第375話

 マジカルラズリがショットガンを、マジカルラピスがグレネードランチャーに持ち替え、さらなる弾幕と爆風をまき散らす。

「防御はそれほどじゃない……そうでしょ? 恵菜!」

「グレネードが当たりさえすれば!」

 ビルの屋上で続けざまに爆発が起こった。

 しかし爆炎は水平に両断され、剥がされるように消えていく。

「このスピードで斬れないものなんて、ないから」

「……ッ!」

 次の瞬間、マジカルラズリが球状のシールドを張った。

 剣閃がシールドに亀裂を走らせる。

「あれ? 間に合ったんだ?」

「くう……! ま、まだ速くなるなんて」

 弾幕と爆風を遮蔽物としていたはずの魔法少女たちが、次第に押され始めた。

 マジカルラピスもシールドの維持に気を取られ、攻撃が疎かになる。

「そろそろ行くよ? 本気で」

「え? 何を――きゃああああっ!」

 マジカルラピスがシールドごと弾かれ、浮いた。

 同じようにマジカルラズリも宙に浮かされ、平衡感覚を奪われる。

 そこへ容赦なく叩き込まれる、高速の斬撃。

「きゃあああーっ!」

 魔法少女たちは斬撃の荒波に翻弄されて、悲鳴をあげる。

「アニメで観たなあ、これ……」

「そ、そうか。イスカも観てみるかな……」

 もしかしたら、これが『魔法少女』と『変身ヒロイン』の差なのだろうか。

 魔法少女は出力任せのビームで敵を倒すものだ。炎や氷といった属性が付加する場合もあるが、基本的には『パワーを上げまくって攻撃』する。

 それに対し、変身ヒロインはバトルにおいてテクニックを重視する。遠近の射程を使い分けたり、攻防の隙を突いたり、時には相対速度まで計算に入れて。

 つまりテクニカルなバトルになればなるほど、変身ヒロインのほうがイメージを味方につけやすく、有利になる。

 おそらく魔法少女たちもそれを理解していた。

「反撃でしてよ、陽菜! あれを使うしかありませんわ!」

「わかった、恵菜! ヒナに合わせて!」

 何とか斬撃の雨をやり過ごし、あえて重火器を捨てる。

 そして横に並び、それぞれが夜空に手をかざす。

「ラピスラズリの聖なる輝きが!」

「今、幸せを運びますわっ!」

 魔法少女ならではの『パワーを上げまくって攻撃』だ。

 技量も技術も関係ない。ふたり掛かりで、気合だけの勝負に持ち込もうとする。

「だったら……私も!」

 対抗して、上空のユニゾンジュエルも必殺技のモーションに入った。

 大の字になってライオットソードを携え、稲妻を呼び寄せる。

 青白い電流はライオットソードの刀身に巻きつき、絶え間なく火花を散らした。さらに柄からコードが伸び、二本の剣を接続。

「臨界点、突破!」

 その二本を頭上でクロスさせながら、聖装少女が眼下のふたりに狙いをつける。

「も、もっと離れよう! 易鳥ちゃん!」

「郁乃、依織、どこだ? お前たちも離れろ!」

 『僕』たちは屋上の端まで退き、激突の瞬間を見守った。

 マジカルラズリとマジカルラピスが45度の角度でエネルギー砲を放つ。

「ラッキーブレイカーーーッ!」

 同時にユニゾンジュエルも墜落せん勢いで切り込んだ。

「アカシックレイジ!」

 魔法少女たち渾身のエネルギー砲を、無数の閃光がかきむしる。

 ユニゾンジュエルの斬撃は百を、さらに二百を数えた。ラッキーブレイカーはみるみる削り取られ、ついには消滅する。

「とどめっ!」

 すかさずユニゾンジュエルがライオットソードを二本とも投げつけた。

 一本はマジカルラズリを、もう一本はマジカルラピスを刺し貫く。

「ま……まだですの!」

「ええっ! まだですわ!」

 と思いきや、ライオットソードは魔法少女のスカートを裂いただけだった。

 命中はしたものの、聖装少女の攻撃は魔法少女の股下をくぐっただけ。逆に魔法少女たちは拳銃を構え、丸腰のユニゾンジュエルを補足する。

「これが本命!」

「ですわ!」

 そのはずが、ユニゾンジュエルは余裕の笑みさえ浮かべていた。

「こっちも、ここからが本命なんだ。ごめんね」

 魔法少女に命中せず、ビルの屋上に突き刺さった剣が二本。

 その柄からコードが、あたかも弓の弦のごとく伸び、聖装少女を番えている。

「たああぁああああーーーッ!」

 そして矢が放たれた。

 ユニゾンジュエル自身が一本の矢と化し、突撃する。

 狙いをつけることに集中していたために、魔法少女たちは虚を突かれた。

「な……っ!」

 それは一秒にも満たない一瞬だったが、マジカルラズリもマジカルラピスも動けない。そこにユニゾンジュエルの怒涛の跳び蹴りが炸裂。

 ふたりの魔法少女はシールドを粉砕されながら、直撃を食らった。

 大爆発が生じ、夜空を震撼させる。

「な、なあ……お兄ちゃま? あれで本当に無事なのか?」

「多分? そうじゃないと、アニメのジャンルが……」

 やがて煙も晴れ、視界が明瞭になってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る