第382話

「すごく可愛いよ! 陽菜ちゃんも、恵菜ちゃんも」

 普段からSHINYの容姿を褒めまくっているおかげで、すらっと言葉が出せた。

「か、可愛いだなんて……恥ずかしいですの、お兄さん先輩」

 まんざらではない様子で陽菜は人差し指を捏ね繰りあわせる。巨乳の前で。

 対照的に恵菜はビキニのスタイルを伸びきらせて、その巨乳ぶりを『僕』にアピール。

「お兄さま先輩にお見せするために買った、とびっきり素敵な水着ですもの。どうぞ、心行くまでご堪能くださいませ? 陽菜の分も」

「え、恵菜っ? またそうやって、お兄さん先輩に変なこと……」

「あははっ。恵菜ちゃんが一緒だと、陽菜ちゃんも砕けた感じで、面白いね」

 念のため、『僕』は認識阻害の魔法を強化しておく。

 これで、ほかの客は『僕』たちを人影程度にしか認識できないはずだ。男子の『僕』はともかくとして、彼女たちはなるべく目立たないほうがいいだろう。

 そこいらの輩に、この姉妹のビキニ姿を見せたくもない。

「日焼けの心配もいらないからね? 魔法でフィールドを張ってるからさ」

「そんなこともできますの? マギシュヴェルトの魔法の力、恐れ入りますわ……」

 彼女たちにせよ、妹にせよ、攻撃魔法ばかり習得するからだと思うんですが。

 荷物も異次元ボックスに収納しておけばオーケーだ。

 陽菜が浮き輪を抱え、プールサイドへ踏み込む。

「なんだかヒナ、ワクワクしてきちゃいましたの! お兄さん先輩も早く!」

「準備運動くらいしなさい? 陽菜。まったく……こういう時だけは逞しいのだから」

「僕たちも行こうよ。ほら」

 それから三十分ほどは至福の時間だった――と、後日の『僕』は語った。

 だって、巨乳の女の子がビキニで、しかもふたりいるんだぞ?

「やぁん! お兄さん先輩、流されちゃいますの~!」

 陽菜は何かと『僕』にくっつきたがるし。

「お兄さま先輩ったら、陽菜とばっかり……恵菜とも遊んで欲しいですわ」

 対抗して恵菜も、『僕』にビキニ越しの柔肌を擦りつけてくる。

(こういうの、人間の姿だと新鮮だなあ)

 ぬいぐるみの姿でなら、プールの授業や水泳部の活動で毎日のように体験していた。しかし今はひとりの男性として、ふたりの女の子とキャッキャウフフなのだから。

 そんな折、陽菜の視線の先にあるものに気付く。

「陽菜ちゃん、ウォータースライダーがやりたいの?」

「え? でも……混んでるみたいですし」

 ウォータースライダーは目を引くだけに、長い行列ができていた。

「ふたりで一緒に滑れるそうなんですけど、それだと、ひとり余っちゃいますので」

「恵菜ちゃんとふたりで滑るのは?」

「いいえ、ヒナはお兄さん先輩と……あっ? い、今のはその」

 陽菜は顔を赤らめ、おたおたと慌てだす。

 見かねたらしい恵菜が口を挟んだ。

「二対一でもデートですもの。エナもお兄さま先輩とご一緒したいですわ」

「ああ、そういうことか」

 ウォータースライダーに一回並ぶくらいなら、構わない。

 しかし『僕』とのペアに拘ると、『僕』はあの行列に二回も並ぶことになる。また陽菜と恵菜は一回ずつ、ひとりで待つ羽目にもなる。

「4人なら2人ずつで滑るってのも、ありなんだけどなあ……ハッ?」

 そう口にして、『僕』はぎくりとした。

 現実にフラグなどというものは存在しない。しかし伏線は張られているわけで。

 里緒奈たちの異様なおとなしさ。そして美玖の不在――。

「そこまでよ! 魔法少女っ!」

 まさに狙ったようなタイミングで、あの妹が割り込んできた。

 持ち前の爆乳を無理やりビキニで括った感のある、アイドルの妹。キュートがアイマスク越しに陽菜と恵菜の姉妹を睨みつける。

「お兄ちゃんはきゅーととウォータースライダーするんだからっ!」

 これには恵菜がたじろいだ。

「あ、あなたは一体……?」

(本気で言ってるのかなあ……どう見たって、あれ、僕の妹なんだけど……)

 陽菜もキュートの正体には気付いた素振りもなく、ただ戸惑っている。

「あなたは確かSHINYの……お、『お兄ちゃん』ってどういうことですの?」

「お兄ちゃんの妹枠はきゅーとのってこと!」

 こちらの妹は『僕』に懐っこくて可愛いものの、言葉の意味はわからなかった。そもそも行動からして、凡人の『僕』にはわかんないしさあ。

「陽菜ちゃんたち、キュートとはまだ会ったことなかったっけ?」

「今日が初めてですの。お部屋にはいつもいませんし……」

 キュートが双子のメイド姉妹に人差し指をびしっと突きつける。

「これ以上は好きにさせないんだから。ウォータースライダーはきゅーとがお兄ちゃんと一緒に滑るの。これ、決定!」

 すると、陽菜と恵菜も対抗し始めてしまった。

「だ……だめですのっ! お兄さん先輩は今からヒナと、スライダーで……」

「エナもいましてよ? あとから出しゃばってくるような相手には、譲れませんわ」

 美少女たちが二対一で火花を散らす。

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