち。お仕事だってことを忘れないで」

「「うっ」」

 菜々留が奥ゆかしい物腰で口を挟む。

「そう意地悪なこと言わないであげて? 美玖ちゃん。少しくらいなら遊べる時間もあるでしょうし……Pくんもそのつもりでスケジュールを組んでるんじゃないかしら」

「まあね。大体はこんな流れでさ」

 プロデューサーの『僕』は今日と明日の予定を読みあげた。


  <一日目>


   園内のホテルへチェックイン

   配信用の動画の撮影(グルメリポートやゲームなど)

   ナイトパレードの実況、そのあとで夕食

   園内のホテルで就寝


  <二日目>


   午前9時(開園)=10時まで 入場ゲートでお客さんをおもてなし   

   正午~午後1時 エンタメランド放送局でゲスト出演

   写真撮影

   午後3時よりイベントステージでトークショーとライブ

   午後7時に撤収


 美香留がげんなりとする。

「これってお仕事ばっかじゃん!」

「だから仕事なのよ。お仕事」

 アイドルたちは『一泊二日なら時間もたっぷり』と思っていたらしい。

 しかし実際は『一泊二日しかない』のが正解だ。ただ、『僕』としても彼女たちに少しは遊ばせてやりたいので、仕事は二日目に集中させた。

「動画の撮影がスムーズに済めば、あとはナイトパレードまで自由時間だからさ」

 恋姫や美玖は前向きにそれを受け止める。

「二時間強くらい……ですね」

「二日目もお昼の放送まで、若干の時間はありそうね。兄さんに認識阻害を掛けてもらえば、お客さんに紛れ込んでも大丈夫でしょうし」

 一方で、里緒奈は何やら考え込んでいた。

「ベストなのは観覧車……だけど、一日目はナイトパレードか……」

「うふふ、里緒奈ちゃんったら。Pクンとのデートを練ってるみたいねえ」

 菜々留が口元を緩ませながら、『僕』に確認を取る。

「ところでPくん、エンタメランドのプールには行かなくていいの?」

「今回はね。僕としても、みんなの水着は見たかったんだけどさ」

 そう口を滑らせてから、セクハラ発言にぎくりとした。

 しかし里緒奈も恋姫も嫌そうな顔はせず、むしろ頬を紅潮させる。

「こ、これだから……こっちのお兄様は」

「陽菜がレオタードを着てあげるわけだわ。くっ……」

 ぬいぐるみの『僕』だったら容赦なしに殴るか蹴るかされていたところだ。

(気をつけないとなあ……ぞぞぞっ)

 そのことを肝に銘じつつ、『僕』はメンバーとともに出発。

「さあ行くぞ! エンタメランドへ!」

「「お~っ!」」



 まずは園内のホテルにチェックインして。

 それから撮影用のスタッフと遊園地のスタッフとで、顔合わせ。

「これから二日間、よろしくお願いしますー」

「こちらこそ。頑張りましょう」

 エンタメランドとしてもSHINYの宣伝効果には大いに期待しているのだろう。

 ただし夏は稼ぎ時のため、アイドルの企画のために施設の貸し切りなどは不可、とのこと。一般の客が大勢いる中での企画、及び撮影となる。

「まあシャイPがいれば……あれ? シャイP、なんか雰囲気が……」

「そのへんは任せてください」

 修行のうえでは『魔法を使用する際は変身を』という条件だが、それは男性に魔法の力で悪さをさせないためのもの。ほら催眠アプリとか、時間停止でお馴染みのやつ。

「催しても、ホテルまで我慢しなさいよ? 兄さん」

「ちょっと待とうか、美玖。それも母さんの入れ知恵なんだろ?」

 相変わらず妹の兄嫌いは、有栖川刹那の男性嫌いに比肩する。

「大丈夫? お兄たま。ひとりでできるの?」

「菜々留ちゃんもやめて! アイドルがなんてこと言っちゃってんのさ!」

 際どい発言が多くなった(特に菜々留)のは、おそらくお色気過剰なメイドのせい。

 里緒奈が得意のジト目で『僕』を見据える。

「残念ねー、Pクン。今日と明日は陽菜ちゃんが一緒じゃなくってぇ」

「だから、あの格好は陽菜ちゃんたちが自分で……」

「陽菜ちゃん『たち』? いつの間に恵菜とも……あぁ、ラブホテルでしたね」

「恋姫ちゃんもアイドルの自覚っ!」

 魔法で禁止ワードを設定しておくべきだろうか。

 ラブホと、ヌキヌキと、シコシコと……。 

「SHINYは間違ってるッ!」

「落ち着いて、Pクン! それはぬいぐるみの時のノリよ!」

 仕事の前に全員、タメにゃん青汁とやらでクールダウン。

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