第369話
そんなパロディのどさくさに紛れながら、辛くも『僕』は生還を果たす。
現行犯で逮捕されなかったのは、不幸中の幸いだった。
SHINY寮の自室にて『僕』は普段着に着替え、ほっと一息。
「はあ……死ぬかと思った。社会的に」
「Pクン! 大丈夫っ?」
物音で『僕』の帰還を察したらしいメンバーが、次々と部屋へ飛び込んでくる。
「ナナルたち、心配してたのよ? Pくんがさらわれたっていうから」
さっきまで素っ裸で街中を爆走していました、とは言えなかった。シリアスなムードが後ろめたくて、『僕』は声を上擦らせる。
「ほ……本当にごめん。美玖と易鳥ちゃんは?」
「部屋で休ませてます。易鳥もひとまずレンキのお部屋で」
天音騎士の易鳥ならマギシュヴェルトでモンスター退治の経験もあるとはいえ、今回のエンカウントは彼女の想像を超えていただろう。
何しろ相手は魔法少女だ。
魔・法・少・女。
漫画やアニメではお馴染みのキャラクターだが、それが現実に存在し、しかも『僕』たちに攻撃を仕掛けてきたのだから。
幸いにしてマジカルラピスの攻撃は殺傷能力が皆無のおかげで、美玖も易鳥も大事には至っていなかった。ただ、魔力のほうは枯渇している。
『僕』も魔力が回復するまで、妖精さんには変身できそうにない。
「多分、陽菜ちゃんも変身を……」
「そ、そうです! 陽菜のあの恰好は何だったんですか?」
恋姫に続いて、里緒奈と菜々留も『僕』に質問攻めの体勢となった。
「リオナたちも下から見てたけど……あれって魔法なの? 銃とか撃ってなかった?」
「撃たれたりしたってこと? 美玖ちゃんと易鳥ちゃんは本当に大丈夫なの?」
『僕』とて何から話すべきかわからない。
「ちょっと待って。色んなことがあったから、僕も整理したいんだ。みんなもそれ、部活の途中だったんでしょ? 先に着替えておいでよ」
「う、うん」
里緒奈たちはスクール水着にセーラー服のトップだけという素晴らしい恰好だが、今はそれどころではなかった。誠に遺憾である。
「……あら? 美香留ちゃんはまだ?」
「すぐこっちに来るってー。学校のほうも騒ぎになってるみたいよ? Pクン」
体育館の上で白昼堂々と繰り広げられたのは、銃撃戦。
咄嗟に認識阻害で広範囲をカバーしたものの、限界はある。体育館でクラブ活動の最中だった生徒たちも、一時的に避難したのだとか。
(あっちはお構いなしだったからなあ……)
改めて『僕』たちはリビングに集合する。
美香留もチア部の活動を途中で切りあげてきた。
「おにぃ! さっきのあれ、何なの? 易鳥ちゃんも来てたっしょ?」
「上で寝てるよ。ちょっと起こしてくる」
これからの話は、易鳥や美玖にも当事者として聞く権利がある。
「陽菜ちゃんがいないから、お茶はナナルたちで淹れないといけないのね」
「もうSHINYの一員って感じだったのに……恋姫ちゃんもそう思わない?」
「ええ……まだ一週間足らずだけど、いい子だもの」
まだ里緒奈たちは、騒動の主犯が陽菜という事実に少なからず戸惑っていた。真相は知りたい、でも陽菜との関係は失いたくない――と。
菜々留がコーヒーを淹れるのも、気持ちを落ち着かせたいからかもしれない。
間もなく易鳥と美玖が合流する。
「すまない。遅れたか?」
「易鳥ちゃん! 大丈夫? 怪我はない?」
「心配いらないわよ。魔力が空っぽになっただけだから」
皆でコーヒーを呷ってから、『僕』は今回の騒動の経緯を打ち明けた。
「それじゃあ……えぇと、どこから話そうかな……」
里緒奈も、美香留も、神妙な面持ちで『僕』の話に耳を傾ける。
「……え? 陽菜ちゃんが双子ぉ?」
「陽菜ちゃんと入れ替わってたって、ほんとーなの? おにぃ」
まずは、陽菜には双子の妹・恵菜がいたこと。
妹の恵菜が姉の陽菜になりすまし、『僕』を監禁したこと。
そこへ易鳥が駆けつけ、衝突したこと。
「その……みんな、僕と一線を越えるとか……そんな話してたんでしょ? 陽菜ちゃんはそれを真に受けて、僕を……」
「行く先々で女の子を引っ掛けるから、こうなるんです。猛省してください」
「エ? これって僕のせいなの?」
『僕』との関係において、里緒奈たちに大きく後れを取っている陽菜は、自分も負けじとアプローチを掛けてきた。
(それってつまり……陽菜ちゃんは僕のこと……?)
ところが、実際に迫ってきたのは双子の妹・恵菜のほうで。
恵菜は『僕』を体操部の更衣室に拉致するも、易鳥の介入によって失敗。そこから実力行使に切り替え、易鳥と美玖を翻弄した。
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