第318話

 そのあとは美香留のチア部や陽菜の体操部で匿ってもらって。

 ようやく美玖の怒りも静まり、夜には『僕』も寮へ帰ることができた。

 とりあえずKNIGHTSの易鳥に生存を報告しておく。

『お前が女にだらしない真似ばかりするから、美玖も苛立つんだぞ? 自重しろ』

「そういう話じゃないよね? えっ、これって僕のせいなの?」

 リビングにて、里緒奈や恋姫もお説教モードに入った。

「ウエディングドレスだなんて言っておいて、あんな透けそうな水着押しつけて……美玖ちゃんが怒るのも当然じゃない」

「しかもあんなに触って、撫でて……舐めてないだけじゃないですか」

「恋姫ちゃん? 自分の発言に疑問はないのかしら?」

 菜々留は余裕めかして落ち着き払っている。

 テレビゲーム中の美香留がヘッドフォンを外した。

「ウェディングドレスのサンプルはもらえなかったのぉ? おにぃ」

「さすがに値段が値段だからね」

「なーんだ。ミカルちゃんもおにぃと結婚式ごっこ、したかったのになあ」

 この少女も昔、ぬいぐるみの『僕』とよくその手のごっこ遊びをしたもので。

 メイドの陽菜が食後のお茶を運んでくる。

「ご主人様。今日のお仕事、そんなに大変だったんですの?」

「美玖だけ精神的負担を強いられたっていうか、うん」

「また水着だったのよ、水着。ハイレグのやつ」

 SPIRALの有栖川刹那からもらった紅茶の香りが、癒しとなった。

 興味ありげに陽菜が話題に食いついてくる。

「でも水着でしたら、ヒナ、いつも体操部でレオタードですので。仮に着ることになっても、そんなに抵抗はないと思いますの」

 菜々留はカップの音ひとつ立てずに紅茶を呷った。

「女子校の部活だもの。撮影だと、男のひとがカメラマンだったりするのよ? いくらPくんの魔法があっても……ねえ?」

「あ……ごめんなさい。そこまで考えてませんでしたの」

 恋姫が立ちあがり、陽菜の正面に迫る。

「大体、P君は抱き締める時の手の位置からして、おかしいんです」

 そう訴えながら、彼女は両手でメイドのお尻を引っ掴んだ。

「ひゃあっ?」

 スカートの中に手を突っ込んで。

「どうしてスタート地点がお尻なんですか? 肩とか腰とか、ありますよね?」

 さらに里緒奈もメイドの背後を取り、エプロン越しに巨乳を押し掴む。

「あ、あの……っ」

「お風呂でもいきなりおっぱいよねー。泡立てるとか言って」

 ギザギザの上で正座させられる心境だった。

「いえ、そのぅ……最初のうちは腰や背中だったと、思うんですが……みなさんに催促されて、やむを得ず、ですね……」

「おにぃ? なんかそれ、すっごい無責任に聞こえるんだけど?」

「デスヨネー」

 スクール水着越しとはいえ触ったり撫でたりしたのは、あくまで彼女たちに欲求されてのこと。しかしそれを女性のせいにするのは、言い訳としても最低の部類だろう。

 恋姫と里緒奈が間のメイドを揉みくちゃにする。

「にしても、陽菜さんも柔らかいわね……」

「ああっ、あの! ヒナ、女の子同士でこういうことは」

「お兄様が採用するわけだわ……はあ」

「そろそろ解放してあげて?」

 メイドさんが息継ぎするのを余所に、『僕』はプロデューサーとして襟を正した。

「それはそうと、みんな、お仕事以外で授業はサボらないって約束だったよね? 美香留ちゃん以外は土曜、お昼まで補習に出るように」

「えーーーっ!」

 いの一番に里緒奈が不満の声をあげる。

「ちょっと、ちょっと、Pクン? いくら何でも横暴っ!」

 それを一笑に付したのは美香留。

「授業サボったんだから、当然っしょ? ミカルちゃんはチア部に出よーっと」

「うぐぐ」

「おにぃは? お仕事がないんなら、チア部の指導に来て欲しいな~」

 メイドの陽菜も前のめりで戻ってきて、挙手した。

「体操部にもいらして欲しいですのっ!」

 ぬいぐるみの『僕』は菜々留の膝まで後退しつつ、応対する。

「ご、ごめん。その日は先約が入ってるんだ」

「……先約?」

「うん。易鳥ちゃんと――へぶっ?」

 ぬいぐるみのほっぺに握りこぶしがめり込んだ。

 右も、左も。砂時計のぬいぐるみになっちゃうぅ~。

「お兄たま? ナナルがナナルでいられるうちに白状しましょうね……?」

「ふぁ、ふぁくじょーなら、もうひて……っ!」

 皆に補習を言い渡しておきながら、『僕』だけ友達と遊びに行くのが、よほど気に入らないのだろう。と思いきや、美香留も口を尖らせる。

「おにぃのスケベ」

「わかった! 易鳥ちゃんにもハイレグのレースクィーン、着せるつもりね?」

「桃香さんという前科があるものね。ほんっと、P君は……」

 里緒奈といい、恋姫といい、何を言ってるのかね。

「どうせ着せるなら、ケイウォルスの白スクを着てもらうに決まってるじゃないか。白色のスクール水着。易鳥ちゃんはケイウォルスの生徒なんだし……ハッ?」

 ぬいぐるみの口にチャックを付けようかと、本気で悩んだ。

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