第390話

 その帆奈緒が姉と同じように脚を組んで、紅茶を呷った。リトル里緒奈だなあ。

「姉が売れっ子アイドルでしょ? そのせいで、ホナオたちも学校で追っかけまわされたりしててねー。おにい様にミミック貸してもらって、ほんとよかったわ」

「あぁ、だからあれに入って……乗ってきたわけ?」

 帆奈緒や亞亜耶、千姫は姉の名声の煽りを受け、苦労しているとのこと。

「ごめんね。SHINYのアイドル活動が、帆奈緒ちゃんたちの生活まで……」

「気にしないでください。センキも姉のこと、自慢したりしてますので」

 千姫はそう言ってくれるものの、プロデューサーの『僕』にとっては由々しき問題だった。だからこそ人数分のミミックを調達し、3人に貸している。

 しかしこれから夏に掛けて、SHINYの露出はどんどん増えるわけで。

 そうなれば、帆奈緒たち妹ズの生活に支障をきたす恐れもあった。

「うぅ~ん……」

 『僕』はぬいぐるみの身体で腕を組む。

「どったの? おにぃ」

「いや……夏の間は、帆奈緒ちゃんたちのカバーを厚くしたほうがいいかな、ってさ」

 マネージャーの妹も口を揃えた。

「確かにね。妹も姉と同じで3人一緒だし……何かの拍子に注目され出したら、マスコミが殺到しそうだもの。SHINYのためにもそれは避けたいところね」

 妹ズの存在は話題性が高すぎるのだ。

 SHINYの初期メンバーにはそれぞれ妹がいて、3人とも同じ中学に通っている。

 もちろん姉と同じく器量よし、スタイルよしの逸材なのだから、『妹たちもトリオでアイドルデビュー』などと騒ぎ立てる輩が出てくるだろう。

「だから移動も基本、ミミックなのよねー」

「え? あんなのに乗ってたら、大騒ぎになったりしない?」

「ステルス機能がついてるから平気よ。うふふ」

(悪いことに使ってないといいけど。特に亞亜耶ちゃん)

 ここで千姫が手を挙げる。

「そのことでセンキたち、おにいさんに相談があるんです」

「ん? 何?」

 その千姫を差し置いて、帆奈緒が声を弾ませた。

「いっそホナオたちもアイドルやっちゃおうかなー、って。だからぁ、おにい様? まずは夏休みの間だけ、ホナオたちにもアイドルのお仕事、勉強させてくんない?」

 3人の姉が一挙に反論に出る。

「そっ、そんなのだめに決まってるじゃない! Pクンは忙しいのっ」

「アイドルって大変なのよ? 水着になったり、下着になったり……あら? 大変なのはナナルたちばかりで、Pくんは楽しいだけ……?」

「有名人になってチヤホヤされたいってだけでしょう? あなたたちは」

 大人気のアイドルとして貫禄のある物言いだ(菜々留の台詞は少し怪しいが)。

 実際、アイドルに憧れる女の子は多かった。

 しかも帆奈緒の場合、目の前に大きなチャンスが転がっている。姉が有名なアイドルグループのメンバーで、プロデューサーの『僕』とも面識があるのだから。

 それに『僕』自身、妹ズの潜在能力に気付いてはいた。

 だってSHINYの妹メンバーで、これまた可愛いんだぞ?

 ウケるに決まってるじゃないか。

 KNIGHTSのように余所で旗揚げされても困るので、プロデューサーの『僕』のほうから色気を出しておく。

「今年はSHINYとKNIGHTSでイッパイイッパイだけどさ。帆奈緒ちゃん、亞亜耶ちゃん、千姫ちゃんの3人で、また新しいアイドルの構想があったりするんだ」

 その言葉に妹ズは瞳を爛々と輝かせた。

「ほんとっ? おにい様!」

「が、頑張ります! センキ、姉より頑張りますので!」

「アーナもやるわ。何なら今から、おねえたまの代理でも……」

 対し、姉ズは仁王の形相で『僕』を見下ろす。

「もうっ! Pクンが調子いいこと言うから、その気になっちゃったじゃないの!」

「どうするんですか? お仕事にもついてくる勢いですよ? この子たち」

「そしてナナルたちをどこかに閉じ込めて、自分たちが代わりに出演しようっていう魂胆ね。亞亜耶の考えそうなことだわ」

 菜々留&亞亜耶の姉妹はどういう思考回路してんの?

 美香留が暢気に伸びをする。

「別にいーんじゃないのぉ? 里緒奈ちゃんたち、中2でデビューしたってゆーし? ミカルちゃんも後輩、欲しいもん」

「ホナオ、美香留おねえ様についていくわっ!」

「改めてご挨拶申しあげます、美香留おねえさん。ツンデ恋姫の妹の、千姫です」

「アーナも美香留おねえたま、大好きになっちゃったわ」

 妹ズも天使の魅力に気付いてしまったか。

 あと『ツンデ恋姫』って語呂がいいなあ。今度使おうっと。

 メイドの陽菜と恵菜は遠慮してか、口を噤む中、マネージャーが妹ズに警告する。

「芸能界に興味があるのは、わからなくもないけど。あなたたちに毎晩、兄さんの相手ができるのかしらね」

 帆奈緒も亞亜耶も首を傾げる。

「……毎晩?」

「相手?」

「だから兄さんの相手よ。一緒にお風呂入ったり、一緒のベッドで寝たり。……あぁ、裸じゃないわよ? 兄さんの要望でスクール水着あたりを着ることにはなるけど」

 千姫も加わり、妹ズはさらに首を傾げた。

「別に……魔法使いの妖精さんとお風呂に入るくらい、どうってこと……」

「アーナ、おにいたまなら抱っこして寝たいくらいよ?」

「ホナオも! フカフカで気持ちよさそーだもんね」

 美玖がお得意の冷笑を浮かべる。

「……本当にそうかしら? 兄さんの正体がコレだとしても?」

 次の瞬間、『僕』を魔法消去が襲った。

「うわああっ? な……何をするんだよ、美玖?」

 間一髪、『僕』は変身が解除されるとともに着替えに成功する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る