第335話 妹ドルぱらだいす! #6

 じきに六月も終わり、七月へ差し掛かりつつある今日この頃。

 寮の中庭で、ぬいぐるみの『僕』は美香留と一緒にハシャいでいた。

「おにぃ、おにぃ! 水鉄砲で遊ぼっ!」

「よーし! 頑張っちゃうぞー」

 美香留(のスクール水着)に目掛けて、水鉄砲を放つ。

 対する美香留も中央のフットプールで水を補充しつつ、弾丸を返してきた。

 ちなみにフットプールというのは、空気で膨らませるゴム製のプールのこと。せいぜい幼児が2、3人で使用する程度のものとはいえ、ちょっとした水遊びにはもってこい。

 ぬいぐるみの『僕』ならサイズ的にも問題はないわけで。

「くらえっ、おにぃ!」

「はわぶぅ?」

 妹分のスクール水着に見惚れていた隙を突かれ、顔面に直撃を受ける。

 隣のマンションから桃香もやってきた。

「うふふっ、お待たせしました。プロデューサーさん、美香留ちゃんも」

 パーカーを脱ぎ、グラビアアイドルならではの艶めかしいビキニをお披露目する。

 『僕』も美香留も魅惑のスタイルに釘付けに。

「お~っ! さっすが桃香さん!」

「友達と買いに行ったってやつ? 似合ってるよ、うんうん」

 誰でも『脱げば稼げる』わけでない。

 むしろ安易に脱ぐことは、自身の価値を損なうことにも直結する。

 しかし桃香のそれは誰よりも抜きん出ていた。

 もったいぶるような脱ぎ方と、恥じらいの表情、そしてダイナマイト級のプロポーション。すべてがMOMOKAというグラビアアイドルの魅力を最大限に引き出す。

 美香留が彼女に憧れるのも当然だ。

「桃香ちゃんも日焼けの心配はいらないからネ。気持ちいいぞ~、それそれっ!」

「きゃあっ? んもう、プロデューサーさんったら。お返しです!」

「ミカルちゃんも! おにぃ、待て待て~!」

 夏の青空の下、フットプールの水面がきらきらと陽光を弾く。

 遊んでいると、メイドの陽菜がドリンクを運んできた。

「飲み物をお持ちしましたの。休憩になさってはどうですか? みなさま」

「ありがとう、陽菜ちゃん」

「メロンソーダ? ミカルちゃん、それ好きっ!」

「すみません。モモカの分まで……」

 まだまだ夏は始まったばかり。

 ぬいぐるみの『僕』は期待に胸を膨らませる。


 その一方で――ほかのメンバーはリビングから出ようとせず、窓ガラス越しに中庭の水遊びを眺めていた。

 里緒奈が悔しそうに歯軋りする。

「いつもならPクンにライジング・スペシャルを決めてるとこなのに……なんか今日のは健全すぎて、割り込める雰囲気じゃないんだけど? なんでっ?」

 恋姫も同様で、

「P君はぬいぐるみだし、美香留も桃香さんもピュアだから、あるはずの疚しさが感じられないのよ。喩えるなら、近所のお姉さんが小学生やペットと遊んでるような……」

 菜々留はロングヘアをかきあげると、アンニュイに嘆息した。

「つまりナナルたちはピュアじゃないのね……」

 その後方で、マネージャーの美玖が馬鹿馬鹿しそうに目を細くする。

「素直に混ざったらいいじゃないの」

 その物言いを受け、里緒奈たちは一斉に嘆いた。

「だって! 今年はまだ水着、買ってないんだもん!」

「それよ! いつでも買えると思ってたら、もう六月も終わりで」

「完全に出遅れちゃったわ……ナナルまで」

 美玖はやれやれと肩を竦める。

「庭で遊ぶだけでしょ? 去年の水着か、スクール水着で充分じゃないの」

「スクール水着じゃ、Pクンがその気になっちゃうから……」

「ピュアな美香留ちゃんは平気でしょうけど。ねえ?」

 またもプロデューサーの話になったところで、恋姫が異を唱えた。

「そうじゃなくって! レンキたちはアイドルなのよ? アイドル。なのにスクール水着や流行遅れの水着を着てちゃだめでしょう?」

 菜々留も浮かない表情で口を揃える。

「去年の水着でも、Pくんは『可愛い』とか『似合ってる』って言ってくれるわよ? でも易鳥ちゃんや桃香ちゃんもいるのに、インパクトに欠けるのはナナルも……」

「そうそう。だから美玖ちゃん? リオナたちはね、アイドルとして、とびっきり可愛い水着で遊ばなくっちゃいけないわけ」

 里緒奈も加わり、マネージャーと三対一に。

「だったら、明日にでも買いに行けばいいじゃないの」

 美玖は面倒くさそうにかぶりを振ると、テレパシーで兄を呼んだ。


(兄さん。死ね)

(い、いきなり何なのさ? 美玖!)

 妹に死刑を宣告されて、『僕』は寮の中へ。

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