第327話
SHINYきってのお嬢様、菜々留が微笑む。
「易鳥ちゃんとは一度、ゆっくりとお話してみたいわ。郁乃ちゃんと依織ちゃんも、お茶会なんてどうかしら?」
「その時はレンキもご一緒させてもらうわ」
美香留と郁乃が仲良くゲームで遊んでいるくらいだ。SHINYとKNIGHTSは今さら畏まるまでもなく、良好な関係を築きつつある。
しかし易鳥は身の置き場のない様子で、ただ視線を泳がせるばかり。
「ま、まあ、ティーパーティーは賛成なんだが……」
埒が明かないので、『僕』のほうから切り出すことに。
「一昨日のことなら気にしなくていいってば」
「いっいや!」
そこから先は自分で話さんと、天音騎士様が前のめりになった。
「ライブの時の天音魔法な? 実はあれ、イスカの制御を離れ、暴走してたんだ」
「うん。知ってる」
「お前たちが止めてくれなければ、会場の外まで大混乱になってたところだ」
「だろーね」
と、『僕』は平然と答えていく。
すると幼馴染みは両手で頭を抱え込んだ。
「これだから、ぬいぐるみを相手にするのは嫌なんだ……!」
「変身しててもしてなくても、僕は僕だよ? 理解してくれないかなあ」
「Pくん? 説得力がまったくないことに気付いて?」
しかし易鳥の反応はどうあれ、『僕』の変身は修行によるもの。彼女にもぬいぐるみのプロデューサーに慣れてもらうしかない。
意固地な易鳥がやっとのことで吐露を始める。
「あの時は頭に血が昇ってたんだ。何が何でもお前を見返してやりたくて……」
「うん。知ってる」
「KNIGHTSが新曲絡みでSHINYに突っかかったのも、易鳥ちゃんのライバル意識が理由でしたからねー。ハイ」
「だろーね」
「あにくん? もう少しバリエーションを意識しようか」
天音騎士団・団長の娘だけに、幼馴染みの易鳥は昔からプライドが人一倍高かった。
アイドルグループを率いる者として、『僕』のSHINYにことさら対抗意識を燃やしてしまったのも、想像に難くない。
ただ、一昨日のライブがあのような危機に陥ったのは、おそらくライバル意識とは別の感情が働いたせいであって。
「僕のほうこそごめん。余計なこと言って、易鳥ちゃんを怒らせちゃったんでしょ?」
『僕』はテーブルの上で正座し、幼馴染みに頭を下げる。
「でもその……易鳥ちゃんもさ、黙って怒るのは止めて欲しいっていうか……うん。理由があるなら、はっきり言って欲しいんだ」
真正面からそう要求すると、傍らの依織や郁乃が相槌を打ってくれた。
「あにくんはニブいんだよ、易鳥。易鳥のほうから譲歩するくらいじゃないと」
「依織ちゃんの言う通りデス。魔法学校でにぃにぃと喧嘩した時も、あれだけイクノちゃんたちを振りまわしたくせに、しょうもない誤解が原因で……」
「うっ」
ぐうの音も出ない、KNIGHTSのセンター様。
同じように妹が『僕』を詰る。
「ミクにも憶えがあるわ。易鳥を怒らせたって、兄さんが放心しちゃって」
「あ、あることないこと言わないでくれるかな? 美玖」
「実際に『あったこと』じゃないの」
これだから、この妹は……。
易鳥は居住まいを正すと、ぬいぐるみの『僕』を見据えた。
「わかった。なら正直に言わせてもらうが……イスカが気に入らないのは、お前がイスカよりも、あの研修生ばかり優先するからだ」
対し、『僕』はきょとんとする。
「研修生って……綾乃ちゃんのこと?」
「ほら! すぐそうやって、女の子を『ちゃん』付けで呼ぶ!」
周りの全員が『うんうん』と頷いた。
「それで……そうだ、イスカをお荷物扱いした挙句、あてつけのように綾乃をKNIGHTSのプロデューサーに据えるなど……腹が立つに決まってるじゃないか」
勢い任せにまくし立て、易鳥は息を切らせる。
一方で『僕』はまたも唖然とした。
「え……本当にそれが理由で、怒ってたの?」
「そうだ。こんなことにも気付かなかったのか? お前は」
「いや、逆でさ? それはわかってたんだけど、もっと別のことで怒ってるものと」
ゲームをプレイしながら、美香留が首だけで振り向く。
「おにぃにとっては『そのくらいのこと』でも、易鳥ちゃんにとっては大事なことだったんじゃないのぉ? ほら、ミカルちゃんは『ピーマンが嫌い』って何回も言ってるのに、おにぃ、全然わかってくれないっしょ?」
「ピーマンは好きになって欲しいけど……言いたいことはわかる、かな」
今になって『僕』は反省した。
ひとによって価値観が異なるなど、当たり前のことだ。
にもかかわらず、『僕』は易鳥のそれを尊重できずにいた。
研修生の綾乃よりも後まわしにされる――ただ、それだけのこと。
しかし『僕』にとっては些細なことでも、易鳥にとっては無性に腹が立つことで。
ばつが悪そうに易鳥が付け加える。
「だ、大体だな……十年来の幼馴染みに、その、彼女をあてつけるなど……」
「へ? 彼女って、誰が誰の?」
「だっだから、綾乃がお前のだ! 候補には数えて、むぐぅ?」
その口を慌てて依織が塞いだ。アームロックで。
「易鳥、そこまで」
「うっ? うぅあむ?」
何のことやらと首を傾げつつ、『僕』は正直に明かす。
「綾乃ちゃんには彼氏いるよ? 相手は芸能人だから、誰……とまでは言えないけど」
里緒奈、恋姫、菜々留の三人が一斉に起立した。
「ええええ~っ!」
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