第381話

『恵菜たちとプールだと? こっちは仕事なんだぞ?』

「知ってるよ。KNIGHTSはイベントでしょ、イベント」

 そして土曜、朝は幼馴染みとの電話で始まった。

『易鳥ちゃーん! 出発デスよー!』

『くっ……これで勝ったと思うなよ? 憶えてろ!』

 相変わらず天音騎士様は捨て台詞が輝いていらっしゃる。

 里緒奈たちは妙におとなしかった。

「じゃあ、こっちは試験勉強してるから。Pクンは楽しんできてね? プール」

「う、うん」

「美香留も今日は一緒に勉強よ。もう試験期間で部活もないんだから」

「えっ、チア部の活動ないのぉ?」

 今までのアレやコレやで培われてきた、『僕』の第六感が危機を報せる。

(さては何か企んでるな?)

 とはいえ、彼女たちは試験勉強にもかかわらず、『僕』だけ遊びに行く週末だ。強気に出られるはずもない。

「あら? 美玖ちゃんは、今日はこっちに来ないの?」

「実家のほうが捗るそうよ。勉強」

 『僕』は人間の姿で身だしなみを整え、転移ゲートの前で本日のお相手を迎える。

「お、お待たせですの! お兄さん先輩っ」

「おはようございますわ。お兄さま先輩」

 双子の姉妹、陽菜と恵菜は涼しげな風貌で、それぞれ色違いの鞄を肩に掛けていた。

「ふたりとも、鞄は同じやつなんだね」

「恵菜がとても気に入って……ヒナにもこの、ピンク色のを」

 マジカルラズリにしてもピンクというより、赤みの強いカーマインが近いか。マジカルラピスの青はやや緑がかったセルリアンブルーで、恵菜の鞄もまさにその色だ。

 夏物のワンピースもお揃いで決まっている。

「……」

 まじまじと見惚れていると、恵菜が小首を傾げた。

「どうしまして? お兄さま先輩」

「あ、いや……やっぱり女子高生は、お出掛けの恰好に気合が入ってるなあ、って」

「でしょう? 陽菜なんて、昨夜からずっと悩んでましたのよ? うふふ」

「ちょ、ちょっと! 恵菜? 余計なこと言わないで」

 本日のコーデのために一晩悩んだらしい陽菜が、真っ赤になる。

「それじゃ行こうか」

「あ……はい」

 双子姉妹の睦まじさを微笑ましく思いながら、『僕』は中庭のほうへ。

「じ~~~~~っ」

 廊下の端で里緒奈たちがトーテムポールになっていたのは、見なかったことにする。

(私用でシャイニー号を使っちゃうけど……まあいっか。易鳥ちゃんもしょっちゅうドラゴンを乗りまわしてるし)

 足にするには便利すぎるシャイニー号、本日も発進。


 陽菜が少しは旅の気分も楽しみたいというので、『僕』たちは途中からモノレールに乗り換え、人工の離島へ。

「うわあーっ!」

 入場ゲートを前にして、今朝一番の快哉をあげる。

 梅雨もすっかり明け、夏の空は青々と晴れ渡っていた。

 まさに絶好のプール日和。プール開きから間がないにもかかわらず、白虎アクアフロートは大勢の客で賑わっている。

 そのひとの多さに陽菜が怖気づいた。

「こんなにたくさん……ヒナたち、本当に遊べますの?」

「みんながみんな、同じプールってわけじゃないよ。多分ね」

 『僕』もいささか自信はなかったものの、次第に客がばらけていく。

 完全予約制のプールなどもあるらしい。『僕』たちの招待チケットは当日一般客用のプールのものなので、人工島を東へ進む。

「こんな規模のプール、マギシュヴェルトじゃ考えられないなあ」

「ニブルヘイムでもですわ」

 出身の世界は違っても、ここでは互いに異邦人。

 何でも彼女たちは親善大使の末裔として、地上へ出る権利があったのだとか。

 先日少し挨拶をした母親も、ニブルヘイムの生まれとのこと。

(まあ珍しくもないか。僕みたいなのもいるし、刹那さんも死神らしいし……SPIRALの3人もワーウルフ、なんだっけ?)

 間もなく『僕』たちはお目当てのプールへ到着した。

 招待チケットを切ってもらい、男女別に中へ。

「着替えてから集合だね」

「はいですの。行きましょ、恵菜」

「ええ。では、またのちほど」

 陽菜も恵菜も弾む足取りで離れていった。

(女子更衣室かあ。体操部のせいでトラウマになりそうだよ、ほんと)

 思い出したらボッ……しかねないので、記憶に蓋をする。

 里緒奈たちの薦めで買った水泳パンツに、早くも出番がやってきた。多少なりとも身体を鍛えておいたのも、正解だったか。

 ほかの男性客に混ざって、外へ出て、掲示板の前で彼女たちを待つ。

「女の子は時間が掛かりそうだし……お?」

「お兄さん先輩~っ!」

 あと五分は掛かる……と思いきや、陽菜が装いも新たに駆け寄ってきた。

 恵菜も麗しい見目姿で合流する。

「お待たせしましたわ。お兄さま先輩」

「あ……う、うん」

 危うく返事を忘れるところだった。

 ほかにも水着の女性客がいるせいか、遠慮が働かない。器量よし、プロポーションよし、ビキニよしの双子姉妹に『僕』は目を見張る。

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