第370話
易鳥が腕組みを深める。
「すごく戦い慣れてるようだったな。あの姉妹は」
「易鳥ちゃん? まさか、もうひとりいることに気付いてたの?」
「いや……あの時の違和感は、相手がふたりいたせいだったのか、と」
同じく魔法少女の姉妹と一戦を交えた美玖は、肩を竦めた。
「してやられたわ。易鳥が剣の名前を略さなかったのが、やっぱり一番の敗因だけど」
「だ、だから! 大事なことなんだぞ?」
「ヤドカリが歯医者の……あれ? なんて名前だっけ?」
力宿りし覇者の剣オーディン、の略称については次の機会に相談するとして。
「あれから、僕はラブホに連れ込まれて……魔力を根こそぎ奪われて、変身も解除されちゃってさ。そこに陽菜ちゃんもいて、双子だって聞かされたんだ」
そこまで説明すると、里緒奈たちが黒い笑みを浮かべる。
「ふぅーん? またラブホで?」
「恵菜ちゃん……と、陽菜ちゃんも? ベッドの上で両手に花だったのね?」
「どこまで行ったんですか! 最後まで行ったんですか!」
「待って、待って! 3Pはしてないから!」
「3P『は』してないっ?」
今は人間の姿で、こちらのほうが背も高いのに、この威圧感には勝てない『僕』……。
その輪の外で、美香留が不思議そうに瞳を転がす。
「でもぉ、陽菜ちゃんはおにぃのファーストキスが目当てなんっしょ? それなのに妹を代理にしたの、なんで? おにぃのキス、取られちゃうじゃん」
そこを、美玖が淡白な物言いで分析。
「ひとりじゃ踏ん切りがつかなかったとか……あとは妹のほうが面白がって、陽菜を唆したんじゃないかしら。こんな兄さんを相手に、わざわざ」
「美玖? わざわざ僕を貶める意味ある?」
恋姫が真剣な表情で相槌を打つ。
「美玖の推測は当たってると思うわ。あの子だけなら、こんな思慮の浅い真似はしないでしょうし……大方、恵菜が興味本位で介入してきたのよ」
「なるほど。確かに……」
『僕』は顎に親指を添えつつ、ラブホテルでの出来事を思い出した。
レオタードの女の子がふたり……薄生地の一部をびしょびしょにして……。
里緒奈と易鳥がずいっと『僕』に詰め寄ってくる。
「Pクンっ! で? 本当のところはラブホでどうだったわけ?」
「ふたり掛かりで迫られて、どうした? や、やることはやったんじゃないのか?」
まさか『僕』の頭の中が見えてるのか……ッ?
『僕』は壁際まであとずさり、両手で『待った』を掛ける。
「何もしてない! すぐ逃げたから、ほんと!」
けれども意地悪な菜々留が追及を止めてくれない。
「変身を強制的に解除させられて、魔力もゼロということは……裸だったのよね? 素っ裸で、どうやって逃げてきたの?」
「逃げられないじゃない、そんなの! Pクン、やっぱり……!」
「だから逃げたんだよ! 丸裸でっ!」
あの時のことを思い出すだけで、肝が冷えますとも。
そんな『僕』に代わり、美玖がマネージャーの体でまとめに入る。
「兄さんの言い訳は聞く価値もないとして……陽菜たちは結局、体操部の部室でも、ラブホでも、目的は果たせなかったってことね? 変態」
「その二文字にも異論があるんだけど……」
現時点において、陽菜と恵菜はまだ目的を達していなかった。
体操部の更衣室では易鳥の介入によって、ラブホテルでは『僕』に逃げられたことで失敗している。
しかも今回の行動で、魔法少女であることも、双子という事実も発覚してしまった。
美香留がまたも首を傾げる。
「陽菜ちゃんたちのほうはさぁ、もう勝負に出ちゃったわけじゃん? また仕掛けてくるんじゃないのぉ?」
「メイドのお仕事には来ないにしても、毎日学校で会うものねえ」
「そうか! 思い出したぞ」
と、急に易鳥が大きな声をあげた。
「あのメイド、どこかで見たことがあると思ったら……ケイウォルス学院だ」
「恵菜のほうはケイウォルスに通ってるのね」
姉の陽菜はSHINYと同じS女で、妹の恵菜はKNIGHTSと同じケイウォルス。易鳥は学校で恵菜を見掛けたことがあって、陽菜に既視感を覚えたのだろう。
「次も実力行使で来られたら……」
「ナナルは多分、そう来ると思うわ。もう隠す必要がないんだもの」
それぞれが不安を募らせる中、可愛くない妹が嘆息する。
「まあ兄さんがどうなろうと、ミクは別に……」
「お前、自分の兄の一大事だぞ? そんなことでいいのか?」
「ほんと、ほんと! 美玖ちゃんはいつも、おにぃを何だと思って――」
易鳥や美香留が『僕』のために声を荒らげた、その時だった。
リビングのテレビがひとりでに点き、鮮明な映像を浮かびあがらせる。
『お兄さん先輩』
その中にいるのは陽菜だった。ラブホテルで別れた時と同じ、ピンク色のレオタードで華奢なスタイルを引き締めている。
妹の恵菜も一緒で、こちらは青色のレオタードだ。
『逃げようったって、そうはいきませんわ。おとなしく投降してくださらない?』
里緒奈たちが目を見張る。
「うわあ……ほんとに双子だったのね。陽菜ちゃん」
「そっくりだわ。これなら入れ替わってても、誰も気づかないかも……」
『あとにしてくださいですの』
しかし陽菜のその一言が、『僕』たちの間に緊張感を走らせた。
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