第353話

「SHINYも百合推しで行きたいってことでしょ? 実は僕と綾乃ちゃんで、前々からメンバー同士のカップリングを考えててさあ」

 綾乃の名前を使ってしまったものの、これで説得力はさらに増した。ノンケの男子にとってBLがそうであるように、百合っ気のない女子にとってはキツい話題のはず。

(ほんとは刹那さんが考えたんだけどね)

 予想の通り、菜々留や恋姫も口角を引き攣らせた。

「ナナルはその……そういうふうに扱われるのは、ねえ?」

「さ、参考までに教えてください? 誰と誰のカップリングがメインなんですか?」

「うん。それは……」

 『僕』はノートパソコンで、有栖川刹那プロデュースの百合企画を開く。


      里緒奈×美玖

      恋姫×美玖

      菜々留×美玖

      美香留×美玖

      キュート×美玖


 マネージャーの妹は総受けでした。

 SHINYのメンバーがそれぞれ妄想に耽る。

「えっ? リオナが美玖ちゃんと……その、やっちゃうわけ?」

「意外だわ。ナナル、受け担当は恋姫ちゃんだと思ってたから……」

「勝手に受け専にしないでちょうだい。でも、そうね……」

「ちょ、ちょっと? 美玖ちゃんと……って、ミカルちゃん、ドン引きなんだけど?」 

 これで話を逸らせた……と、ほっとしたのも束の間。

「ふもっ?」

 『僕』の顔面にクッションが命中した。総受け扱いに怒ったらしい妹の一撃だ。  

 と思いきや、リビングに現れたのはキュートのほうで。

「ごめんねー? お兄ちゃん。きゅーと、手が滑っちゃったあ」

 コミカルにおどけながら、メイドの恰好で『僕』の傍まで駆け寄ってくる。

「きゅーとは今夜からオーケーだもん。お兄ちゃん、一緒に寝ようね」

(ぎゃああああっ!)

 最強の刺客が出てきてしまい、心の中で『僕』は絶叫した。

 すかさず里緒奈たちが割って入る。

「ちょっと、ちょっと! 抜け駆け禁止っ!」

「あなたが言えること? 里緒奈。もとはと言えば、あなたがお兄さんを……」

「待って? 恋姫ちゃん。仲間割れしてる場合じゃないでしょう?」

「え? えっ? なんでキュートもメイドさんなのぉ?」

 美香留を緩衝材として三対一、SHINYのアイドル同士で一触即発。

 ちゃっかりキュートもメイド服を着ていることも、里緒奈たちを動揺させた。美香留と同じメロン大のボリュームが、今にもデコルテから零れそうになる。

 『僕』とて内心、動揺を禁じえなかった。

(こんな娘……じゃない、こんな妹がいたら僕はもう……っ!)

 何しろこの妹は可愛い。可愛すぎる。

 普段のデレないツンドラ妹(美玖)を知っているだけに、キュートには強烈に惹かれるものがあるのだ。

 実妹でなければ、とっくの昔に手を出していたかもしれない。

 ただ、実妹だからこそブレーキが働くとともに、こうも惹かれている気はする。

 キュートはアイマスク越しに微笑むと、ライバルたちに提案した。

「きゅーとね、そろそろみんなもステップアップする時期だと思うの。だからぁ、お風呂デートと合わせて……七月から添い寝デート! どお?」

 美香留が元気いっぱいに万歳。

「はいっ、はい! ミカルちゃんは賛成~!」

 当然、『僕』はしどろもどろになりながらも口を挟む。

「ま、待ってよ? キュート! 添い寝って……僕の部屋で、同衾ってこと?」

「どおき? うん、ドキドキさせたげるっ」

 国語の成績もいいはずなんだけどなあ、この妹は。

 一方で、里緒奈たち三人は輪になり、険しい表情を向かい合わせていた。

「添い寝デート……確かに魅力的な話ね。でも時期尚早じゃない?」

「ええ。全員がお兄たまの攻略を終えてからのほうが……」

「えっと、じゃあ……お兄さんにとっては日によって、お風呂とベッドで相手が変わるってこと? それってどうなのかしら」

 下手に刺激してもカウンターが怖いので、こちらで話を進める。

「も、もちろん美香留ちゃん、あれだよね? 一緒に寝るといっても、ぬいぐるみを抱っこする感じで……ほら?」

 美香留は朗らかな笑みで頷いた。

「それでいいんじゃない? 桃香さんともそうだったんっしょ?」

「あーうん。あの頃はベッドがひとつしかっんばぶぅ!」

 『僕』の背中に裏拳をめり込ませたのは、だ、誰かなあ……?

「待ってて! レンキ、今から桃香さんにどこまで行ったか、確認してくるわ!」

「ぬっぬいぐるみ! ぬいぐるみの話だってば!」

 そもそも桃香は『僕』が人間の男性だと知らないため、エロゲーのような選択肢が出るはずもなかった。まあ、その……柔らかかったけどね。

(夏の間は自宅のほうで寝るか? でも、そっちは美玖がいるから……)

 キュートも交えて、メイドたちはお風呂だ添い寝だと揉める。

 やがて夕飯の頃合いとなり、本物のメイドが報せに来た。

「みなさん、お夕飯の支度ができましたの」

「あぁ、ごめん。ワチャワチャしてて、何も手伝えなくって」

 『僕』たちは不毛な舌戦を切りあげ、席につく。

「今夜はみなさんのご要望がありまして、オムライスにしましたの」

 人数分のオムライスが食卓を彩っていた。ただ、まだケチャップが掛かっていない。

 意気揚々とリオナがケチャップを逆さまに構えた。

「メイドさんといったら、コレでしょ? オムライスにお絵描き~っ!」

「おお~っ!」

 今度こそ健全な歓声があがり、ほっとする。

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