第401話

 次の週にはS女、ケイウォルス学院ともに定期試験の結果が出た。

 まずはケイウォルス学院の面子から。

「勝った! イスカが勝ったぞ!」

「イクノちゃんも大勝利デス! 赤点がひとつもありません!」

 易鳥と郁乃が下馬評を覆し、生還を果たす。

 KNIGHTSでは唯一の優等生である依織は当然、飄々と20位をマークした。

「ギリギリセーフってだけで、褒められた点数じゃないよ? ふたりとも。特に郁乃、全教科の平均が50点割ってるのは、サボり倒してた証拠」

 だからこそ、こう言えるわけで。

 ギリギリセーフの第一人者が遺憾を表明する。

「ぐっ……易鳥ちゃんが数学で80とか取るから、イクノちゃんだけ」

「ふふん、イスカを侮ってもらっては困るな。数学は得意なんだ」

 そこで『僕』は首を傾げた。

「……あれ? 易鳥ちゃん、前に『数学は苦手だから教えてくれ』って……あぁ、でも魔法学校じゃ数学、そこそこ点がよかったっけ」

 依織がジト目で嘘つきを睨みつける。

「あにくんの気が引きたかっただけだね、それも。『数学は苦手』って、なんか可愛いイメージあるでしょ? 女の子だと」

「ギクッ」

「ギクッ」

 易鳥のみならず、SHINYの誰かさんも急にキョドった。

 菜々留がやけに優しい笑みを含める。

「そうよねえ……恋姫ちゃん、いつも数学だけは苦手なのよねえ……不思議と」

「に、苦手なのは本当よ! 関数とか、図形問題とか……」

 恋姫は数学の不得意ぶりをアピールするも、クールな依織が断言。

「そうじゃないよ、ツンデレさん。本当に数学がダメなひとっていうのはね、ほら」

 41点の答案を眺めながら、郁乃はうんざりした。

「……そもそも、なんでXとYなんデスか? そこからわかんないんデスよぉ、数学は」

 これにはお付きの恵菜が苦笑い。

「数学が嫌いなひとに典型の発想ですわね」

「恵菜はどうだったの? テスト」

「まずまずでしたわ。依織さんには及びませんでしたけど」

「文系は恵菜のほうが上だったでしょ。やるね」

 ケイウォルス学院の一生徒として、恵菜もしっかり健闘したらしい。

 KNIGHTSを世話する綾乃も今頃はほっとしているはず。

「で? そっちはどうだったんだ? 期末試験」

「おにぃ~。易鳥ちゃん、すっごい余裕ぶっこいてない?」

 一方、S女勢もなかなかの成果を上げた。

 三年生の桃香は前回の中間試験に続き、今回も学年2位に。

「すごいです、桃香さん! 2位ですよ、2位!」

「ありがとう。でも恋姫ちゃんも順位があがったんでしょう? うふふ」

 努力家の恋姫も高得点を連発し、学年9位にランクインしたほど。

 妹の美玖も学年5位を死守している。

「ふう……これならパパも『戻ってこい』とは言えないでしょ」

「来月は久しぶりに会うんだし、優しくしてあげなよ? 父さん、泣くから」

「父親と兄がぬいぐるみってのが、どんな気持ちか想像してみなさいよ。まったく」

 お兄ちゃんにはこんな態度でも、5位のおかげで機嫌は良さそうだ。

 陽菜は学年で48位……とはいえ、内容が酷いわけではない。

「陽菜ちゃんは可もなく不可もなくって感じだね」

「あ、はい。これといって苦手な教科はないんですけど、得意な教科も……」

「僕でよければ、いつでも教えてあげるからさ」

 陽菜の表情に可憐な笑みが咲く。

「はっ、はいですの! 体操部のほうでもぜひ個人レッスンを」

「陽菜ちゃんは一対一のほうが集中できるタイプ? もちろん――んばぶっ!」

 『僕』の表情はUの字に歪みましたが。

 恋姫のチョップが『僕』の脳天にめり込んだうえで、煙を燻らせる。

「流されるようにデートを約束しないでくださいっ!」

「こんなぬいぐるみに乱獲されてるんだもの。S女もいよいよ末期かもしれないわねえ」

 その傍らで菜々留がS女の行く末を憂うと、郁乃と依織が手を横に振った。

「いやいやいやいや」

「妖精さんなら問題ない。あにくんが魔法学校に通ってた頃は……」

 過半数の女子が輪になり、内緒話を始める。

「あーそっか。おにぃ、ガッコーでは変身解いてたんだっけ?」

「易鳥がウザがるからね。それで……」

「や、やっぱり……狩られた子がいるのね?」

「恋姫ちゃん? 最近はティーンズラブも読んでるの?」

 Uの字に凹んでいる『僕』の身体は、桃香が丁寧に直してくれた。

「大丈夫ですか? プロデューサーさん」

「ありがとう」

 これだけ人数がいると、天使も多いから助かるよ。桃香と、美香留と、陽菜と。

 ま、まあ……桃香とふたりで暮らしていた頃は? よく彼女に間違って踏みつけられたり、寝惚けて絞められたりして、よく物理的に凹んでおりましたが。

 あとは心配な面子ばかり残っていた。

「美香留ちゃんは世界史と政経が赤点かあ……」

「お、おにぃ~!」

 美香留がつぶらな瞳に涙を溜める。

「心配しないで、美香留ちゃん。美香留ちゃんは留学生ってことで、S女とも話はついてるからさ。焦らずに少しずつ頑張ろうネ」

「だ、だよね? よかったあ……」

 こればかりはS女と相談し、ハードルを下げてもらっていた。

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