第389話
玄関先には3つの宝箱が置いてあった。異様な光景に里緒奈は困惑。
「ねえ……これって、マギシュヴェルトの案件じゃない?」
『僕』は二秒で納得する。
「大丈夫、お客さんだよ。里緒奈ちゃんもよく知ってる子だし」
「え? 誰のこと?」
その時、中央の宝箱がガコガコと揺れた。
「おねえ様っ!」
蓋が開き、中から小柄な女の子が飛び出してくる。
「じゃ~ん! おにい様も久しぶりっ!」
右と左の宝箱からもそれぞれ飛び出し、ずらりと並んだ。
「遊びに来ちゃったの。おにいたま」
「こんにちは、おにいさん。姉がお世話になってます」
こちらの里緒奈が目を見張る。
「帆奈緒ぉ?」
「亞亜耶ちゃんと千姫ちゃんもいらっしゃい。よく来たね」
メンバーの妹たちだった。
里緒奈の妹、帆奈緒(ほなお)と。
菜々留の妹、亞亜耶(ああな)と。
恋姫の妹、千姫(せんき)。
当然、彼女たちもぬいぐるみの『僕』とは面識がある。
「恋姫ちゃんと菜々留ちゃんもいるよ。ちょうど今、休憩してたところなんだ」
「それじゃあ、お邪魔するわね」
「お邪魔します」
「えっ? ちょっと、あなたたち! いきなり押しかけてきて、何を……」
「おねえ様も突っ立ってないで、入ったらぁ?」
いつの間にやら宝箱は中庭の一ヶ所に固まっていた。
『僕』は彼女たちを伴い、リビングへ。
恋姫と菜々留が驚きの声をあげる。
「千姫? あなた、どうしてここに……」
「あらあら、亞亜耶ったら。遊びに来ちゃったのね」
妹ズは現在、中学生。
地元の中学も試験期間中のため、クラブ活動もないのだろう。その時間で真面目に勉強――するはずもなく、アイドルの姉ズを茶化しに来たらしい。
陽菜と恵菜が客人のため、追加でお茶を淹れてくる。
「みなさんにも姉妹がいらしたんですのね」
「よく似てらっしゃいますわ。里緒奈さんと……えぇと、帆奈緒さん?」
レオタードにフリルというメイドの見目姿に、妹ズはあんぐりと口を開いた。
「こっちのメイドさんたちもアイドルなんですか? おにいさん」
「すごいわ……日頃からこういう恰好をして、アイドルとしての意識を高めてるのねえ」
「世界制服やってるくらいだもん。そーいうことでしょ? おねえ様」
恋姫と菜々留が笑っていない視線で『僕』に微笑みかける。
「P君? ちゃんと説明してくれるんですよね?」
「Pくんの趣味じゃなかったら、ナナルたちの趣味ってことになるものねえ」
里緒奈はひとりで癇癪を起こした。
「メイドさんの話はあとよ、あと! 帆奈緒、急に押しかけてきて何の用なわけ? ママになんか言われたとか?」
妹の帆奈緒は不満そうに口を尖らせる。
「せっかく可愛い妹が尋ねてきたのに、その扱いはないんじゃなぁい?」
「はあ? 誰が『可愛い妹』よ、誰が」
姉妹喧嘩を横目で眺めつつ、美香留が美玖に問いかけた。
「どっちが姉でどっちが妹か、わかんないよねー」
「菜々留と恋姫のところもそうよ。妹が大人びてるものだから」
ほんの一瞬、菜々留と恋姫が表情を強張らせる。
下手に姉貴ぶっても里緒奈の二の舞になる――と踏んだのだろう。表向きは自分の妹を歓迎するスタンスを取り、やり過ごしに掛かる。
「お客さんが千姫たちなら、何もあんなに騒がなくっても……ねえ? 菜々留」
「そうよねえ。里緒奈ちゃんが悲鳴を上げたりするから、何事かと思っちゃったわ」
「ミミックにびっくりしたんだよね? 里緒奈ちゃんは」
帆奈緒たちが入っていた宝箱は、マギシュヴェルトのアイテム『ミミック』だ。
アイテムボックスとしての運用は無論のこと、ボディーガードとしても有能。若干揺れるものの、移動の足にも使える。
「じゃあ今日も、ここまでミミックで? 5駅分くらい距離があるのに?」
「はい」
「だったら、次からはゲートを通っておいでよ。そのほうが――」
「だっ、だめだめ! Pクン、それ言わないで!」
里緒奈の制止が入るも、何のことやら。
「ゲートぉ?」
「そーそー。おにぃが繋いでくれたやつでぇ」
『僕』に代わり、美香留が続きを説明してくれる。
「おにぃのこっちの実家から、ワープできんの。それ使ったほうが早いっしょ」
妹ズは手を取り合って喜んだ。
「便利なものがあるのね! 次から使っちゃおーっと」
「これでいつでも遊びに来られるわねえ」
「おにいさんの邪魔をするのはだめよ? 帆奈緒も、亞亜耶も」
一方で、姉ズは両手で顔を覆うほどに落胆する。
「Pクンのバカ……」
「じきに夏休みだもの。毎日だって遊びにきそうねえ……」
「千姫もこういうことは止めてくれないから……はあ」
これは『僕』が口を滑らせてしまったか。
この寮はアイドル活動の拠点だけに、デリケートな情報を扱っている。アイドルたちとのソーププレイ……じゃなくて、お風呂で3P……でもなくて。
イベントの台本とか、企画のスケジュールとか。
そういったものが第三者の手によって流出しないとも限らない。そのための『関係者以外立ち入り禁止』だ。
帆奈緒たちを信用していないわけではないが、線引きは必要だろう。
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