第395話

 最初は『恋人ごっこ』で始まったはずだった。

 しかし里緒奈たちのアプローチは日に日にエスカレート。また、『僕』のほうも誘惑に負け、スクール水着にびゅっびゅする始末。

 だからといって、男女の関係が進展しているわけでもない。

 むしろ後退気味で、『僕』と彼女たちの間には、わだかまりのような違和感が芽生えつつあった。

 少なからず、『僕』は彼女たちで××を処理しているわけで……。

 表向きは受け入れてくれるものの、本当は嫌なのかもしれない。……その割に恋姫も手を突っ込んでくるようになってしまったが。

(お風呂デートが目的になっちゃってるってことか……)

 そのうち歯止めが利かなくなって、カラダの関係だけ引きずる形になりはしないか。

 彼女たちを傷つけはしないか。

 そもそも三股どころか四股、五股の交際に近い有様だ。何かの拍子に全員の怒りが爆発し、『僕』を文字通り処刑する日も、そう遠くはないだろう。

 とりあえず、後日の焼肉に郁乃たちを誘っておく。

「あ、そうだ。試験が終わったら、KNIGHTSのみんなも一緒に――」

 そう言いかけた矢先、ケータイが鳴った。

『天音魔法でピンと来たぞ? お前、今『焼肉』と口にしたな?』

 幼馴染みの易鳥より、焼き肉大会へ愛を込めて。

「まだ言ってないし……そんな魔法、僕に掛けてたの?」

『無論だ。焼肉あるところにイスカあり……黄昏の決戦に匹敵する大事だからな』

 焼肉大会の四文字に『ラグナロク』とルビでも振ってるんだろーか。この食いしん坊の天音騎士様は……。

「参考までに教えてよ。ほかにどんな言葉をサーチしてるわけ?」

『ん? そうだな……待て、リストがある。半分くらいは郁乃と依織が登録したんだ』

 電話の向こうで易鳥はごそごそとノートを捲り、朗読を始めた。


  焼肉 バーベキュー 肉体改造 幼馴染みが一番

  遊園地 海水浴 温泉 ラブホテル

  愛してる もうイク ××に出すよ ××に出していい?


「三行目! 三行目は誰が登録したのさっ?」

『うん? 依織……だったかな』

「あと二行目も最後だけ行き先がおかしいってば!」

『でもお前、しょっちゅう言ってるぞ? ラブホだのラブホテルだの』

 天音魔法、怖っ!

 プライベートのプの字も残っていないじゃないか。

(た、助かった……いつも『スクール水着に出すよ』で)

 知らず知らず九死に一生を得ていたことに安堵しつつ、スケジュールを改める。

「じゃあ試験明けはみんなで焼肉ってことで。綾乃ちゃんはどうする?」

「私はその日、彼氏と食事ですので」

「おっ? オトナの発言~」

『お兄ちゃま! こっちもイスカの名前で対抗しろ』

 幼馴染みがうるさいので、今度こそケータイを切っておく。

 綾乃は気取るふうもなく肩を竦めた。

「そういえば……シャイPは易鳥と交際してらしたんですね」

「ハイ?」

「シャイPは魔法使いの妖精ですから、特に心配はしてませんけど」

 綾乃のみならず、どうやらマーベラス芸能プロダクションにて、『僕』と易鳥は交際中のカップルと認定されているらしい。

 郁乃が辟易とする。

「もう易鳥ちゃんが調子に乗って、調子に乗って……ほんと面倒くさいデス」

「今だけのことでしょ。幼馴染みのアドバンテージがあるってだけの話」

 依織は淡々と易鳥の立ち位置を分析した。

 美香留が頭の上の『僕』を掴む。

「そんなことより帰ろっ! ミカルちゃん、お腹空いた~」

「さっきから美香留ばっかり、ずるい! きゅーとにも抱っこさせて」

 キュートも一緒に、『僕』たちは早々に引きあげることに。

「もうすぐ期末試験……だけど、その前に」

「ファーストアルバムの収録だね! お兄ちゃん」

 アルバムの収録という大一番まで、あと二日。


 翌日はマーベラスプロの第一スタジオにて、最後の仕上げ。

 レッスンのあと、スペシャリストの巽雲雀が太鼓判を押してくれた。

「この一ヶ月で随分と伸びたんじゃねえか? お前ら。明日のファーストアルバムも、これなら余裕だろ」

「はいっ! ありがとうございましたー!」

 メンバーは深々と頭を下げる。

 巽Pのおかげで実際、SHINYの歌唱力は飛躍的に向上した。今までと同じ持ち歌を歌うにしても、音程の取り方や声の伸びが明らかに違っている。

「ただ、まあ……デビュー当初の歌い方が好きってファンも、いるかもしれねえが。そっちが聴きたけりゃ、シングルであるしな」

「じゃあ明日の収録は、今の歌い方でオーケーってことね」

 メンバーのモチベーションも高かった。

 美香留は今すぐ収録したいとばかりに燃える。

「ずーっと練習してたもんね。ミカルちゃん、早く歌いた~い!」

「その気持ち、レンキもわかるわ。いよいよ明日はファーストアルバムの……」

 結成メンバーである恋姫や菜々留にとってはなおのこと、ファーストアルバムのリリースは感慨深いはず。

「里緒奈ちゃんも明日は頼むぞ? センターとして」

「えっ? あ……も、もちろんよ!」

 考え事をしていたらしい里緒奈も、顔をあげ、元気な笑みを咲かせた。

「明日はリオナが最っ高のアルバムにしてあげる! 期待しててね? Pクン」

「うん! その意気だよ、里緒奈ちゃん」

 明日の収録が俄然、楽しみになってくる。

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