第325話

 KNIGHTSのヒット曲『ナイツオブラウンド』を横取りするかのように。ステレオ仕様のスピーカーの半分から、SHINYの歌声が反響する。

 菜々留の声にも今日は格段に張りがあった。

 音源を持たない里緒奈も、お腹からの声をコンサート会場いっぱいに響かせる。

(レッスンの成果でみんな、ここまで……!)

 SHINYのプロデューサーとして『僕』は震えずにいられなかった。

 里緒奈も、恋姫も、菜々留も、驚くほど成長している。もう『僕』の魔法だけを頼りに活動していた、あの頃の彼女たちではない。

 KNIGHTSの天音魔法に翻弄されていたファンの一部が、正気の色を取り戻す。

「……あ、あれ? なんでSHINYがいるんだ……?」

「そうだ、SHINYだ……SHINYがいるぞ!」

 少ないとはいえ、『僕』たちの心強い味方だ。

 KNIGHTSのファンも一割程度は目覚め、声援をあげる。

「いやKNIGHTSだろ? 今日はKNIGHTSのライブなんだぜ!」

「易鳥ちゃーん! もっと聴かせてくれー!」

 KNIGHTSの易鳥がステージの一番前へ躍り出た。

「もちろんだ! イスカの歌を聞けーッ!」

 対抗して、里緒奈たちも前へ。

「このステージはもうSHINYのものなんだから! 恋姫、菜々留! せーのぉ!」

「「スマイルっ!」」

 元気いっぱいにジャンプもして、KNIGHTSのファンさえ惹きつける。

 正気に戻りつつあるファンは、まさかのライブ対決に唸った。

「SHINYが『ナイツオブラウンド』を歌ってる?」

「すげえ! すげえサプライズだよ、これ!」

 まだ半数以上のファンが目をまわしているものの、ボルテージが高まっていく。

 易鳥が力の限りに歌った。

「イスカひとりでも……勝つ! 今度こそSHINYに勝つ!」

 里緒奈たちもただひたすらに熱唱する。

「リオナたちだって!」

「KNIGHTSの曲だからって、負けるものですか!」

「ナナルだって! まだまだ歌えるわ!」

 コンサート会場の上空で、波紋と波紋とがぶつかりあった。

 易鳥の天音魔法がSHINYの歌声に遮られる。ついには勢いが逆転する。

 この勝負、楽曲においてはKNIGHTSが有利だ。

 しかし人数の上ではSHINYのほうが有利で。

「もう降参してください! 易鳥ちゃん!」

「往生際の悪い団長だね」

 郁乃と依織も易鳥の支配下から脱し、天音魔法の暴走を抑えに掛かる。

 妹の美玖が勝機を見出した。

「今だわ! 兄さん!」

「やるぞ、美玖!」

 ぬいぐるみの『僕』は妹の頭に乗っかり、美玖の魔法をサポート。

 美玖の魔法消去(ディスペル)を、『僕』の魔力で増幅しつつ、その範囲をコンサート会場の外まで拡大させる。

「「はあああぁあああーーーっ!」」

 魔法消去の波動が、空の雲をも吹っ飛ばした。

 鼓動のように響いていた天音魔法が、それきり途切れる。

「な、なん……だと……?」

 その青空を仰ぎ、易鳥は愕然とした。歌うことも忘れ、表情を強張らせる。

 天音魔法の効果が消滅したのだ。

 ぐるぐると目をまわしていたファンやスタッフが、続々と我に返る。

「……あ、あれ? おれ、仕事中に何やって……」

「なんでSHINYがいるんだ?」

 ついには美香留までステージへ飛び込んできて、大騒ぎに。

「みんなばっかりズルいってば! ミカルちゃんも!」

「上等デス! 今度はKNIGHTSの全員で相手してあげちゃいます!」

「……ち、ちょっと? レンキたちは普段着なのよ? これ……」

 収拾がつかないまま、ステージのライブ対決は二回戦へもつれ込む。

 妹の頭の上で『僕』は呆然としていた。

「事後の処理が大変そうね。頑張って、兄さん」

「……………」

「あと、ミクの首は美香留ほど頑丈にできてないの。早く降りてったら」

 どないせえっちゅーねん。

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