第404話

 SHINYの面々がひそひそ話を始める。

「あれが……お兄様の第一候補……」

「残念だけど事実よ。お兄たまも交際の自覚はあるみたいだもの……ねえ?」

「郁乃と依織は? 邪魔してやるみたいなこと言ってなかった?」

「先に易鳥ちゃんにくっついてもらって……ってことっしょ? 多分」

 その間にも『僕』は桃香の膝の上へ。

「プロデューサーさんはここでいいですか?」

「でも桃香ちゃん、食べづらくないの?」

「こっちのほうが食欲がそそりますので。うふふ」

 SHINYの内緒話組がガタガタと震える。

「清楚に見えて、実は肉食系……」

「お兄さんのアレ、桃香さんには知られないようにしないと」

 場も温まってきたところで、いよいよ焼肉大会がスタートした。

「カメラは誰が撮ってもいいんデスよね? にぃにぃ」

「うん。みんな結構、上手だし」

 牛肉(仮)が赤々と焦げ、香ばしいにおいを充満させる。

 本日の主催者として『僕』は音頭を取った。

「期末試験も終わって、これから夏本番! アイドル活動、頑張っちゃうぞー!」

「「お~~~っ!」」

 アイドルたちが一斉に唸りをあげる。

 カーニバル(謝肉祭)とは、しばらくご馳走が食べられないから今のうちに、というもの。今日の焼き肉大会がまさにそのカーニバルだ。

 学校が夏季休暇のため、活動スケジュールはぎゅうぎゅう詰めになっている。

 半ばに旅行なども計画しているとはいえ、SHINY、KNIGHTSともにハードな夏になるだろう。受験生の桃香も忙しくなる。

 だからこそ、ここでしっかり英気を養っておきたかった。

 易鳥が大喜びでハラミを頬張る。

「美味いぞ? 恵菜も遠慮するな、どんどん食べろっ」

「別に遠慮してるわけではありませんわ」

 お嬢様タイプの恵菜や菜々留も、間断なく肉を焼いていく。

 美香留も大きなロースを一口で。

「もぐもぐ……んぐっ。お茶、お茶!」

「アハハ。美香留ちゃんのおくちは欲張りだなあ」

「お兄さん先輩っ! それ、ヒナにも言って欲しいですの」

 それから三十分ほど、馴染みのメンバーで和気藹々と楽しむ。

 ご満悦の美香留が『僕』に言いきった。

「そおそお、おにぃ! ミカルちゃん、百点取ったっしょ? 全教科で百点っ!」

「全……? ああ、合計だとね」

「だからぁ、約束通りミカルちゃんと今度、ラブホ行こっ。ね!」

「そーだなあ……じゃなくてっ! 今のなし!」

 ノリが軽すぎて、喫茶店にでも誘われたものと錯覚する。

「今のなしって言ったよね? ねっ?」

「ナナルは許してあげるわ」

「でも、このルンタタロットが許すでしょうか……?」

 すでに恋姫と菜々留が変身ヒロイン編の武器を構えていた。母さんの仕業か……。

 『僕』の頭上で桃香が首を傾げる。

「え? プロデューサーさんが美香留ちゃんと……ホテルへ?」

「ほらぁ! ぬいぐるみとどう合体するかで、桃香さんが固まっちゃったじゃないの」

「表現がストレートよ? 里緒奈ちゃん。もう少しマイルドに行きましょう? そうねえ……抜き挿し、とか」

「SHINYって下ネタもオーケーなの?」

 うち3人はファンの目の前でイッたこともあるからね(いつぞやの車の中で)。お風呂の中でも……これ以上はやめておこうか。

「いいかい? 美香留ちゃん。百点っていうのは満点のことで……。仮に全教科の合計で百点以上ってことになったら、全員と行かなきゃなんないでしょ?」

「え~っ? ミカルちゃん、すっごく頑張ったのにぃー」

 そんな内容にもかかわらず、易鳥は次々と焼肉を口へ放り込む。

「なんだあ? お前たち。お兄ちゃまとラブホに行ったことがないのか? はっはっは」

「イキってるね、リーダー。今までで一番イキってる」

「まあ風呂でオママゴトしてるうちは早いかもな。一対一で下着なんだぞ?」

「イクノちゃんも今までで一番、腹立ってきたデス」

 言うだけ無駄かもしれないが、当事者として一応、念を押しておくことに。

「最後までしたとか、そーいうんじゃないからね? 脱がせたりもしてないしさ」

 経験者の恵菜が我が身をかき抱く。

「脱がせる脱がせないの話じゃありませんわっ! あんなことまで……」

 SHINYのメンバーがぎょろっと『僕』を睨みつけた。

「あのぉ、特に恋姫さん? ベタ塗りの黒目で睨むのやめてもらえません? 菜々留ちゃんも髪の毛一本だけ噛むの、ホラーみたいで怖いんで……その」

 悪魔たちが目覚める中、向こうのテーブルで天使が祈りの言葉を唱える。

「お兄さん先輩! ヒナ、恵菜と3Pでも構いませんから」

「やっぱりお仕置きが必要ねえ。お兄たまには」

 オ、女ノ子コワイヨー!

 とりあえず自分が食べる分は食べたらしい依織が、お茶で一服した。

「あにくん、綾乃さんは誘わなくてよかったの? イオリたち、お世話になってるから」

「今日は彼氏と予定が入ってるんだってさ」

「綾乃さんは警戒網から外しても大丈夫みたいねえ」

「これはレンキが焼いてるお肉よ? 菜々留?」

 まだ焼肉に本気を見せない菜々留こそを警戒しつつ、恋姫が『僕』に尋ねる。

「P君、夏の予定はレンキたちも大体は把握してるつもりですけど……グループ同士で絡むのは、どんな企画があるんですか?」

「それそれ! 郁乃ちゃんも聞きたいデス!」

 アイドルユニットごとのスケジュールはすでに固まっていた。

 しかし複数のユニットが絡むコラボ企画は、『僕』のほうから説明しておくべきか。

「そうだね。今なら全員いるし」

「お仕事のお話でしたら、エナたちは席を外しましょうか?」

「いや、いいよ。一部は恵菜ちゃんと陽菜ちゃんにも出演して欲しいからさ」

 『僕』は魔法で手帳を取り出し、該当しそうなスケジュールを数える。

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