第339話

 SHINYは当然、KNIGHTSの活動も順調だ。

 先日のライブで世間の話題をかっさらうことができたのは大きい。これまでKNIGHTSを知らなかった層も興味を持ち始め、早くも売り上げに結果が表れている。

「『ナイツオブラウンド』のDL数、まだまだ伸びてますよ!」

「SHINYとのレース企画もウケましたからねー」

 先日までKNIGHTSをお荷物扱いしていた面々も、この意気だった。

 となれば、次の企画が求められるわけで。

 『僕』は綾乃とともにスケジュールの調整に難儀していた。

「秋のホビーショーとゲームショーは間に合いそうだけど……う~ん」

「SHINYはともかく、KNIGHTSはスケジュールが白紙同然でしたからね」

 どのような企画にせよ、普通は何ヵ月も前から決まっているものだ。

 ライブなら会場を押さえ、衣装を手配し、チケットを販売する。

 その全部をクリアして、やっと当日のライブが成立する。

 ところがKNIGHTSはプロデューサーもマネージャーも不在だったために、まともなスケジューリングが成されていなかった。

 この夏のカレンダーも白紙。

 今から夏の予定を組もうにも、会場はどこも埋まっているし、衣装は天音騎士団の正装以外にないし、チケットの流通もままならない。

 しかしマーベラス芸能プロダクションは八月末のアイドルフェスティバルにKNIGHTSを間に合わせたい、と考えていた。

『シャイP、君の力で何とかできんかね?』

 またファンもKNIGHTSの動向に注目している。

 これで『今年の夏は何もできませんでした』で終わってしまっては、立つ瀬がない。年末には再び解散の話が浮上するだろう。

 そこで、『僕』はSHINYの仕事の一部をKNIGHTSへ。

 共有できるものは共有し、SHINYのほうも含めてスケジュールを組みなおす。

 また、今回は大きなフォローもあった。

 綾乃が畏れ多くもといった面持ちで、その企画を確認する。

「まさかSPIRALからお仕事をまわしていただけるなんて……シャイP、一体どんな手品を使ったんですか?」

「そんなに気難しいひとじゃないよ。刹那さんは」

 SPIRALの有栖川刹那が『仕事が多すぎるから』といって、SHINYとKNIGHTSに便宜を図ってくれたのだ。

 『僕』と同じく普通の人間ではないため、彼女はアイドル活動に執着がないらしい。そもそも有栖川刹那の目的は『アイドルの女の子と仲良くなること』なのだから。

(強欲の化身だよなあ、あのひと)

 おかげでKNIGHTSの夏も目処が立つ。

「今日もこれからSHINYのみんなと買い物に付き合ってくれるっていうし、どっかでお礼しなくちゃなあ」

「あの有栖川刹那さんと友達感覚だなんて……」

 やがて刹那との約束の時間が近づいてきた。

 適当なところで『僕』は仕事を切りあげ、綾乃にも帰宅を指示する。

「綾乃ちゃんも無理しないようにネ。夏はまだまだこれからなんだからさ」

「ありがとうございます。それでは」

 下のフロアでも、里緒奈たちが本日のレッスンを終えていた。

 妹もボーカルレッスンに出ていたため、今はキュートだ。

「あっ、お兄ちゃん! 今からでしょ?」

「みんなは刹那さんと先に行ってて。僕は桃香ちゃんと陽菜ちゃん、連れてくるから」

「わかったわ。でも、やっぱりKNIGHTSは来られないのね?」

 巽Pが自嘲を浮かべた。

「やれやれ……水着たぁ結構なことじゃねえか。そこのプロデューサーにスクール水着ばっか着せられてるから、鬱憤も溜まってんだろ? なあ、おい」

「もっと言ってやって、巽さん!」

「まだスクール水着のよさがわからないの? なんで?」

 プロデューサーとアイドルの溝はまだまだ深い。

 一足先に『僕』はマーベラスプロのビルを出て、シャイニー号でS女へ。

 陽菜と桃香を乗せたら、有栖川刹那の行きつけという店へ急ぐ。

「このお店ならモモカも知ってます。観音玲美子さんもご贔屓にされてるそうで」

「へえ~。そういや、マーベラスプロから近いもんね」

 マーベラス芸能プロダクションの女性陣にとっては有名な店らしかった。男子の『僕』が知らないのも無理はない……が、プロデューサーとして情けない気もする。

 とりあえず認識阻害を調整し、『僕』は人間の男性としてお店の中へ。

「いらっしゃ……」

 女性店員は『僕』を見つけるや、挨拶の言葉を途切れさせた。

「いらっしゃいませ~!」

 何事もなかったように言い直し、陽菜たちを歓迎する。

(さっきの間、なんか変だったぞ……?)

 男性がレディースの店に入ってきたから、反射的に構えてしまったのだろうか。

 菜々留が声を弾ませる。

「Pくん! すごいのよ、このお店! Pくんも早く!」

「え? 僕はその……」

 すでにアイドルたちは水着売り場で和気藹々と盛りあがっていた。SPIRALの有栖川刹那を中心に、水着の色を見比べたり、デザインについて相談したり。

 店員のお姉さんが営業スマイルを綻ばせる。

「お店のほう、この時間はお客さんもほとんどいらっしゃいませんので。気になる水着がありましたら、試着もご自由にどうぞ」

「ありがとうございまーす!」

 試験勉強の憂さを晴らすように里緒奈が笑った。その手にもビキニが一着。

「お兄ちゃん? 水着選ぶの、手伝ってよぉー」

「おにぃ、こっちも! ミカルちゃんが先だかんね?」

 キュートや美香留もスナイパーの視線で『僕』を補足している。

(これは入っていけないぞ……?)

 いくら日頃から女子校に出入りしているとはいえ、女子会の雰囲気には気後れするほかなかった。しかも本日の目的は『水着』なのだから。

 下着売り場とそう変わらない光景が、『僕』を尻込みさせる。

 それに加え、SPIRALのヤンキートリオが『僕』にガンを飛ばしていた。この女子会に『僕』が混ざろうものなら、腹パンされるに違いない。

(あの三人にも認識阻害が通じないんだよなあ……)

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