第394話
寝不足のせいか、今日は欠伸が多い。
「ふあ~あ……まったく、母さんのやつ……」
10時間ほど時差のあるマギシュヴェルトの母親に通信で叩き起こされたのは、昨晩のこと。その内容もまた『僕』の頭を痛くする。
『ひとりくらい貧乳の女の子も紹介しなさい。いいわね?』
よくないです、お母様……。
何しろ『僕』の母はマギシュヴェルトでも一、二を争うぺったんこだ。壁や絶壁と聞くだけで、母を想像する者もいるとか、いないとか。
(ぺったんこの女の子なんて、水泳部の菫ちゃんくらいしか……)
その件はさておき、仕事のほうは好調だった。
新メンバーの美香留も、キュートも、『僕』の期待以上に仕事をこなしてくれる。プロデューサーの『僕』があれもこれもと手を焼く必要がないほどに。
キュートの中身はマネージャーの美玖なのだから、ある程度の仕事はできて当然か。
驚くべきは美香留で、最初の頃のぎこちなさはどこへやら。この短期間のうちにカメラアピールも一通り習得してくれたので、安心して任せられる。
「よかったよ、ふたりとも。もうバッチリだネ」
美香留が朗らかな笑みを弾ませる。
「でしょ、でしょ! ミカルちゃん、頑張ったも~ん」
その情熱をもう少し……20パーセントくらいでいいから、勉学のほうにも傾けて欲しいものだが。それは言ってはいけないこと。
一方で、キュートは何やら不機嫌そうに頬を膨らませる。
「もお~っ。きゅーとと一緒にお仕事の時は、変身解いてって言ってるのに……」
今日も今日とてぬいぐるみの『僕』は、美香留の頭に乗っかった。
「僕がカッコいい妖精さんでも、モブの男子でも、お仕事には関係ないぞ? それよりちゃんとファンのほうを向いて、頑張らなくっちゃ」
「むぅ……こーいう時だけお兄ちゃん、プロデューサーなんだから」
キュートの細めた瞳が、美玖のキツい目つきと一致する。
アイマスクのせいでわかりにくいものの、やはり同一人物だ。キュートの機嫌を損ねたら美玖に殺されかねないので、お説教は有耶無耶に。
「ま、まあ……キュートも美香留ちゃんも、すっかりSHINYに馴染んだよね。スタッフもみんなとも仲良くやってるし? うんうん」
「それはいーんだけどぉ」
「きゅーともそれはいいの。でもぉ……」
ところがキュートのみならず、美香留も不満げに口を尖らせる。
「「なんでKNIGHTSのふたりも一緒なの?」」
その言葉通り、本日はKNIGHTSの郁乃と依織も同じスタジオで仕事だった。
仮免プロデューサーの館林綾乃がファイルを片手に近づいてくる。
「お待たせしました、シャイP。あとでご確認ください」
「ありがとう。綾乃ちゃんも慣れてきたね」
「シャイPのおかげです」
手際のよさはどことなく妹の美玖に似ていた。
(綾乃ちゃんが一緒だから、美玖もキュートでいられるんだよなあ……)
妹の給料(マネージャー分)の行方は気になるが、知らなかったことにしておくか。
KNIGHTSの妹ペアもこちらへ駆け寄ってくる。
「にぃにぃ! 次はイクノちゃんの番デスよ、見ててください」
「今日は易鳥がいないから。易鳥の分もイオリが満足させてあげるよ、あにくん」
「ふたりならできるよ。頑張って!」
素人同然だったKNIGHTSも、宍戸直子の稽古のおかげでメキメキと力をつけていた。SHINYラジオへのゲスト出演もすこぶる好評だ。
「にしても……ケイウォルス学院も試験期間でしょ? 郁乃ちゃん、大丈夫なの?」
「ギクッ」
『僕』の指摘に郁乃は青ざめるも、依織がしれっとフォロー。
「問題ないよ。帰ったら、すぐにまた缶詰だから」
「にっ、にぃにぃ! イクノちゃんもSHINYのメンバーになりたいデス!」
「こっちに来ても、試験勉強からは逃げられないぞー?」
勉強が苦手なメンバーにも、定期試験は頑張ってもらうほかない。
美香留とキュートはまだむくれていた。
「うぅ……4人もいたら、おにぃも四分の一ぃ……」
「菜々留ちゃんも恋姫ちゃんもいない今が、チャンスなのに~」
里緒奈たちは今頃、寮で勉強してるんだろーなあ。
「うそっ? 股下にくぐらせるんじゃなくって、そこから上へ?」
「お尻の谷間がフィットして、気持ちいいらしいわ」
「その間も、あ……あれでしょう? お兄さんの手はおっぱいを……」
『僕』は4人のアイドルに集合を掛ける。
「夏休みはSHINYとKNIGHTS、それからSPIRALとも色々企画してるからね。でも健康第一! 夏バテや熱中症には充分、気をつけるんだぞ」
「はーい!」
妹メンバーは純朴で、裏表がないから好きだ。実妹のキュートは別にしても。
(なんか最近、里緒奈ちゃんたちが怖いんだよなあ)
SHINYの結成メンバーである里緒奈、菜々留、恋姫と、プロデューサーの『僕』の関係は、少しずつ変化しつつある。
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