第377話

 こうしてコスプレPVの撮影……もとい魔法少女との決闘は幕を降ろした。

 陽菜と恵菜は変身を解き、SHINYの寮へ。

 易鳥たちKNIGHTSの面々も加わり、大所帯となる。

「客間が狭いぞ。お兄ちゃま」

「5人も増えたら、そりゃ狭いってば」

 美香留と郁乃は当たり前のようにゲームを始め、依織は恋姫に漫画を返していた。

「ふふふ。今日こそ全勝デス!」

「ミカルちゃんだって練習してるもんねー」

「恋姫、これ……彼氏がおっぱい吸ったりしてたけど、本当に少女漫画?」

「いっ言わなくていいから!」

 今夜は客のはずの陽菜と恵菜が、お茶を淹れてくる。

「どうぞ、みなさん」

「エナも何度かここに来ておりましたの、お気付きになって?」

「ごめんなさいねえ、ふたりとも。気を遣わせちゃって」

 女子高生らしい和やかな雰囲気だ。

 その一方で――ぬいぐるみの『僕』はハンガーラックに吊るされていた。

「あ、あのぉ? そろそろ降ろしていただけると……」

「朝までそうしてなさい」

 妹は『僕』に目もくれず、ノートパソコンを叩いている。

 里緒奈と易鳥はお仕置き用の道具を選んでいた。

「まったくもう……あれだけリオナたちに心配掛けておいて、これ?」

「こいつを守って戦ったのが、馬鹿馬鹿しくなってきたぞ」

「ねえ、ちょっと? 日本刀とか持ち出すのやめて? そっちの釘バットも、アイドルが振りまわしていい得物じゃないよね?」

 ぬいぐるみの身体なら殴る・蹴るに耐性があるとはいえ、さすがに備前長船で斬られるのはマズいんじゃないかなあ……。

「大丈夫よ? Pクン。みね打ちで勘弁してあげるから」

「それって突きの構えだよね? 突きでみね打ちって、どうやるの? あー、待って待って! 試さなくていいから!」

「まだまだ余裕がありそうですね、P君」

 どうやら彼女たちと『僕』の間で、大きな行き違いがあったらしい。

 プロデューサーの『僕』は今夜の決闘を、PV撮影を前提として考えていた。郁乃と依織にもその旨を説明し、手伝ってもらっている。

 しかし大半のメンバーにとっては、『僕』の唇を守るための戦いだったとか。

「僕の唇なんて守るほどのものじゃ……大体さあ? キスなら昨日も美香留ちゃんと」

「ぬいぐるみの時はノーカンよ? ノーカン」

「いやでも、変身してない時も……ファーストキスなら美羽と」

「誰よ、それ!!!」

 里緒奈、恋姫、菜々留のトリオが『僕』を取り囲む。

 美玖が淡々と付け加えた。

「歳の離れた妹がもうひとりいるのよ。まだ九歳の」

「そ、そんなに小さな女の子と……キス? 犯罪じゃないですかっ!」

「美羽は憶えてないって! これこそノーカンでしょ?」

「でもお兄たまはしっかり憶えてるあたり、将来が不安だわ……」

 ゲームで遊びつつ郁乃が美香留に問いかけた。

「ぶっちゃけ、にぃにぃはロリコンなんデスか?」

「へ? ロリコンって、オジサンが女子高生のお尻追っかけることじゃないのぉ?」

「美香留ちゃん! そんなのどこで憶えたの? さては里緒奈ちゃんだな?」

「Pクン、あとで話があるから」

 里緒奈が疲労感いっぱいに肩を竦める。

「……ね? 陽菜ちゃん、恵菜ちゃんも、これでわかったでしょ。今回は……ううん、今回もみんなして、Pクンのプロデュースに巻き込まれたってわけ」

「は、はあ……」

 陽菜はまだ飲み込めていない様子だが、利発そうな恵菜は呆れていた。

「信じられませんわ。女の子がファーストキスを賭した大一番で、まさかアイドルの企画を進めていただなんて……妹は本気で怒ってましたのに」

 そっくりな双子を見て、恋姫が目を白黒させる。

「あれ? 妹って……」

「一応、姉はエナですわ。陽菜が妹で」

 菜々留も双子をしげしげと眺め、感嘆の息を漏らした。

「陽菜ちゃんってしっかりしてるから、ナナルもてっきり、陽菜ちゃんがお姉さんだと思ってたわ。にしても……本当によく似てるわねえ」

「双子ですもの」

 里緒奈が宙吊りの『僕』を突っつく。

「まっ、仕返ししたいならこの通り、好きにしていいから。特にぬいぐるみのPクンとは話が通じないとこあるし? 殴ったほうが早いわよ、多分」

「ひええっ? ぶたないで、蹴らないで~」

 情けないなんて思わないでね。物理で訴えてくるアイドルって、怖いんだからさ。

 しかし陽菜は静かにかぶりを振って、胸中を明かした。

「いえ……もういいですの」

「あーうん。アホらしくなっちゃった?」

「そうじゃなくて……お兄さん先輩のこと、ヒナ、何も知らなかったんだなあ……って」

 口下手な妹に代わって、隣の恵菜がはきはきとまくし立てる。

「お兄さま先輩はメグレズさんにお聞きになったのではなくて? 実はエナたち、かつて天界から魔界へ派遣された、親善大使の末裔なのですわ」

 宙吊りのまま『僕』はメグレズの話を思い出した。

『そうそう、こっちには親善大使の末裔がいるのよ。天界のね。で……天界と交流する際は、その末裔を仲介に立てることになってるのだけれど……』

 その親善大使の子孫とやらが、陽菜と恵菜。

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