第405話

 SHINYの夏はこんな感じだ。


  <7月>

   遊園地『エンタメランド』で配信企画とライブ(一泊二日)

   ケイウォルス学院で世界制服(KNIGHTSも共演)

   縁日~花火大会で配信企画とライブ

   SHINYとSPIRALで合同トークショー

   ミュージック・プラネットに出演   

   白虎アクアフロートでKNIGHTSと対決企画


  <8月>

   ミュージック・フェスタの実況(出演するのはKNIGHTS)

   大型コスプレイベントへ参戦 『ユニゾンヴァルキリー』でライブも

   水泳部の大会

   マギシュヴェルトへ旅行(三泊四日) 配信企画もあり

   アイドルフェスティバル


 アイドルたちが快哉を響かせる。

「すっごいじゃない、Pクン!」

 今日は口数の少ない里緒奈も、興奮気味に立ちあがった。

 菜々留や恋姫、美香留も瞳を輝かせる。

「どれも面白そうだわ……! 花火大会はナナルたち、浴衣を着るんでしょう?」

「SPIRALとの共演があって……ミュージック・プラネットまで?」

「ミカルちゃん、ワクワクしてきちゃったかも!」

 一方で、釘を刺すのはマネージャー。

「それだけ忙しくなるってことよ? あなたたち。マネージャーとしては正直、スケジュールを詰めすぎ……っていう印象なんだけど」

「ヒナもサポートしますのっ!」

 メイドの陽菜が可愛いガッツポーズを弾ませる。

「まあ移動はシャイニー号やドラゴンでひとっ飛びですし、問題ないのではありませんこと? できましたら、ドラゴンには二度と乗りたくないのですけど」

「易鳥ちゃん、聞こえた? 恵菜ちゃんを無理やり乗せちゃだめだぞ?」

「あんなに快適なのに、恵菜は『電車がいい』と言うんだ……」

 SHINYの面々もコラボ企画には意欲を見せた。

「アクアフロートでSHINYと……フフフ。ポロリをお見舞いしろってことデスね?」

「それ、自分がポロリする羽目になるパターンだよ。郁乃」

「お、おっぱいはまだダメですからね? お兄さん!」

「何の話っ? 大昔の騎馬戦じゃないんだから」

 桃香がぬいぐるみの『僕』の頭を撫でる。

「SHINYのラジオでモモカが出演する回の収録は、今月の半ばでしたよね?」

「うん。動画のほうもいくつか企画してるから、頑張ろうネ」

「ところで……」

 と、妹が少し声のトーンを落とした。

「この『水泳部の大会』って何よ? 兄さん。アイドル活動と関係ないじゃないの」

「関係あるよ! メンバーの4人が水泳部なんだぞっ?」

 反射的に応じてしまったところで、里緒奈がきょとんとする。

「あれ、4人? ……あぁ、マネージャーの美玖ちゃんも数に入れて?」

「――っ!」

 一瞬、美玖(キュート)が顔を強張らせた。

「……美香留はチア部、どうするの?」

「んーとねぇ、練習に出られる分は出て……先輩たちも『それでいい』ってー」

「そうそう! チアガールもまた撮りたいなあ」

 便乗して『僕』のほうからも話を逸らす。

 そのつもりが、SHINYのメンバーが顔色を変えた。

「お兄様の嗜好を矯正するチャンスよ、みんな。リ、リオナも頑張るから」

「あらあら……お兄たま用に何枚か、また買っておかなくっちゃ」

「や、約束よ? お兄さんに見せる時は全員で!」

「スカート捲ったのが自分だけだったら、恥ずかしいもんね~。ひひひ」

 そ、そうだった……彼女たちのチアガールには巧妙な罠も仕掛けられているのだ。

 『僕』がブルセラに傾倒するのを異常と決めつけ、里緒奈たちは何かとそれを軌道修正させたがる。異常でも何でもないのに。

 前に世界制服でチア服を着た時も、全員が横並びでスカートを捲ったもので。

(あれのせいで僕、ますますパンツが気になって……暴走したんだよなあ)

 S女でパンティーウォッチングなどという奇行に走ってしまったのも、もとはといえば彼女たちのせいだ。『僕』のスクール水着愛は間違っていない。

「桃香さん? ちょっと兄さんを貸してくれないかしら」

「ええ、どうぞ」

「待ってェ! 僕をどうする気さ?」

 早くキュートに会いたいよぅ。

 しかしマネージャーの懸念通り、夏のスケジュールは過密気味だった。いくら魔法でサポートできるとはいえ、過労や熱中症、心的負担といったリスクは考えられる。

「とにかく健康第一だぞ、みんな。よく食べて、よく寝ること!」

「はーい!」

 夏の中身が明らかになったことで、メンバーのモチベーションも上がった。

 意気揚々と易鳥がまた肉を焼き始める。

「前回のレース勝負は妙な結果になってしまったが、次こそはKNIGHTSが勝つ!」

「その意気デス! イクノちゃんがSHINYをギャフンと言わせてやります!」

「ついでにあにくんもいただいて、悔しがらせてあげようか」

 郁乃と依織も今のうちから対決に燃えていた。

 焼き加減がちょうどいいハラミを、桃香が取ってくれる。

「うふふ。モテモテですね、プロデューサーさん」

「でしょ? やっぱりこの愛くるしさが、みんなのハートを奪っちゃうのかなァ~」

「炭より、この珍獣のほうがよく燃えるんじゃない?」

 この妹はいつも怖いことを、平然と……。

 陽菜&恵菜の姉妹も夏のスケジュールには興味津々。

「お兄さん先輩、ヒナたちも夏の旅行、ご一緒していいんですよね?」

「もちろんだよ。えぇと……ニブルヘイムの親善大使として、こっちも正式に挨拶したいって言ってるしさ」

「ニブルヘイムか……あのおとぎ話の世界が、まさか実在していたとはな」

 やがて皆の満腹感が勝り、七輪の出番も減っていった。店員とともに陽菜と恵菜が全員分のお茶を運んできてくれる。

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