第391話
その姿を目の当たりにして、妹ズは唖然。
「……………」
陽菜と恵菜がそそくさと歩み寄ってきて、『僕』にかしずく。
「お待ちしてましたの! ご主人様っ」
「陽菜とエナのふたりで誠心誠意、ご奉仕致しますわ」
「ちょ、ちょっと待って? そんな恰好でこっちの僕に近づかれたら……!」
あーもう……ご奉仕の対象がムクムクと起きあがっちゃうじゃないか。
美玖は呆れ半分に暴露した。
「あなたたちが妖精さんと思ってたのは、人間の男子なの。で、こんなのが女子高生をプロデュースしてるんだから……わかるでしょう?」
「……………」
妹ズは雁首を揃えて、まだ呆然としている。
ところが、真中の帆奈緒が俄かに顔を赤らめた。
「……あ。それって(照)」
「シャーーーッ!」
里緒奈が帆奈緒、菜々留が亞亜耶、恋姫が千姫を捕まえ、廊下へ連れ出していく。
丸聞こえなんだけどね。
「何考えたの? ねえっ! 男の子のお兄様を見て、何を!」
「正直に話したほうが身のためよ? いけないこと、考えたんでしょう?」
「横取りなんて真似したら……わかってるわね? 千姫」
対する妹陣もヒートアップ。
「はあ? 何焦っちゃってんのぉ? おねえ様」
「ふぅん……まだまだ介入の余地はありそうよ? ふたりとも」
「横取りも何も、おにいさん次第でしょう? お、ね、え、さ、ん」
里緒奈が戻ってきて、美玖にクレームを叩きつける。
「もうっ! 美玖ちゃんがバラしたりするから!」
「結構なことじゃないの。兄さんの下の世話は妹に任せて、あなたたちはアイドル活動に専念しなさいったら」
「しものせわって、なぁに? おにぃがお風呂で出してるやつ?」
「言い方! 美玖、変な言い方しないで!」
忘れていた……美玖はともかく、キュートは筋金入りのエロゲー悩なんだっけ。
姉と妹が3人ずつ相対し、火花を散らす。
「妹は妹らしくしてなさいってば」
「そんなに余裕ないわけ? ざぁこ、ざぁこー」
その後、両陣営はテレビゲームで雌雄を決することに。
試験勉強など忘却の彼方らしい。
「あっ? こら、卑怯よ! 今のはなしでしょう!」
「戦術よ、戦術。言いがかりはよして」
白熱する戦いを尻目に、美玖が溜息をつく。
「兄さんの正体を知れば、退散するものと思ってたけど……誤算だったわね」
「今回は美玖のせいだぞ?」
「はいはい。適当なところで、ミクが切りあげておくから。それよりメイドさんたちの相手してあげたら?」
「……え?」
ぼんやりしていたら、陽菜と恵菜に囲まれてしまった。
「ご主人様? 今のうちですの」
「メイドらしく、お背中をお流ししますわ」
えーと、その……。
すごく気持ちよかったです(照)。
☆
翌日も放課後は寮へ直帰し、試験勉強に勤しむ。
しかし本日は仕事のため、美香留とキュートはプロデューサーとともに外出。
里緒奈、菜々留、恋姫の3人だけでひとつのテーブルを囲んで、英語やら数学やらの難問に頭を悩ませていた。
「んもう……こういう時に限って、美玖ちゃんがいないんだから」
「マネージャーで忙しいんでしょうね。それに美玖が一緒じゃないと、キュートがP君に迫り倒しそうだし……」
「手強いライバルよねえ。キュートちゃんも、美香留ちゃんも」
キュートと美香留はまだまだ『新メンバー』の立ち位置のため、プロデューサーが意図的にメディアへの露出を増やしているとのこと。
そこに異論はないものの、不安にはなる。
里緒奈は手を止め、ふたりのメンバーに目配せした。
「ねえ、ふたりとも。この一ヶ月のうちに、まずい流れになってきたと思わない?」
菜々留が頬に手を当て、溜息を漏らす。
「同感よ。お仕事のほうじゃなくって……でしょう?」
「アイドルとしても正直、押され気味だと思うわよ? レンキは」
恋姫の表情も真剣そのもの。
プロデューサーの尽力とメンバーの努力の甲斐あって、SHINYも随分と知名度が上がった。マーベラス芸能プロダクションにおいてもトップクラスのアイドルグループに名を連ね、あのSPIRALとも肩を並べつつある。
メンバーごとに根強いファンも増えた。
世界制服の変態性とは裏腹に、女性のファンも付き始めている。
「まあ確かに……恋姫ちゃんの言う通り? 美香留ちゃんとキュートちゃんに美味しいとこ持ってかれてるような気はするけど」
「そのあたりのバランスはPくんが取ってくれてると思うわ」
正念場の夏に向け、SHINYの活動は順調。
あとは目の前の期末試験さえクリアすれば、最高の夏休みが待っている。
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