第343話

「KNIGHTSは易鳥ちゃんがアレだから。依織ちゃんがフォローしてあげてネ」

「アレ……うん。易鳥はアレだもんね」

「SHINYのプロデューサーもアレだと思いませんか? P君」

「いくらPくんでも、喫茶店でスクール水着は着せないはずよ。ねえ?」

 場慣れしている恋姫や菜々留は、さすがに落ち着き払っていた。

(スク水喫茶なんてのも……いやいやっ)

 一方で、美香留とキュートは念入りに台本をチェック。だからおとなしかったのか。

「ミカルちゃん、アドリブとかわかんないんだけど?」

「いつも美香留ちゃんがやってることだよ。そんなに意識しないで」

 キュートが仮面越しに『僕』を見上げる。

「お兄ちゃん、これ、三十分の枠で収まるの?」

 やはり中身はマネージャーの美玖だけあって鋭かった。

 なのに入れ替わりはテキトーなんだよなあ……。

「そのあたりは編集で上手くまとめるよ。キュートも今日は頑張って」

「もっちろん! お兄ちゃんのために頑張るもんっ」

「おにぃ、ミカルちゃんも! ミカルちゃんも頑張るから!」

 もう美玖にはずっとキュートでいて欲しいくらいだ。可愛いし、素直だし、ゴミを見るような目で『僕』を見ないしネ……。

「それじゃあ着替えよう。依織ちゃんはコレね」

「任務了解」

「郁乃ちゃんも『御意』とか言ってるの、KNIGHTSの方針なわけ?」

 『僕』も店の男子更衣室で変身を解き、衣装に着替える。

 一足先にホールへ戻ると、綾乃が首を傾げた。

「あの……シャイP? シャイPは調理の担当でしたよね?」

「うん。そうだけど?」

「でもそれ、コックコートというより執事服では……」

「あ」

 指摘を受け、『僕』もはっとする。

 喫茶店で男性が着る服――この発想に囚われてしまっていた。

 カメラのないところで料理するだけなのだから、エプロン一枚でもよかったのだ。にもかかわらず、わざわざ執事服なんぞを用意して。

「いやまあ、僕の実家も喫茶店だしさ」

「そうだったんですか? けど……その執事服、どこかで見覚えがあるような……」

「綾乃ちゃんなら知ってるかもね。昔、RED・EYEが企画で着てたやつ」

「あぁ、あの時の! 違和感がなさすぎて、気付きませんでした」

 『僕』と同じ執事のスタイルで、依織も戻ってくる。

「お待たせ」

「おっ! よく似合ってるよ。サイズはどう?」

「裾丈はまあ……でも胸は少し苦しい」

 予想の通り、依織には男装のスタイルがマッチしていた。

 ショートカットゆえに中性的な印象が強いからだろう。立ち居振る舞いも整然として、さながら王宮務めのロイヤリティを醸し出す。

(実際にお城で働いてる天音騎士、だもんなあ……)

 そんな依織が真正面から『僕』をまじまじと見詰めた。

「うん、あにくんもいいね。イオリだけになっちゃったけど、今日は役得」

「僕も執事の依織ちゃんが見られて、嬉しいよ」

「郁乃と易鳥に自慢したいから、写真」

 『僕』たちは兄妹(兄弟)よろしくツーショットを決め、綾乃に撮ってもらう。

「公開はNGよ? 依織」

「わかってるよ。身内に見せるだけ」

 いつものSNSへ投稿すると、一分としないうちにコメントが返ってきた。

郁乃「許せません! 依織ちゃんだけにぃにぃと!」

易鳥「どこのホテルだ? あれだ、しししんじゅうの虫め!」

依織「勉強してるんじゃなかったの?」

 国語の勉強中なのかなあ(正解:獅子身中の虫)。

「あにくん、お客さんの役はどうするの?」

「おっと、KNIGHTSには企画書が行ってなかったっけ。アイドル同士でイチャイチャしようって主旨の企画でさ」

「KNIGHTSをお客さんにしてもよかったのだけど。……あの子たち、一昨日に続いて昨日も小テストで散々だったそうね?」

「イオリは余裕だったよ。ぶい」

 依織のVサインにカメラがピントを合わせた。

「いつでも行けますー」

「はーい。あとは里緒奈ちゃんたちだけど……手間取ってるのかな」

「私が見てきます」

 綾乃が迎えに行ってから、待つこと数分。

 時間ぎりぎりになって、ようやくメンバーが出揃う。

「おおお~っ」

 スタッフ一同が感嘆の声をあけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る