第358話

(なあっああああ~っ?)

 驚きすぎて、声が声にならなかった。

 それもそのはず。里緒奈も、菜々留も、恋姫も、可憐なメイドの装いはそのままに。

 中央のメイドドレスを紺色のスクール水着(授業用)に差し替え、かのアルティメット・フォームに大変身を遂げていたのだから。

 スク水メイド。

 スクール水着のメイドさんだ。

 ヘッドドレスやチョーカー、ニーソックスは健在で、スクール水着の身体つきを純白のフリルで華やかに飾り立てている。

(結婚したい……)

 そんな願望が、危うく口をついて出るところだった。

「――ちちっ、ちょっと待って!」

 股間に強い圧迫感を覚え、大慌てで『僕』は湯舟へ逃げ込む。

 かくして形勢は逆転。キュートと美香留は脱衣場から不思議そうに見守っていた。

「お兄ちゃん? なんでそんなに反応違うのぉ?」

「お風呂の中でもメイドさんがいいんだ?」

 恋姫が顔を赤らめ、我が身をかき抱きながらも、照れ隠しに『僕』を罵る。

「ほんっとーに変態ですよね、お兄さん! スクール水着を見て、目の色変えるの、これで何十回目ですか?」

「いえ、その……むしろ三桁……?」

 菜々留は前のめりになり、ボリュームたっぷりの巨乳を弾ませた。柔らかく微笑んで、まるで優しいお姉さんのように『僕』に言い聞かせる。

「みんなで一緒にって言ったの、お兄たまよ? 仲良く洗いっこしましょうね?」

「あぅ、うぁあ……」

 そして真中の里緒奈は、勝気な笑みとともに両手でハートを作り。

 素っ裸の『僕』に目掛けて、破壊力抜群のおまじないを放つ。

「ほぉら、お兄様? 萌え・萌え・キューン!」

「――ッ!」

 その一撃がまさに『僕』のハートを貫いた。

 魅惑のスク水メイドたちに『僕』は今、心を奪われている。

 ギラギラと目が血走っているのがわかる。

 込みあげる性的興奮で胸の鼓動が跳ねあがり、頭にも血が昇ってきて眩暈さえした。

(やばい……やばいやばいやばい!)

 にもかかわらず、里緒奈たちは蠱惑的なスタイルで無防備に歩み寄ってくる。

 スクール水着、スクール水着、アイドル、スクール水着、メイド、スクール水着、アイドル、スクール水着、メイド、スクール水着、スクール水着――。

 もはや呼吸さえままならず、『僕』はリミットブレイクを直感する。

「ももっもう! もうだめぇえ~~~ッ!」

 理性の鎖が千切れる寸前だった。

 『僕』は最後の力を振り絞り、変身。

 ぬいぐるみの妖精さんとなって、スク水メイドの豊かな胸へ飛び込む。

「最高っ! 最高だよ、里緒奈ちゃん! 菜々留ちゃん! 恋姫ちゃんも!」

「え? えっと……お兄様?」

「そっちがその気なら、いっぱいお世話してもらっちゃうぞ~」

 ムラムラに身を委ねて、彼女たちを押し倒すくらいなら。

 アホなぬいぐるみになって、大好きなスクール水着を満喫してしまえばよい。

「いつものお兄たまに戻っちゃったわねえ……」

「はあ……いいですよ、もう。今夜はこっちのお兄さんで」

「リオナも同感。一時休戦ね」

 スク水メイドたちの溜息が重なる。

 かくしてメイド戦線は和やかに幕を降ろした。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る